平凡社 世界大百科事典

ステロイド

飽和四環炭化水素からなるステロイド核(シクロペンタノヒドロフェナントレン環,図1)を有する一群の化合物の総称。ほとんどすべての真核細胞にあまねく分布し,種々の機能や特異な生物活性を担っており,ひじょうに多くのものが分離されている。ステロイド核は,イソプレンが6個つながったトリテルペンであるスクアレンが閉環してできるラノステロール(図2)を経てつくられる。この生合成反応はミクロソームにおいて行われる。ステロイドは互いに二重結合の位置と数,置換基の種類,その部位と数,置換基の立体配座(α,β),環相互の立体配座によって区別される。置換基は主としてA環の3位,C環の11位,D環の17位に限られている。

 最も普遍的に存在するものは3位に水酸基をもつアルコールで,これはステロールsterolあるいはステリンSterinと総称される。動物組織に最も大量にあるステロイドはコレステロール(図3)で,遊離または3位の水酸基の長鎖脂肪酸のエステルの形で存在する。脳,神経組織,副腎に最も多く,腎臓,肝臓,皮膚にもかなり含まれている。コレステロールは細胞膜の構成成分として重要であるが,血漿(けつしよう)リンタンパク質としても存在する。コレステロールは動物のさまざまな生理機能をもつステロイドの前駆体となっている。コレステロールは植物にはほとんど存在せず,植物由来のステロールはフィトステロールphytosterolと総称され,ダイズなどに存在するスチグマステロール(図4)や綿実油やダイズ油中に存在するシトステロールがその例である。酵母やキノコ類のステロールはミコステロールmycosterolと呼ばれ,そのうちエルゴステロールergosterol(図5)は太陽光(紫外線)の照射によって,カルシウムの生体輸送と沈着に役割を果たすビタミンD2に転化する重要な分子である。

 生理的に重要なステロイドには以下のものがある。胆汁酸(コール酸とデオキシコール酸,図6)は腸管における脂質の乳化と吸収に(その界面活性剤として)役割を果たしている。女性ホルモン(エストロン,エストラジオール),男性ホルモン(テストステロン),黄体ホルモン(プロゲステロン),副腎皮質ホルモン(コルチコステロン,アルドステロン,コルチゾン),昆虫の変態ホルモン(ホルモン

大隅 良典
図1~図7
図1~図7