平凡社 世界大百科事典

静電気

静止して動かない状態にある電気を静電気といい,動いて電流を生ずる動電気と区別する。この状態は導体のみからなる系ではエネルギーが最小となる電荷分布に対応し,また電荷が電気抵抗の著しく高い物体(固体,液体,気体)の表面や内部に存在する場合にはその動きが緩慢となり,静電気とみなしうる。すなわち,電荷の動きが多少あっても,電荷の作る電場の効果が電流の効果(磁場の形成や発熱など)よりも顕著な限りこれを静電気と呼ぶことが多い。物体は本来正負等量の電荷を有しているが,なんらかの原因でその平衡がやぶれたとき,正または負電荷の過剰分だけ電気を帯びる。これを帯電electrificationといい,絶縁物どうし,または絶縁物と導体の接触(接触帯電),これらの間の摩擦(摩擦帯電),絶縁性液体や高抵抗粉体のパイプ中の流動(流動帯電),固体の破砕(破砕帯電),液体の凍結(凍結帯電),液体や粉体の噴出(噴出帯電)など種々の原因で発生する。とくに応用を目的として人為的に物体を帯電させる場合には,コロナ放電による単極性イオンの射突,静電誘導による電荷の誘起,制御された接触帯電などが広く用いられ,研究用には紫外線,X線,電子ビーム,イオンビームなどの照射が用いられることもある。

 物体が帯電するとその周囲の媒質内に電場を生ずる。電場の大きさはその点に置かれた単位電荷に働く電気力で測られ,帯電電荷の量に比例して大きくなる。電場の形成によって出現する現象を静電現象といい,電気力に起因する力学現象と放電現象がもっとも重要である。まず力学現象についてみると,E(V/m)の強さの電場中にQ(c)の点電荷を置くと,これにFQE(n)の力が働く。この力をクーロン力Coulomb's forceと呼ぶ(クーロンの法則)。また帯電物体が導体や誘電体に近づくと,これに吸引される。電場の強さが場所的に異なるときには,この中に置かれた誘電体(媒質よりも大きな比誘電率を有する),または導体は電場の強いところに吸引される。ただし,誘電体の比誘電率が媒質よりも小さいとき(油中の気泡など)にはこの力の向きは逆となり,また電場中に多数の誘電体や導体があるときはそれぞれが分極し,分極状態の粒子相互の電気的作用力によって電場方向に数珠玉状に配列される。さらに電場中に細長い誘電体ないし導体が置かれた場合には,電場の方向に配向する。交番不平等電場中に帯電粒子を置くと,粒子は電場の弱いところへと反発され,これを利用して粒子を空間に浮上させることができる。この場合,多相交流を用いて不平等移動電場を作ると,帯電粒子は浮上された状態で電場の移動方向,またはその反対方向に運ばれる。このように静電的力学現象はきわめて多様性に富み多くの応用を可能とするが,一般にその対象とする物体は細かい粒子(粉体,液滴)や細長い繊維,薄いシートなど,体積に比して表面積の大きなものに限定される。これは静電力が主として表面力であることによる。

 次に放電現象であるが,これもコロナ放電,火花放電,沿面放電など種々の形態をとる。とくに強力に帯電した粉体や液滴が空間に浮遊して空間電荷雲を形成するときは,とがった接地物からこれに向かってストリーマーコロナを生ずる。また,このような空間中に孤立導体があると,空間電荷電場で分極し,これに接地物が近づいたとき火花を生ずることもある。

利用と防除

静電気と人間生活とのかかわりには,静電現象を有効に利用する静電気応用と,そのもたらすさまざまな災害をいかに防止するかという二つの側面がある。静電気応用の大部分は静電気力の利用が占めている。すなわち,工場の排煙や室内空気中の微粒子をコロナ放電を利用して荷電させ,クーロン力で除去するエレクトレットはマイクロフォンなどに,またこれを繊維状にして不織布にしたエレクトレットファイバーフィルターはマスクなどに用いられる。

 静電気障災害については,まず粉体,繊維,シートなどの帯電による物体への付着やからみつきのような力学的障害がある。また静電気放電による半導体部品の破損やコンピューターの誤動作など静電気ノイズ,あるいは放電痕跡による製品の品質低下もある。人体が帯電して接地導体に接触放電する際に電撃を感ずる。静電気放電で可燃物や爆発性ガスが着火することも多く,しばしば火災や爆発などの静電気災害を起こす。これら静電気災害の防止は,物体の導電性を高めて電荷を迅速に逃がす方法,また発生した電荷にアイソトープや交流コロナ放電を利用した除電器で異極性のイオンを供給してこれを中和する方法などがとられる。なお,静電気測定にはファラデーゲージによる電荷測定,高入力抵抗の電位計による静電電位測定,微小電流測定,高抵抗測定が重要である。

増田 閃一