平凡社 世界大百科事典

弦楽器

弦を発音体として,これを振動させることによって音を出す楽器の総称。弦から音を得るためには,その両端を固定して十分な緊張状態にし,なんらかの方法でこれを振動させる必要がある。すなわち,こする,かく(またははじく),そして打つことであり,このような奏法から見ると弦楽器は,弓弦(ゆみづる)や棒でこすって鳴らすバイオリン,胡弓,牙箏などの擦弦楽器,爪や撥(ばち)でかき鳴らすギター,箏,ハープなどの撥弦楽器,そしてピアノやツィンバロム,洋琴のごとく,弦を桴(ばち)で打ち鳴らす打弦楽器とに大別される。

 世界の諸民族がつくり出し伝承してきたさまざまな弦楽器をホルンボステルとC.ザックスは,これらの構造と形態(そして奏法)とを総括的に観察し,弦楽器を次の五つのタイプに分類した。チター型,リュート型,ハープ型,リラ型,そしてハープ・リュート型である。チター型は弦の両端を固定すべき支え木としての棒,板,箱などを本体とするもので,ヨーロッパのチターをはじめチェンバロ,ダルシマー,ピアノ,東アジアの琴(きん),瑟(しつ),箏(そう)など,(数本の)弦が楽器の本体と平行に張られているもの。楽弓や須磨琴のように1弦のものも含まれる。リュート型はヨーロッパのリュートやギター,バイオリンそして東アジアの琵琶や三味線のように,共鳴胴とそこからのびた棹から成り,弦の一端は棹の先端に固定され,棹の上を平行に走り,共鳴胴の下端に結びつけられる。ハープ型は数多くの弦が張られることが多いが,この弦がなす面が共鳴胴の響板と直角になるような構造をもつもの。ヨーロッパのハープをはじめ東アジアの箜篌(くご),ミャンマーのサウンなどがこのタイプの弦楽器である。リラ型は共鳴胴から響板と平行に突き出した2本の腕木とこれを連結する横木から成り,数本の弦の一端はこの横木に結びつけられ,別の一端は共鳴胴の下端に固定される。リラ型の代表的な楽器は古代ギリシアのリラやキタラ,エチオピアのクラールやベゲナなどで,東アジアにはこのタイプの弦楽器は存在しない。ハープ・リュート型に分類される弦楽器はアフリカに特有なもので,リュートのように棹が共鳴胴の響板の面と平行に突き出ているが,張られる数多くの弦がなす面は響板に平行ではなく,むしろハープのようにこれと直角をなす向きで,両脇に刻み目をもつ背の高い駒の両側に上下重なり合ってしかも2列に並ぶ。

 ここで弦楽器のタイプとその奏法および弦の数の多少についてふれておくと,チターやハープ,そしてリラとハープ・リュートはほとんど常に開放弦の状態で発音する。原則的に各弦が一つの音高しか発しないので必然的に弦数が増す。したがって,これらを多弦楽器とも呼ぶ。一方,リュート型の楽器は棹の上で弦の途中を押さえることによって振動部分の長さを変え,単独の弦からさまざまな音高を得ることができる。したがって,旋律弦の数は比較的少ない。ただし,これに共鳴弦やドローン弦が付加されることがあり,リュート型の楽器でもインドのシタールやサロードのようにかなりの弦数をもつものもある。

 弦楽器のもう一つの重要な側面は,弦の材質である。日本を含む東アジアでは古来,箏,琵琶,三絃,胡弓などすべての弦楽器の弦は絹糸で作られた。八音(はちおん)の中の糸すなわち絹が弦楽器の総称(すなわち,〈糸竹〉とは〈管絃〉を意味し,転じて〈音楽〉)とされたゆえんである。しかるに西アジアからヨーロッパにかけての遊牧民の文化では,弦の材質は羊腸弦すなわちガットが圧倒的に多い。9世紀のアラブの音楽理論家キンディーの著述から当時のウードは4弦のうち低いほうの3弦に羊腸弦を用い,最高音弦にのみ絹糸を用いたことが知られる。現今のウードにはナイロン弦が用いられるが,これは近年羊腸弦に取って代わったものである。この事情はヨーロッパのギターやバイオリンにも共通している。

 またスチール弦(鋼鉄線,ピアノ線)やシンチュウ弦など金属の弦も近年広く用いられるようになって,かつて絹弦や羊腸弦を用いていた楽器にも使われるようになっている(例えば,インドのシタール,サロード,中国の洋琴,箏,ベトナムの弾箏,ウズベクのドタールなど)。このほかに,馬毛弦が,弓弦のみならず旋律弦として用いられる場合も散見するし(スラブのグスラ,インドのチカラ,マグリブのアムズアドなど),また竹皮など植物の強靱な繊維が弦として用いられる楽器もある(カリンガ(フィリピン)のクリビト,マダガスカルのバリハ,バリのグンタンなど)。→楽器

柘植 元一