平凡社 世界大百科事典

気孔

陸上植物の表皮にある通気孔で,炭酸ガス・酸素・水蒸気などの出入口となっている。水中に起源した植物が約4億年前に陸上に進出してきたとき,乾燥にどう適応するかは最も重要な進化の条件の一つであった。維管束によって水の通道をよくし,表皮組織をクチクラで包んで水が漏れるのを防ぐ一方で,通気孔としての気孔をつくり,かつ気孔の縁にある2個の孔辺細胞guard cellの開閉によって水の蒸散の調節を行うことで,植物はこの課題を克服している。孔辺細胞の周辺に2~4個の助細胞subsidiary cellのある場合もあり,これらの細胞も含めて広義の気孔(または気孔装置)ということもある。植物体の水の蒸散量は気孔を経ないいわゆるクチクラ蒸散が5%前後であるのに対し,面積では1%にも満たない気孔が95%も関与しているということから,気孔の役割の大きさが理解される。孔辺細胞はふつう腎臓形で壁の厚さに部域差があるため,細胞内の膨圧の変化に伴って変形し,気孔の開閉が行われるようだが,開閉のメカニズムについては諸説があり,まだ明らかにされていない。種子植物では表皮組織の細胞には葉緑体が含まれていないのに,孔辺細胞には含まれている。このことからも,炭酸同化や呼吸に伴って孔辺細胞の内部に生じる変化が膨圧の変動の一因をなしていることが確かめられる。

 気孔はふつう葉の裏面にみられるが,表面のみにあるもの(スイレン),両面に同じように分布するもの(ヒロハコヤナギ,カラスムギ)もあり,茎の表面にもふつうにみられる。また維管束植物でも,水の中で生活しているもの(水生顕花植物など)では気孔がなくなっている例があるし,コケシノブ科のように葉面の細胞層が1層に単純化しているものでも,当然のことながら,気孔は発達しない。ホウビシダの半水生変種であるヤクシマホウビシダでも,葉面の細胞層の単純化に対応して気孔が失われている。コケ植物では,ツノゴケ類の胞子体に気孔がみられ,ゼニゴケ類などでは配偶体に気室air chamberがつくられ,細胞壁の垂直方向の割れ目が呼吸口として開口する。フローリンR.Florinは裸子植物の気孔の構造を比較研究し,その形成過程に2型あることを明らかにしたが,その差が裸子植物の系統分化の過程と一致していることを示した。このように,気孔の形成過程と植物の類縁との関連も重視されている。また,植物体内の過剰水分を排出する装置としては水孔water poreもあるが,これは葉の先端や葉縁などの脈端にあって,2個の孔辺細胞で構成されるが,水孔の孔辺細胞には特殊な壁肥厚もなく,葉緑体ももっていないので細胞の変形による開閉は行わない。温度の低い早朝など,葉末にたまる小さな水玉は水孔から排出された水の滴である。

岩槻 邦男