平凡社 世界大百科事典

蒸気タービン

高温高圧蒸気のもつ熱エネルギーを機械的仕事に変換する蒸気原動機の一形式。蒸気原動機には,蒸気機関と蒸気タービンがあるが,前者が蒸気の静的圧力を利用してピストンを往復運動させ仕事をするのに対し,蒸気タービンでは,図1に示すように,まずノズルで高圧蒸気を膨張させて高速蒸気流を作り,これを回転円板の周囲に密接して植えられた反りをもった羽根の列にあてる。そして羽根を出るまでに蒸気の流れの方向を変え,その際羽根が蒸気から受ける反力を利用して羽根を回転させることによって仕事を行うものである。

歴史

蒸気を用いて回転運動を行わせる装置の着想は1世紀ころにさかのぼり,アレクサンドリアのヘロンは,ボイラーから発生する蒸気が,支柱管を通って球状の回転体に入り,これに取り付けられた2本の曲管から互いに反対方向に高速噴流となって吹き出し,球体がその反動で蒸気の噴出方向と逆向きに回転する装置を考案しているが,これは後で説明する反動タービンの原型といえるものである。長い空白ののち,1629年ごろに至って,イタリアの建築家G.ブランカによって,後述の衝動タービンの原型というべき考案が記録されている。それは,人形の形をしたボイラーから発生する蒸気が,人形の口につけた細管から高速噴流となって羽根車に吹きつけられ,羽根車を回転させるというもので,回転は歯車装置を経てカム軸に伝えられ,棒に上下運動を起こさせて,下の容器中の穀物をつくようになっている。

 蒸気原動機はボイラーおよび復水器と一体となって,蒸気原動所を構成して初めて機能するものであるが,18世紀の蒸気動力の最初の実用化に当たって,その動力発生部分としてもっぱら用いられたのは,古くから着想のあった蒸気タービンではなく,蒸気機関であった。蒸気機関は構造が比較的簡単で,当時の機械材料や未熟な工作技術で実現が可能であったことに加えて,当時は比較的低速で力の強い原動機が実用に適していたためと思われる。これに対して,蒸気タービンの実用化には,大きい遠心力に耐え複雑な形状をした羽根,あるいは高速回転体のつり合いや軸受などに関して材料の進歩と加工技術の発達を待たねばならなかった。

 蒸気タービン実用化の道が開かれたのは19世紀の終りになってからであり,スウェーデンのド・ラバルCarl G.P.de Laval(1845-1913)による単段の衝動タービンの製作(1883),イギリスのパーソンズCharles A.Parsons(1854-1931)による多段の反動タービンの製作(1884)に始まる。とくに後者は,本質的な形式の変化もなく今日の大出力機に受け継がれている。衝動タービンについては,その後,1896年アメリカのカーティスCharles G.Curtis(1860-1953)によって速度複式タービンが作られ,相前後して,97年にはフランスのラトーAuguste Rateau(1863-1930)により,また,1903年にはスイスのツェリーHeinrich Zoelley(1862-1937)によって,それぞれ独立に,蒸気の熱エネルギーを多数の段によって速度エネルギーに変換する形式の圧力複式衝動タービンが製作され,大出力化への道が開かれた。蒸気タービンはトルクはあまり大きくないが,高回転数とすることにより大きい出力を出せるという特徴をもっており,この特徴が発電機駆動用原動機としてうってつけのものであったため,その進歩はまさに電力使用の始まりとその需要の拡大と軌を一にしている。

作動原理と形式

蒸気タービンの基本構成要素は,蒸気を膨張させて高速気流とするノズルと,仕事を行う回転羽根であり,この1組を圧力段,あるいは単に段と呼び,本質的には図1で代表される。大型タービンは多数の段から構成される。この場合,ノズルはこの図のように離散的ではなく円環状に密に並べられ,羽根車の全周に隙間なく蒸気噴流があたるようになっており,回転羽根を出た蒸気は次の段のノズル入口に面することになる。このような多段式蒸気タービンの1段を取り出し,蒸気流の中心面,つまりタービン軸を中心線とし羽根高さの中央を通る円筒面で切り開いた展開図が図2であって,これを用いて蒸気の流れを考えてみよう。蒸気はノズルから絶対速度c1で流出するが,回転羽根が周速uで運動しているため,回転羽根には相対速度w1で流入する。そして蒸気流は回転羽根内で向きを変え相対速度w2で流出するが,周速uを加えれば,回転羽根出口での蒸気の絶対速度はc2となる。回転羽根の入口と出口における速度の関係を取り上げて,図3にあらためて示した。この図で,蒸気の周方向速度は回転羽根の入口と出口の間で(c1uc2u)の差がある。したがって,蒸気の単位時間当りの流量をGとすれば,回転羽根を通過する蒸気流は単位時間当りGc1uc2u)の周方向の運動量変化を受け,その反作用として,回転羽根は同じ大きさの力を周速の方向に受けることになる。結局,この力に周速uを掛ければ,この段で発生する単位時間当りの仕事が得られ,それはGuc1uc2u)となる。

 このことからわかるように,仕事を発生させる根元は蒸気流の回転羽根入口と出口の周方向速度差(c1uc2u)である。この周方向速度差を生み出す方法の違いが,衝動タービンと反動タービンの形式を分けている。ここで簡単のため,羽根車の半径が無限に大きいとして,図2の回転羽根は速度uで近似的に直線運動しているものとすれば,回転羽根とともに動く座標系は慣性系となって,回転羽根に対する相対的な流動を考える限り回転羽根があたかも静止していると同じに取り扱える。したがって,回転羽根の出口部の圧力を入口部の圧力より低くすれば,ノズルの場合と同様に,回転羽根出口相対速度w2は入口相対速度w1より大きくなる。一方,回転羽根の出入口間に圧力差がないようにすれば,w2w1と変わらない。実際この圧力差を0としたものが衝動タービンであって,段にかかる圧力差はノズルで一挙におとされる。この場合の速度線図は図3の上のようになり,回転羽根出入口間の周方向速度差(c1uc2u)は,回転羽根の反りにより蒸気の流れ方向が変わることによってもたらされていることがわかる。これに対して,反動タービンでは,回転羽根の上流と下流に圧力差を設け,段にかかる圧力差はノズル(反動タービンでは固定羽根と呼ぶ)と回転羽根の両方に振り分けて消費される。この場合の速度線図は図3の下のようになり,(c1uc2u)は回転羽根の出入口間で流れの向きが変わることと,w2w1より大きくなることの二つが原因で引き起こされている。

 蒸気タービンは多くの場合発電機の駆動に用いられ,発電機の回転数は日本では3000rpmか3600rpmに決まっている。衝動タービンで構成された段を衝動段,反動タービンで構成された段を反動段と呼び,同一回転数かつ同一径という条件のもとで比べれば,衝動段のほうが反動段より大きい圧力差を1段で消化することができる。したがって同一出力でも衝動段を用いた衝動タービンのほうが小型にできる。この長短をちょうど補うように,効率は反動タービンのほうが優れている。1段当りの出力が非常に大きくとれる形式としては,段にかかる圧力差をノズルで一挙に速度エネルギーに変え,これを複数列の回転羽根で順次仕事をさせる速度複式衝動タービンがある。なお,出力調整などの目的で蒸気を環状通路の一部だけに流す場合があり,これを部分送入と呼んでいる。衝動段では部分送入が可能であるが,反動段では蒸気の流れている部分と流れていない部分とで回転羽根の上流部の圧力に違いが生じ,蒸気のまわり込みが起こって著しい損失を生ずるため適用できない。

構造

実際の蒸気タービンは,一般に多数の段を並べて構成されており,ボイラーから供給された蒸気は各段を次々と通過して仕事をし,排気室を経て復水器へいく。タービン軸はタービン車室(ケーシングともいう)内で両側を軸受によって支えられて回転し,タービン軸がタービン車室を貫く場所には蒸気の漏出や空気の漏入を防ぐためのパッキングが設けられる。タービン軸の一端は継手によって発電機などに連結され,他端はスラスト軸受で支えられる。

用途

蒸気タービンはボイラーおよび復水器と一体となって蒸気原動所を構成して初めて機能し,非常におおがかりな一連の装置を必要とするだけに,きわめて大きな出力を必要とする分野で利用するのが有効であり,事実,他の熱機関ではとても及ばない出力のものも構成できる。すなわち,今日,大型ディーゼルエンジンが4万kW程度まで,また陸用のガスタービンが10万kW程度までの範囲で用いられるのに対して,蒸気タービンでは100万kW,あるいはそれ以上の出力のものを作ることも可能である。蒸気タービンは,高回転数における優れた特性と大容量化への可能性により,歴史的にも電力需要の拡大に歩調を合わせて発電機駆動用原動機として発達を遂げてきた。今日でも,蒸気タービンの最大の用途は発電用であり,火力発電所はもとより,これと原理的には同じ蒸気サイクルを用いている原子力発電所の原動機として,日本の電力発生の実に8割を担っている。火力発電所の蒸気サイクルにはふつう再熱再生サイクルが用いられており,また排気を復水器でできるだけ低圧にする形式のもの(復水タービン)となっている。大型蒸気タービンではタービン入口から出口までに,蒸気の温度と比体積がともに著しく変わるため,タービン車室をいくつかに分割して,熱膨張の無理を避けるとともに体積流量の増大に対処している。生産工場では,各種の処理や蒸発乾燥などの作業のための熱源として,比較的低圧の蒸気をかなり多量に必要とする場合がよくある。このような場合には,工場で必要とする蒸気より高い圧力の蒸気を発生するボイラーを設置し,背圧タービンや抽気タービンを備えて,電力会社の発電価格より安く電力を得ることがしばしば計画される。蒸気タービンのもう一つの用途は大型船舶の主機関としてであり,この場合も復水タービンが用いられる。ただし出力が5万kW以上では蒸気タービンを主機関として選ばざるをえないが,それ以下の出力範囲であれば大型ディーゼルエンジンで達成可能であり,最近の大型ディーゼルエンジンの熱効率は同出力規模では蒸気タービンを上回るため,石油危機による燃料の高騰以降,ディーゼルエンジンを採用する船が多くなっている。→蒸気原動所

田中 宏明
図1~図3
図1~図3