平凡社 世界大百科事典

街路樹

都市の市街地内の道路に,都市景観をよくし,都市環境の保全・向上をはかり,さらに直接には防風,防塵,防煙,防暑,防火などに役だつことを目的として植えられた樹木をいう。現実には,街路の歩道の車道際またはとくに設けられた植樹帯に一定の間隔をおいて並木として列植されることが多い。街路樹は,市街地内の石やコンクリートなど無機物の多い景観に,暖かいいきいきとした美しさをもたらし,人々に安らぎを与えるものである。

生育環境

都市は植物の生育環境としては全般的に悪い。気象条件からみると,日照は高層建築物などにより遮られることが多く,また大気汚染により弱められる。また,路面や建築物からの反射による下方など各方向からの光は植物に有害な影響を与え,さらに夜間の照明は植物の生理作用を乱す。気温も都心部は高くなり,また昼夜の温度差も小さくなるので,植物の消耗も大きくなる。風も高層建築物周辺などにビル風といわれる強風が発生する。土壌条件をみても,良好な土壌は少なく,乾燥し,硬く,養分は欠乏し,しばしばアルカリ性になる。

適合条件と種類

都市の悪環境に耐えて生育できる樹木の種類は多くはない。街路樹として適合する条件を次に示す。(1)道路幅の広い場所や暖地以外ではなるべく落葉樹が望ましい。(2)樹形が整い,葉の形状が美しく,夏に快適な緑陰をつくる。(3)性質強健で,生長が盛んである。(4)環境によく適応し,悪い条件にもよく耐える。(5)繁殖が容易で,苗木を大量に生産することができる。(6)移植しやすく,よく活着する。(7)刈込みや剪定(せんてい)によく耐え,萌芽(ほうが)力も大きい。(8)病虫害が少ない。(9)人畜無害である。以上の条件の多くに合い,街路樹としてよく使われる種類を次に挙げる。カイヅカイブキ,キョウチクトウ,クスノキ,クロマツ,トウジュロ,マテバシイ(以上常緑樹),アオギリ,イタヤカエデ,イタリアポプラ,イチョウ,イロハモミジ,エンジュ,カロリナポプラ,ケヤキ,シダレヤナギ,シナサワグルミ,シラカンバ,スズカケノキ,セイヨウハコヤナギ(ポプラ),ソメイヨシノ,トウカエデ,トチノキ,トネリコバノカエデ,ナナカマド,ナンキンハゼ,ニセアカシア,ニワウルシ,フウ,モミジバスズカケ,ヤチダモ,ユリノキ(以上落葉樹)。なお,地方色を出すために,郷土植物や産業に結びつく種類などが用いられることも多く,ヤブツバキ(伊豆大島元町),クワ(八王子市),リンゴ(飯田市)などがその例である。

歴史

街路樹の歴史は古く,都市計画により整然とした街路をもった都市では,景観をよくするために早くから街路樹が使われていたと考えられる。中国では,唐の長安の都に楊柳(ようりゆう),槐(えんじゆ)などが用いられ,日本でも藤原京,平城京から平安京に至るまでに,街路樹としてタチバナをはじめとしてヤナギ,サクラ,エンジュなどが植えられていたようである。近代では,1872年に東京の銀座にマツ,サクラが植えられ,さらに75年には外来種であるニセアカシアが用いられ,その後種類も増加し,1907年にはイチョウ,スズカケノキ,ユリノキ,アオギリなど現在みられる街路樹の多くが使われるようになった。外国の例ではパリのマロニエ,ベルリンのリンデンバウムなどが有名。

造成,管理

街路樹の植栽には土壌の改良が必要であり,一定の大きさのわく内に植えられることが多いが,できる限りその面積を大きくとるようにする。植栽後は支柱を必要とすることが多い。都市の悪環境下に生育するので,その保護・管理は重要である。根もとの土壌が固まらないように表面の耕起,被覆を行い,施肥をする。樹形を整え,風倒を防ぐなどの理由で刈込み,剪定を行うが,本来樹木は大きく育てることによって樹木を強健にし,都市の景観をよくするものである。

北村 文雄