平凡社 世界大百科事典

星表

通常は恒星の天球上の位置を記載したカタログを意味するが,スペクトル,視線速度などの物理量の各種専門的な星表もある。古代の中国の星表には魏の時代(前4世紀ころ)の掃天観測に基づくといわれる《石氏星経》などがある。プトレマイオスの《アルマゲスト》にある星表はヒッパルコスの前2世紀ころの1022個の星の位置観測を138年の座標に換算したもので,その後中世までの諸星表はこれを原典として座標を換算しただけのものが多い。ティムール王朝のウルグ・ベクは,1420年サマルカンドに天文台を建設,ここでの観測の成果はウルグ・ベクの天文表(1437)にまとめられた。星表の記載形式はプトレマイオスのものと同じで,星1018個が記録されている。プトレマイオス星表以後15世紀ころまでに実測に基づいて作られた唯一の星表である。なお,望遠鏡発明以前に実測によって作られたもっとも精密な星表はチコ・ブラーエ星表である。最初の科学的な星表・星図はフラムスティードが望遠鏡を用いて実際の観測に基づいて編んだもので,フラムスティード星表(1712-25)と呼ばれている。6等よりも明るい星を各星座ごとに赤経順に1,2,3,……と命名した。この番号は今も星の名まえとして用いられている。以下,19世紀以後のおもな星表を性格別に示す。

 掃天カタログは空の広い範囲にわたって星を残らずしらみつぶしに観測して作製したもので,精度を重視する基本星表とは性格が違う。北天のボン星図・星表と南天のコルドバ星図・星表とがこれの代表で,両者で全天合計106万の10等までの星を網羅し,19世紀から今世紀初めにかけて出版。これの番号も星の名まえとして用いられている。南アフリカのケープ天文台で写真観測によって作ったケープ写真掃天星表Cape Photographic Durchmusterung(略してCPD)は,赤緯-18°以南の星45.5万個を記載している。

 基本星表は位置天文学の基本資料として最高精度の位置(赤経,赤緯とも±0.″01の桁を目標)と固有運動とを記載する。高精度の固有運動値を求めるためには長年にわたり子午環によって太陽に準拠して観測した赤経,赤緯の資料が必要で,固有運動値の精度が悪いと年数の経過に比例して位置の誤差が拡大する。最高精度の基本星表はFK4(1963)で,星を厳選したために星の数は1535にすぎない。ほかにボスLewis Boss(1846-1912)の3万3342星を収録したBGCカタログ(1937)や5268星を収録したN-30なども基本星表の性格をもつ。

 基本星表の星を基準にやや暗い星までを子午環観測して編んだカタログの代表的なものはAGK星表(Astronomische Gesellschaft Katalogの略)で,1869年に15の天文台がボン掃天星表の星を赤緯帯にくぎって分担,観測したことに始まる。初版AGK1星表は1890-1910年に出版,14.4万の星を記載,のちに緯度帯を拡張し,また固有運動の精度を向上して1960年代には第3版AGK3星表が編纂(へんさん)され,結局20万の星がFK4に準拠して記載された。SAO星表(Smithsonian Astrophysical Observatoryの略)は人工衛星の写真観測の基準とするために,星の全天一様な分布を目標としてAGK2とケープ天文台の緯度帯カタログから星を選んだ星表で,25.9万の星を記載し,位置と固有運動はFK4に準拠し,精度±0.″1を目標とする。またスペクトル型も記載してある。カルト・デュ・シエルCarte du Ciel(略称CdC,別名Astrographic Catalogue(略称AC))は,1887年に18の天文台が同型の屈折望遠鏡による分担撮影を協定して観測を開始し,乾板は2.°2角,1mmが角度1′に相当し,14等までの星の位置を精密に測った。1世紀を経てようやく完成し出版されつつある。全部で約150冊,星数は数百万にのぼる。

 星の位置以外の専門的カタログには,スペクトル型のヘンリー・ドレーパー星表(1918-24年,22.5万星),R.G.エイトケンの二重・多重星カタログ(略称ADS,1935年,1万7180組),ソ連科学アカデミーの変光星カタログ(1980年,2万8254星),またS.アダムスの分光視差カタログ(1935年,4087星),ジェンキンスの三角視差カタログ(1952-63年,6400星),ラッセル=ムーアの力学視差カタログ(1940年,2529組),ウィルソンの視線速度カタログ(1953年,1万5106星),恒星以外ではメシエ星表,NGC星表などの星雲,星団のカタログなどがある。

大沢 清輝