平凡社 世界大百科事典

構造岩石学

petrofabrics,petrofabric analysisともいう。岩石内部の構造,特に小規模な構造や顕微鏡的な微細構造を研究する学問分野で,変成岩などのようにさまざまな程度の変形を受けた岩石を主対象とする。このような岩石に発達する変形構造は,個々の鉱物内部の結晶学的なものから鉱物の集合体である岩石にみられるものまで多種多様であり,また,変形の強さや回数によっては,きわめて複雑なものとなる。しかし,どんなに複雑な変形構造でも,それらを解きほぐしてゆくと,結局は〈面状〉と〈線状〉の構造要素からなりたっていることがわかる。結晶軸,結晶面,光軸などといった結晶学的な構造要素の配列状態を調べるには,岩石の薄片(プレパラート)をあらゆる方向に回転することのできる自在回転台(ユニバーサルステージ)を光学顕微鏡にとりつけて観察・測定を行う。X線を使う方法もある。

 変形を受けた岩石の構造要素は,多くの場合,ある方向に卓越的な配列を示すので,このことを定向配列といい,定向配列を調べることを方位解析と呼んでいる。構造要素の方位に関する測定値の統計的な処理による方位解析の手法は1910年代にシュミットW.Schmidtによって考案され,その後30年代以後ザンダーB.Sanderにより幾何学的な解析法が研究された。三次元空間における方位を平面上に表現するには球面投影法によるのが便利で,上記の方位解析には,このうちのステレオ投影および等積投影(または正積投影),とりわけ等積投影がよく使われる。これは地図を作成するときのランベルト図法と同じ原理で,これによって投影された平面上の地域は対応する球面上の地域と等面積になるので,定向配列の強さを比較するのに便利である。ステレオ投影の場合のウルフネットと同じ直径20cmの標準サイズの円に等積投影法にもとづく経線・緯線を引いた図をシュミットネットと呼んでいる。構造岩石学の分野にはじめて等積図法を導入した前記シュミットの名にちなんだもので,水平面を基円とし,その円周上に地理的方位を目盛っている。

 構造要素をシュミットネットに投影すると,線状のものは点として表されるが,平面状のものはその平面と球面との交線(これをトレースという)の投影になるので,大円弧として投影される。このようにトレースによって投影された面状構造の等積投影図をβダイヤグラムという。これに対して,同じ面状構造を表すのにその面の極(法線)の方位を用いると,その投影は点となり,これをπダイヤグラムと呼ぶ。一般にはπダイヤグラムがよく用いられる。

 このようにシュミットネット上に表現された構造要素の等積投影図を方位図といい,投影された点のままの定性的なものと,点の集中度を等密度線(コンター)で表した定量的なものとがある。岩石内部の構造要素がまったく定向配列をもたなければ,構造的には等方となり,方位図上にはなんらの濃淡も現れない。これに対して,定向配列が存在する場合は,構造的に異方で,方位図上にある種の集中が出現する。方位図上の集中形式には,1点あるいは複数の点に集中するタイプや,一つまたは複数の大円,小円に沿って集中するタイプなどがあって,それぞれ一定の規則的配列状態を反映している。さらにこれらの集中形式を定向配列の対称性という観点から吟味すると,1本の対称軸をもつ軸対称,直交する二つの対称面をもつ斜方対称,一つの対称面をもつ単斜対称,対称面をもたない三斜対称,の4種類の対称が識別され,これらにもとづいて定向配列の原因が議論される。

 構造岩石学における研究は,構造要素の種類,新旧,重複などの識別と,方位解析を含む幾何学的な解析に始まり,そのような結果を生じた変形現象の運動学的実体,すなわち運動像を明らかにする運動学的解析へと進み,最終的には変形原因の力学的実体,すなわち力学像の解明を目指す。つまり力学的解析の段階である。幾何学的性質からそれをつくった直接の原因である変形運動の性質を推論する場合の論拠が,対称原理またはザンダーの原理といわれるもので,先に述べた定向配列の対称性に関するものである。この原理は,物理学におけるキュリーの原理の同類で,ザンダーの定式化とその後の検討を要約すると,〈変形原因である運動の対称性は,その結果である構造要素の定向配列に示される対称性よりも高次ではありえない〉と表現される。同様な対称論的限定は,力学像と運動像の間にもなりたつ。

 一方,岩石の変形機構を明らかにするには,岩石や鉱物の変形,破壊に関する実験的・理論的研究から得られた広範な情報が必要で,とりわけ構造岩石学における力学像,運動像の定量的解析には,このような岩石力学の分野の知見が不可欠である。→ステレオ投影法

植村 武