平凡社 世界大百科事典

死産

妊娠時期にかかわりなく,胎児が母体から完全に排出または娩出される以前に死亡している分娩をいう。したがって,出生時瞬時でも呼吸,心拍動,臍帯(さいたい)拍動,随意筋の運動など生きている徴候がみられた場合には,たとえ生存不可能な程度の未熟児や奇形児であっても生産児であって,死産児ではない。死産には自然死産と人工死産がある。合法的な人工死産とは,医師によって行われるもので,胎児の母体内生存が確実なときに,堕胎罪となる。人工死産以外の死産は自然死産であるが,母体の疾病治療のための手術や投薬,胎児を出生させることを目的として加えられた人工的処置,胎児の不明なときや死亡しているときに加えられた人工的処置による死産も自然死産とされている。一般に自然死産は妊娠時に胎児が死亡した子宮内胎児死亡と分娩が開始してから娩出するまでの産道内死亡とに分けることができる。子宮内胎児死亡の原因は妊娠中毒症,糖尿病等の母体の異常,常位胎盤早期剝離(はくり)等胎盤または臍帯の異常,胎児奇形,血液型不適合(とくにRh不適合)妊娠等があげられ,分娩時の産道内死亡も,難産をはじめとする多くの原因によって起こる。自然死産は母体の管理により防ぐことができるものが多いので,妊娠中の的確な管理により死産の減少が期待できる。

 医師による人工死産には母体保護法に基づくものと基づかないものがある。前者は,胎児が母体外において生命を保持しつづけることができない時期に,医師会の指定する医師によって,(1)妊娠の持続または分娩が身体的・経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるとき,(2)暴行や抗拒不能状態で姦淫されて妊娠したときに行われる人工妊娠中絶である(母体保護法14条)。後者は,これら以外の理由で母体を疾病から救うために行われる人工妊娠中絶である。

 人工妊娠中絶を行った医師は,その月中の手術結果をまとめて翌月10日までに理由を記して都道府県知事に,妊娠満12週(第4月)以後の死産児を検案して異状があると認めた医師および助産婦は,24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。また,妊娠満12週以後に死児を出産したときは,届出義務者は医師または助産婦の死産証書を添えて,死産後7日以内に届出人の居住地または死産したところの市区町村長に届け出なければならない。

死産証書(死胎検案書)

妊娠満12週以後の死産において医師または助産婦が発行する書類で,死産届の添付書類として必要なものであるが,医師や助産婦の立会いなしに死産した場合は,この書類がなくても死産届は可能である。

若杉 長英+八神 喜昭