平凡社 世界大百科事典

摩擦器

体壁の一部が特殊化したやすり状部と,これに接する他の体部に隆起した摩擦片とからなる昆虫類の発音器官。バッタ類ではやすり状部と摩擦片の分化があまり顕著でなく,後脚腿節の内側に1列に並ぶ微小突起で前翅の翅脈厚化部をこすって単純な音を発する。コオロギ,キリギリス類の雄の翅には高度に発達した摩擦器があって,独特の美しい歌を奏でることができる。コオロギ類では右前翅が上に,左前翅がその下に重ねられており,鳴くときには2枚の前翅をいろいろの角度に立てて,右前翅下面の翅脈に沿って刻まれたやすり状部を左前翅の後縁にある摩擦片でこする。ちょうどバイオリンの弦に弓をあてて音を出すのと同じ原理である。その振動は翅にある膜質の発音鏡で拡大され,さらに翅と体で囲まれた部分が共鳴箱となって美しい音色となる。種ごとの発音解析だけでなく,発音を支配する神経生理機構や行動上の意義についても,しだいに解明されつつある。→発音器官

笹川 滿廣