平凡社 世界大百科事典

構造力学

建物,橋,高架道路,あるいは船や飛行機などの構造物に外力が作用するとき,構造物の各部分に生ずるトラスなどの骨組構造で,平面板や曲面板で構成される構造物や地盤のように三次元的に連続した物体は,ふつう弾性学(弾性論)の対象とされている。

 構造力学の直接の対象物は,構造物を理想化したモデルである。モデルは構造物の実際の力学的挙動を工学的に反映し,かつできるかぎり単純化し理想化することが望ましい。建物などの構造体は表面から見えないことが多いので,そのモデル化にはある程度の経験が必要である。構造物のモデルに作用させる外力は,設計荷重または設計外力と呼ばれ,法規や規準類に必要最低限の値が決められていることが多い。構造解析で求まった応力に対し構造物の各部材の設計をし,また変形が許容限度以内におさまっているか検討する。このような部材の設計までも構造力学に含めることもあるが,ふつうこの部分は材料力学の分野とされ,木構造,鉄筋コンクリート構造,鉄骨構造など構造材料の種別ごとに固有の学問体系があって,設計規準類も整備されている。

 構造力学の発達は,その対象物である構造物の発達の歴史と不可分の関係にある。例えば,トラスの理論は19世紀中ごろ,S.ホイップル,D.J.ジュロースキー,K.クルマンらによって発展し,錬鉄や鋼による大スパンのトラス橋の建設を可能にした。またラーメンの理論は20世紀初頭にA.ベンディクセン,W.M.ウィルソン,H.クロスらによって開発され,鉄筋コンクリートによる連続一体化した構造体の発達と普及を促進した。構造力学では,ふつう構造物が線形挙動をすると仮定する。線形挙動とは,すべての応力と変形が外力の一次関数で表されるということである。実際の構造物では,線形性は次の三つの原因によって近似的にしか成立しない。第1は材料の非線形挙動であり,線形構造解析では材料の応力が小さい範囲にあると仮定しているが,構造物の破壊を対象とする終局強度理論では材料の非線形性は無視できない。第2は幾何学的非線形といわれるもので,構造物の変形が部材の寸法に比べて大きくなると,変形を考慮してつり合い条件を立てなければならないが,線形解析では変形が微小であるとして変形前の構造物の幾何学的形状に基づいてつり合い式を書いている。第3は軸方向力と曲げ変形との相関で,理論的には第2の原因の特別の場合であるが,実際問題としてはきわめて重要である。軸方向圧縮力が大きくなると,部材の変形様式がそれ以前とは急激に変化する座屈(曲げ座屈)と呼ばれる現象が発生するが,線形解析では軸方向力による曲げ変形の増減を無視している。線形性を仮定するのは,構造解析を連立一次方程式によって行うことができ,また解の重ね合せが可能になるという実用上きわめて大きな利点が生ずるためで,非線形挙動を扱う構造力学では,反復計算による逐次近似法を用いるか,あるいは微小増分について線形性を仮定する増分解析法を用いて解析を行う。→骨組構造

青山 博之