平凡社 世界大百科事典

聴診器

聴診を行うために身体の外側から音を聴くための用具。1816年フランスのR.T.H.ラエネクによって発明された。それ以前の聴診は身体に直接耳を当てて聴く方法(直接聴診法)であった。丸太の端を釘でこすり,伝わってくる音を反対側の端に耳を当てて聴いている子どもたちの遊びからヒントを得たラエネクが,厚紙を巻いて作った円筒を患者の胸に当てて心音を聴診したのが初めといわれる。彼は木製の筒を作り,それにギリシア語で〈胸stēthos〉と〈注視することskopos〉を意味する言葉を結びつけてstéthoscopeという名を与えた。そして膨大な症例を聴診し,その音を記録して,死後の解剖所見との対比を行い,19年《間接聴診法について,あるいは,主としてこの新検査法による肺および心疾患の診断法について》(《間接聴診法》と略称)という論文を発表し,今日の聴診器を使った聴診法の基本を確立したのである。その後,X線が発見されるまでの1世紀間,間接聴診法は打診法とともに胸部を検査するための唯一の方法であった。

 聴診器は胸壁や身体表面のわずかな振動を空気の振動に変え,効率よく耳まで伝える道具である。ラエネクの木製の聴診器に似た1本の筒型のもの(単耳型)は,妊婦の腹部の上から胎児の心音を聴くための〈トラウベ聴診器〉として今日でも使われている。今日最も広く使われている両耳で聴く型のもの(双耳型)は,54年アメリカのカンマンGeorge Philip Cammann(1804-63)によって発明された。これは,身体表面の振動を音に変える役目をするヘッドの部分と,音を弱めずに耳まで導くためのゴムや高分子材料を用いたチューブとからできている。ヘッドには,小さな椀をふせたようなベル型のタイプと,薄い振動板を張って音を拾う膜型のタイプとがある。膜型のほうがより高い音を拾い,目的によって使い分ける。しかし,今日の音響機器で重要視される周波数特性という点からみると,いずれの聴診器もヘッドやチューブ共振点が心音や肺音の周波数分布領域である1000Hz以下にあって,厳密な意味で特性のよい音響変換器とはいえない。最近では,ヘッドの部分を一種のマイクロホンにして,電気的に音を増幅して聴く電気聴診器なども開発されている。

工藤 翔二