平凡社 世界大百科事典

高潮

台風など強い低気圧によって海面が甚だしく上昇する現象をいい,沿岸に被害をもたらすことがある。暴風津波,風津波,気象津波などということもある。同じく沿岸地方に直接災害をもたらす津波と比べると,まず,生成のうえで津波はおもに海底での地殻変動によるものであり,時間スケールについて見ると,高潮が1~2時間あるいはそれ以上にわたるのに対して,後者は数分からたかだか1時間程度の周期をもつなど明らかな違いがある。なお,高潮ではふつう海面が上昇し次いで下降するという一連の経過をたどって終わるが,津波では海面の上昇,下降が繰り返し起こる。

 高潮をひき起こす低気圧として,熱帯低気圧(熱帯性低気圧のうち規模の大きなものは,地域により台風,ハリケーンなどの名で呼ばれる)と温帯低気圧があげられる。日本付近では,熱帯低気圧による高潮は夏から秋に多く,それによる水位の変化は時間的に急激に起こり,一般に数時間で終わるのに対し,温帯低気圧によるものは冬から春に起こり,それによる水位変化が比較的ゆるやかに始まり,持続性をもっている。世界的に見れば熱帯低気圧による高潮は,太平洋の日本沿岸,フィリピン沿岸,東シナ海沿岸,南シナ海沿岸,大西洋のメキシコ湾岸,アメリカ東岸,インド洋のベンガル湾岸などで起こる。熱帯域にあっても,赤道近くに位置し熱帯低気圧が襲うことがめったにない,例えばインドネシア沿岸では,高潮はほとんど起こらない。温帯低気圧による顕著な高潮は,北海,バルト海,北アメリカ東岸などで見られる。

 高潮をひき起こすおもな作用は,低気圧による海水の吸上げと風による海水の吹寄せである。外洋深海に起こる高潮では吸上げ作用が主であり,海面上昇はそれほど大きくはない。陸棚上の高潮では,水深が浅いために低気圧から与えられるエネルギーがここに集中して,海面上昇は外洋におけるより大きい。より浅い沿岸では,このほかに風による吹寄せ効果も加わって,海面上昇はさらに大きくなる。この場合,沿岸の陸岸地形が重要なかかわりをもち,また陸岸に対する低気圧の経路の位置も大きくかかわってくる。北半球では,一般に低気圧経路の左側での海面上昇が右側のそれより大きい。実際の水位は高潮の水位に天文潮汐の水位を加えたものとなり,そのときが満潮に当たると水位はいっそう高くなる。過去に日本沿岸で大きな被害を与えた高潮は,伊勢湾,大阪湾,東京湾,有明海などで多く起こっている。

 高潮発生の力学的機構を調べその予報に役立てる目的で,力学方程式に基づいたシミュレーションが活発に行われるようになってきた。この結果は,港湾の改修,沿岸道路の構築,海岸の利用開発などの計画・立案に当たって利用されている。日本で起こった高潮のうち最高のものは,1959年の伊勢湾台風による名古屋港で起こった3.4mである。メキシコ湾岸のラバカ港では,1961年に6.7mの高潮が起こっている。

寺本 俊彦