平凡社 世界大百科事典

倉庫

物品を一時的あるいは長期にわたって保管貯蔵するための建物,あるいは室。現代の倉庫の分類等については後半の〈倉庫業〉を,また日本の伝統的な倉庫については〈倉,蔵(くら)〉の項目を参照されたい。

西洋

古代メソポタミアおよびエジプトでは,日乾煉瓦でつくられたドーム型の穀倉が用いられ,ときには直径10mに及ぶような大型のものがつくられた。直径4m以下の小ドームは,今日でも穀倉,畜舎,住宅として,古代とまったく同じ方式で建てられているところがある。古代の倉庫のもう一つの形式は日乾煉瓦造のトンネル型で,幅3m前後の細長い室を並べ,それぞれをボールトで覆ったもので,各トンネル内部の両側に物品を置き,中央を通路とした。この種のものは,エジプト新王国の神殿付属倉庫(マディーナト・ハーブーのラメセス3世神殿など)やクレタ島のクノッソス宮殿(前1400ころ)などに見いだされる。古代ギリシアでは,オリュンピアやデルフォイのような著名な神域に,各都市国家が寄進した宝庫があるが,これらは通例小型の神殿形式をとっていた。また建築家フィロンPhilōn(?-前310)がペイライエウスPeiraieusに造った武器庫(前4世紀)は,間口16.5m,長さ120mに及ぶ石造の大建造物で,内部は3廊に分かたれ左右の廊は二階建てとし,アテナイ海軍の船具類を収蔵していた。古代ローマでは,ローマ市やオスティアにホレウムhorreumと呼ばれる大規模な倉庫建築があり,列柱廊のある中庭を囲んで,幅が狭く奥行きの深い多数の室が並べられていた。他方,軍団や農場の倉庫や穀倉は,一室の独立した建物を建てるか,建物内の通例の室をあてることが多かった。

 西欧中世の倉庫は,ローマの軍団や農場の倉庫の系統を受けつぐもので,そのほかに教会への十分の一税としての農産物を収納する納屋tithe barnが教区に一つ建てられるのが通例であった。中世後期からルネサンスの都市国家では,しばしば武器庫が公共の倉庫として建てられた。ルネサンス期以降は,建物の上階や屋根裏に穀倉を設け,地階にワイン,ビールや食品の貯蔵庫を設けることが一般化した。

桐敷 真次郎

近世の倉庫と商館

ヨーロッパにおける近代的な倉庫の原型は,イスラム世界の影響下に出現したと考えられる。マガッジーノmagazzino(イタリア語),マガジンmagazine(英語),マガザンmagasin(フランス語)およびフォンダコfóndaco(イタリア語)など〈倉庫〉を意味する言葉は,いずれもアラビア語に由来する。イスラム世界の地中海沿岸地域に多数存在したフンドゥクfundugは,倉庫と宿泊施設を備えた建造物であった(キャラバン・サライ)。外来の商人は荷物をマフザンmakhzan(倉庫)に預け,仲介人を利用して土地の商人と交渉することが義務づけられていた。フンドゥクは商人の宿泊,保護,商品の保管を行うだけでなく,権力者の商業政策および関税徴収のための機構であった。また商品の保管証を発行したので,これが後代の倉荷証券の役割を果たした。イタリア商人がこの制度を12~13世紀のヨーロッパに持ち込んだ。ベネチア,ピサ,ジェノバなどの商人は,シリア,エジプトの商業中心地のフォンダコを拠点に活発な活動を行った。都市政府の側でも外地にいる商人を援助しようとし,代表を任命して自治的な活動を行わせた。このようなフォンダコは〈商館〉と訳される。ベネチアで1288年に作られたドイツ人商館(フォンダコ・デイ・テデスキFóndaco dei Tedeschi)がとくに有名である。これらは一種の保税倉庫であり,〈倉荷証券〉の発行,それに対する商人の信用供与が行われた。ハンザ都市もロンドン,ノブゴロドなどに有名な商館を置いていた。中世の倉庫は財政上・商業政策上の必要から作り出されたもので,特権商人に結びついていた。また保管する品物の量・価格に応じて倉庫料を徴収するのではなく,特定の倉庫ないしスペースを貸与する形をとった。これに対して私営業としての倉庫は自由な商業の発達を前提としている。18世紀のイギリスは国家市場が統一され,全国的に活発な商業交易が行われ,地理的・社会的分業が進行していた。このような中で,中世以来の管理技術をうけつぎながら私営業としての倉庫業が成立した。

清水 廣一郎

中国

中国では,《唐律疏議》巻十五に〈倉とは粟麦の属を貯うるをいい,庫とは器仗綿絹の類を貯うるをいう〉とあるように,厳密にいえば倉が牙行が倉庫を兼営するにいたり,行店あるいは行桟などと呼ばれた。

礪波 護

日本の倉庫業

他人のために物品を倉庫(営業倉庫)に保管する営業を倉庫業という。日本における近代的な倉庫業の起源は,1880年創業の三菱為替店(三菱倉庫の前身)が,同年深川にある真田氏の蔵屋敷をうけついで蔵敷業を開始したことに求めることができる。現代では倉庫業法(後述)に基づく許可制の事業である。倉庫業には普通倉庫業,冷蔵倉庫業,水面木材倉庫業の3種があり,倉庫業法の適用を受ける。普通倉庫業は電気製品,食料品,繊維品など普通の物品を保管するもので,全国の倉庫業者の大部分はこの業種である。なお,普通倉庫は設備の状況により,1~3類倉庫(普通倉庫の大部分は1類倉庫で,2類倉庫は主として皮革,肥料,セメントなど,3類倉庫はガラス類,地金,鋼材などを保管),危険品倉庫,野積倉庫,貯蔵槽倉庫(サイロ)に区分される。冷蔵倉庫業は生鮮魚貝,畜産品,青果物などを取り扱い,水面木材倉庫業はその名のとおり港湾,川,湖,池,プールなどで木材を浮かせて保管する。なお第1~3類倉庫の合計所管面積は316万m2,冷蔵倉庫の所管容積は238m3である(1994)。

 倉庫業の第1の機能は物品の保管である。通常は預けられた品物をそのまま寄託者別に分けて管理し,後日返すときには預けられた状態のままで引き渡す(分置保管)。しかし,小麦や大豆のような品物は同種同級のものであれば,複数の寄託者のものをいっしょに混ぜて保管できる。その引渡しには同種同級の品物を預かった数量だけ渡せばよい。倉庫業自身は保管業務をせず,期間を定めて倉庫の全部または一部を賃貸する場合もある(貸庫(かしぐら))。また,倉庫業者が他の流通業者や生産者の倉庫にある物品の保管を引き受ける場合もある(出保管(でほかん))。

 第2の機能は倉庫証券(〈倉荷証券〉の項参照)の発行である。これは保管貨物の財産権を有価証券にしたもので,保管物品の売買を倉庫証券の売買で行うことができる。また,倉庫証券を担保に銀行から金を借りることもできる。つまり,この機能によって貨物の売買,在庫資金の金融が容易にできるようになる。出保管が行われるのも,主として生産会社や販売会社が自己所有の倉庫に保管してある品物を担保として金融を受けるときであり,その倉庫を在庫のまま発券倉庫会社に貸庫して倉庫業者から倉庫証券の交付を受け,金融の便を図る。倉庫証券は,日本では,倉庫寄託契約に基づいて,寄託者の請求により,運輸大臣の認可を受けた倉庫業者(発券業者)が発行する。

 第3の機能に,物の保管だけでなく,保管貨物の移動や売買を補助する点があげられる。火災保険会社の代理店となって在庫品の保険を扱い,また,はしけやトラックを常備して運送を扱い,さらに保管貨物の売買を仲介し,その代金の取立てを代行したり,貿易商品の場合には税関手続を代行することもある。

 日本の倉庫業は高度成長期には主として庫腹量不足解消のため量的拡大を図った。しかし1973年秋の石油危機以降の減速経済下においては荷主側に物流コスト削減の要請が強まったため,荷役作業の合理化やサービスの高度化を図っている(コンピューターを用いて荷主に代わって行う保管貨物の在庫管理など)。日本通運(日通)が最大の倉庫面積をもつが,同社は運輸業が中心であることから,日通を除く三菱倉庫,三井倉庫,住友倉庫,渋沢倉庫を四大倉庫という。倉庫業の許可は運送業における免許と異なり,需給状況にかかわりなく付与されるため,またその営業に特別な技術を必要としないために新規参入が比較的容易である。ちなみに冷蔵倉庫業のトップは日本冷蔵である。また規模の経済性が小さく,小さな倉庫でも立地さえよければ収益を確保できるため,業界の9割程度が中小企業で構成されている。倉庫業の主要な特色は,(1)物流産業としての特性から景気変動の影響を受けやすい,(2)立地の良否により需要が左右されやすい,(3)土地,建物に多額の資金を要するため,固定費が多く経営の弾力性に乏しい,などである。倉庫業は低収益事業であるため,大手倉庫業者は運輸,不動産など他の事業分野との兼業が多い。また冷蔵倉庫は大手水産資本の兼営が多く,水産業の機能との一体化が図られている。

 倉庫業の需給動向を示す指標として倉庫利用率が用いられる。これは倉庫運営面積(所有面積+借庫面積-貸庫面積)に対する稼働面積の比率であり,通常,普通倉庫で65%,冷蔵倉庫で45%が適正状態といわれる。日本の倉庫料金は保管料,荷役料,発券手数料,再保管料,出保管料からなるが,前2者が中心である。また前3者の改定は運輸大臣への届出制となっており,後2者は自由建値制になっている。さらに保管料,荷役料は級地別統一料金体系がとられている。

下田 雅昭

倉庫業の法律関係

倉庫業は,商品の市場相場の形成に重要な役割を果たすなど公共的性格を有しているので,倉庫業法(1956公布)が制定され,これに規整している。この法律は,倉庫業の適正な運営および倉庫証券の円滑な流通を確保することを目的とするもので,具体的に,倉庫業の監督のため,倉庫業を許可事業とし,また発券の許可を得た倉庫業者でなければ倉庫証券を発行できないとしている。さらに契約面では,倉庫保管料・倉庫寄託約款などの届出義務,料金・約款等の掲示義務,差別的取扱いの禁止および料金の割戻しの禁止のほか,寄託物を火災保険に付する義務などを定めている。

 商法では,他人のために物品を倉庫に保管することを業とすることを倉庫営業と呼んでおり(商法597条),これが倉庫業法でいう倉庫業にあたる(倉庫業法2条2項)。受寄者が寄託物の所有権を取得して同量の他の物を返還する消費寄託の引受けを業とすることは倉庫営業でない。これに対して,保管の方法として数人の寄託者の寄託物を混合して保管する混蔵倉庫寄託は倉庫営業である。なお,倉庫営業は営利を目的とするものであるから,国家が輸入税管理のために経営する保税倉庫(〈農業倉庫などは倉庫営業でなく,これらについては特別法が設けられている。

 倉庫寄託契約は,無方式の契約であるが,実際には倉庫寄託約款で定められ,寄託申込証に寄託物の価額を記載するものとしている。倉庫営業者は,みずからその寄託物につき善良な管理者の注意をもって(商法593条),必要な保管をしなければならない(民法658条1項)。そのために物的設備(盗難予防設備等)や人的設備(警備員等)を備えなければならず,倉庫営業者は,自己またはその使用人が受寄物の保管に関し注意を怠らなかったことを証明しなければ,その滅失・毀損について損害賠償の責任を免れることはできない(商法617条)。また,倉庫営業者は,寄託者の請求があれば受託物を返還しなければならず(民法662条),倉庫証券が発行されている場合には,その証券の所持人に対してのみ返還に応ずる義務を負う(商法620,627条2項)。そのほか,倉庫営業者は,倉庫証券の交付義務(598,627条1項),および点検・見本摘出等の要求に応ずる義務(616,627条2項)を負っている。

 倉庫営業者は,相当の報酬(倉敷料)を請求できる(商法512条)。また,民・商法の一般規定による留置権(民法295条,商法521条)および動産保存の先取特権(民法321条)のほか,寄託物の競売の場合には競売代金についての優先弁済権が認められている。さらに倉庫営業者は,保管期間が満了したときは,引き取られない受寄物について供託権・競売権などが認められている(商法624,524条1,2項)。

石田 満