平凡社 世界大百科事典

標準化

標準standardを設定し,これを活用する組織的な行為。ここでいう標準は,測定標準(測定にあたって基準として用いる量,つまり単位の大きさを表す方法またはもの)と,規格・規定と呼ぶものとに区別できる。

測定標準

最も初期の長さの単位であるエジプトキュービットEgyptian cubitは,人間の中指の先端から〈肘(ひじ)〉までの長さであった。そしてこの単位の大きさを決めるときの基準となる人間は,支配者,予言者,大地主といったような地方ごとの主要人物であった。したがって同じキュービットといってもいく通りものものが通用していた。このような原始的な測定標準も,土地測量では,広く便利に用いていたが,建設工事となるとさらに小さい単位が必要になって,指尺,掌尺,指幅などが生まれた。その後交易上の必要から,体積の標準や,目方の標準が逐次開発された。日本の場合,これら度量衡は,中国の制度を導入したが,制度として確立したのは,大宝令(701)によるものが最初である。測定技術が発達するのにつれて,測定は度量衡に限らないで,測定標準の種類は急速に増大し,今日では,日常問題になるおおかたの測定量(測定しようとする量,状態)に対して,国際単位系(SI)に属する単位とその定義が国際的に定まっていて,対応する測定標準も存在し,これを基盤とする標準化を世界中で実施しており,ヤード・ポンド単位系や,従来のメートル単位系はSIに切り替わりつつある。日本では,取引,証明の行為に関連して,計量法によってこの標準化を強制的に実施し,社会の秩序の維持,経済の発展,科学技術の進歩におおいに役だてている。この種の標準化でたいせつなことは,トレーサビリティーtraceability(精度)を確保することである。つまり,標準器(ある単位で表された量の大きさを具体的に表すもので,実用する計測器の校正の基準として用いるもの),または計測器を,より高位の測定標準によって,次々と校正し,国家標準(国が所有するキログラム原器など)ひいては国際標準につなげる経路を確立することである。

規格・規定

規格・規定を基盤とする標準化は,実施の規模・水準によって,(1)国際標準化(世界的な条約・協定に基づいて加盟各国が協力して行う標準化),(2)国家的標準化(一つの国の中の,生産者,需要者,販売者,学識経験者,行政官など関係者が協力して行う標準化),(3)団体内標準化(一つの国の中の学会,協会,業界団体などで,それらの団体の会員が協力して行う標準化),および(4)社内標準化(一つの企業の内部で行う標準化)に区分できる。これらの標準化は,本来それぞれ自主的に行われるものであるが,品物やサービスについて経済的な効果をあげることを,第1に期待している点では,いずれも一致しているので,この観点からすれば,相互に密接な関係を保ち,国際標準化を頂部とし,国家的標準化・団体内標準化を狭み,社内標準化を基部とするピラミッド的な体系を形づくるように,総合的に運営されることが望ましい。なお,地理的,経済的,行政的に密接な関係をもつ国々が協力して行う〈地域標準化〉と呼ぶものがあり,ヨーロッパ地域,旧ソ連東欧圏などにその例をみるが,国際標準化が世界各国を含んでいるのに対し,地域標準化は関係する国を限っている点に違いがあり,前述の体系の中に位置づけるのは適当でない。また,一つの国の中の官公庁が,品物・サービスの調達にあたって行う標準化があり,予算の有効利用,調達業務の合理化におおいに役だっているが,この標準化は,前述の体系でいえば,社内標準化と同じ水準のものである。アメリカ合衆国の政府では,一般的には連邦調達庁,軍需については国防省が中心になって進めているが,国際的にも有名である。日本では,工業標準化法に〈国及び地方公共団体は,……日本工業規格を尊重しなければならない〉という規定があって,官公庁の調達における標準化を促進している。

(1)国際標準化 国際標準化は,国際規格を基盤とするもので,1906年に電気の分野から始まった。その他の分野で進められるようになったのは26年である。現在は,ISO(国際標準化機構,1947設立)およびIEC(国際電気標準会議,1906設立)を中心にして,加入各国が協力して進めている。このほかに,国際規格(必ずしもこう呼んでいないが)を定める機関としてはCIE(国際照明学会),ICAO(国際民間航空機関),ILO(国際労働機関),OIML(国際法定計量機構),UIC(国際鉄道連合)などがある。国際標準化の目的は,物資・サービスの国際的な交換を容易にし,また科学技術的,経済的,社会的な活動分野における各国の協力を発展させることにある。〈関税及び貿易に関する一般協定(ガット)〉の東京ラウンドで,貿易で用いる規格の違いや,規格に基づく認証制度の排他的・独善的な運用が,貿易障害につながっており,この障害を除くためには,国際標準化を推進する必要があるとして,その対策について規定した〈貿易の技術的障害に関する協定(通称,ガットスタンダードコード)〉の調印をみた。日本は,これに従って80年以降関係法規の改正を行うなど,協力を強化してきた。

(2)国家的標準化 日本では日本工業規格(JIS)および日本農林規格(JAS)を基盤として行われているが,われわれの日常生活にとって,直接的に最も深い関係をもつものであり,次のような効果が期待できる。(a)集中的な生産が可能になり,材料準備の簡易化,専用機械の使用の増大,治工具類の種類の減少,製造工程の単純化などによって,資材の節約,製品の品質向上,作業の安全の確保,製造コストの低減,納期の迅速化が達成できる。(b)供給者が品質保証をする,しかも支払う代価に十分に見合う,価値が高い品物・サービスの入手が可能になる。また,部品の互換性が確保されることによって,装着,部品交換,修理などが容易になる。(c)商品の荷送りや取扱いが簡易になり,また輸送力・貯蔵力が増大し,取引が単純公正化され,販売努力を集中でき,さらに客先苦情が減少し,アフターサービスも改善できる。(d)災害が発生したような場合,損害を最小限にとどめ,また復旧資材の提供を迅速化できる。危険物などの取扱いや公害について,適切な知識が与えられ,傷害を未然に防止できるなど,人命・財産の安全が確保できる。(e)社会生活における秩序の維持,経済性・コミュニケーションの改善が可能になる。ここに列挙した効果を通して,国家的標準化は,産業の発展,国民経済の増強,国民生活の向上,国民の福祉の増進に,きわめて大きな働きをするものであり,先進工業国は,1901年から25年くらいまでの間に,この標準化に着手し(日本は1921年から),最近では,中進国・開発途上国も国家規格機関(国家規格を定め,発行する機関)を設け,国家的標準化の推進に力を入れている。なお,国家規格の中には,ISO,IECで国際規格の原案作成の際の有力な資料になっているものが多い。

(3)団体内標準化 団体内標準化は,団体規格を基盤とするもので,アメリカ合衆国では1880年から始まり,現在でも諸国の中で最も盛んで,数百の団体で行っていて,団体規格の数も20万を超えるといわれている。アメリカの団体規格には,ASTM(アメリカ材料試験協会の規格),ASME(アメリカ機械学会の規格),API(アメリカ石油学会の規格),SAE(自動車技術会の規格),NEMA(アメリカ電機工業会の規格)のように世界的に著名なものがあり,ISO,IECによる国際規格の原案作成のときの有力な資料となっているものが多い。また,アメリカ規格協会(ANSI)が国家規格を定めるのにあたって団体規格をそのまま格上げして取り上げたものがあり,それには,たとえば,ANSI/ASTM E122というような規格番号がつけてある。上記のような状況からみて,アメリカの団体規格は,国家的標準化や国際標準化の基盤としての役目も果たしているといえる。日本では,電気や水道の関係において古くから行われてきているが,この20年ほどの間に急速な発達を遂げ,1984年3月末の時点で,約250の団体がこの標準化を進めていて,団体規格の数は約4100に達している。

(4)社内標準化 社内標準化は,社内規格・社内規定(組織,業務に関する管理標準)に基づくもので,これもアメリカ合衆国がもっとも早く取り上げ,1870年に始まっているといわれている(ヨーロッパでは,同じようなことを行ってはいるが,〈社内標準化〉に相当することばはない)。社内標準化は,企業の経営管理・経営合理化や,品質管理・品質保証には欠くことができないもので,企業の体質改善・業績向上に貢献するところは,きわめて大きい。一般の製造企業では,設計規格,製図規格,製品仕様書,材料仕様書,工程仕様書(作業標準を含む),検査規格,包装規格など社内規格のほか,経営方針管理規定,研究管理規定,新製品開発規定,設計管理規定,図面管理規定,生産管理規定,購買管理規定,外注管理規定,工程管理規定,設備管理規定,用度品管理規定,人事管理規定,労務管理規定,安全管理規定,衛生管理規定,教育訓練規定,提案制定規定,倉庫管理規定,在庫管理規定,運搬管理規定,社内標準化規定,品質管理規定,計測管理規定,原価管理規定,経理規定,文書規定,組織表,業務分掌規定,職務明細書,販売管理規定,苦情処理規定,市場調査規定などの諸規定(以上は,いずれも総称であって,それぞれに規格や細則が含まれる)を定めて活用している。なお,技術発達が早い分野について,国際規格を定めようとする場合,国家規格・団体規格も整備されていない状況にあるため,世界企業であるIBM社などの社内規格が国際規格原案作成の際の有力な資料となることがある。

東 秀彦