平凡社 世界大百科事典

イチゴ

バラ科の多年草。ビタミンCの含有量が多く,果物の少ない春先出荷で生産が飛躍的に伸びた。オランダイチゴともいう。

形状

地下茎は太く,数本の長い走出枝(ランナー)を出し,それに幼植物をつくる。根出葉は3小葉からなり,托葉がある。多くは4~5月に,葉柄の長さぐらいの花茎を伸ばし,数個の白い花をつける。花弁は5枚,萼片および副萼片は5個,おしべは普通20本,めしべは多数。果実と呼ばれるのは花托が肥大したもので,真の果実は実の表面に着生している小粒状の種子(瘦果(そうか))である。

栽培の歴史

野生イチゴの利用はひじょうに古く,石器時代までさかのぼるといわれるが,栽培されたのは比較的新しく,14世紀に入ってフランスやベルギーで始まった。その後北アメリカ原産の野生イチゴF.virginiana Duch.と南アメリカのチリの野生イチゴF.chiloensis(L.)Duch.との交雑種から出たアナナスサと呼ばれるものが18世紀中ごろオランダで作出され,これが現在の栽培イチゴの素材になった。1819年にはイギリスで最初の大果品種が作られ,イギリス,フランスを中心にヨーロッパ各地に広まった。アメリカでも18世紀末ごろからヨーロッパで育成された品種の栽培が始まり,現在ヨーロッパと並んで大産地を形成している。日本へは江戸時代末期,オランダ人により伝えられたが普及するに至らなかった。明治になって数多くの品種がアメリカ,フランス,イギリスから導入され,各地に土着して広まった。品種〈福羽〉は1899年ごろ,福羽逸人がフランスから導入したゼネラルシャンジーの実生から選抜育種したもので,1970年ごろまで促成栽培の主要品種であった。現在の主要品種は宝交早生,はるのか,ダナー,芳玉,麗紅などである。

栽培

作付様式として一度植えたら数年栽培する方式と毎年株をかえて栽培する一年方式がある。数年方式は寒冷地の加工用栽培に取り入れられ,一般には一年方式が多い。育苗はランナーにつく子苗を切り離して移植する。出荷時期はプラスチックフィルムの利用,新品種の育成,技術開発によって盛夏の一時期を除き,ほぼ周年出荷している。おもな病気と害虫は萎黄病,灰色かび病,うどんこ病,ハダニ,メセンチュウなどである。日本での主産地は栃木県,福岡県など。石垣栽培は明治の末期ごろ,静岡県久能山の南西傾斜を利用し,玉石を使って始めたのがおこりで,その後栽培面積の増加によって作業に便利なコンクリート板が用いられた。この方法は冬季低温時に太陽熱を十分取り入れた栽培で,寒い間は障子やむしろをかけて保温した。その後神奈川県,愛知県でも石垣栽培が行われたが,ビニルハウスの普及,労力不足から姿を消し,現在久能地方にわずかに残っている。

利用

イチゴは果実のなかで最もビタミンCの含有量が多く,生イチゴ100g中に50~100mg含む。糖分はおもにブドウ糖,果糖で4~7%含み,有機酸はクエン酸,リンゴ酸がおもなもので1~4%含まれる。果実の色素はアントシアン系のカリステフィンか品種によってはフラガリンである。生果としてはミルクや砂糖を加えて生食する。ショートケーキの材料や,加工品としてジャム,ジュース,シロップ漬に利用する。

金目 武男

野生イチゴ

イチゴ属Fragariaは北半球の温帯を中心に15種ほど知られていて,日本にも4種が産する。いずれも果実は小さいが,紅熟し,食べられる。ノウゴウイチゴF.iinumae Makinoは,本州の中国地方以北サハリンまでのおもに日本海側の山地のやや湿った場所に群生する。シロバナノヘビイチゴF.nipponica Makinoは屋久島および本州(関東,中部)の山地草原に,エゾクサイチゴF.yezoensis Haraは北海道の草原に,またエゾヘビイチゴF.vesca L.はヨーロッパからアジア,さらに北アメリカにかけて広く分布し,北海道にも産するが移入品と考えられる。

鳴橋 直弘

シンボリズム

イチゴはキリスト教では〈正義〉をあらわす象徴として使われる。ヨーロッパには昔から,違った植物をいっしょに植えると互いに相手に影響を与えあうという考え方があった。その場合互いに相手にプラスになる場合もあるが,他を苦しめることの方が多い。ところでイチゴはイラクサのようないやな植物の下で育てられてもおいしい実をならせることから,周囲の悪や不正に毒されずに自己を全うする正義の士にたとえられたのである。イチゴはまた聖母マリアを象徴するが,これはゲルマンの母神フリッグが死んだ子どもたちにイチゴを食べさせて天国へ送ったという神話からきたものである。そしてこの神話は赤い食べ物は死者のためのものだという古い信仰からきたといえよう。

山下 正男
図-イチゴ
図-イチゴ