平凡社 世界大百科事典

ストリキニーネ

マチン属Strychnos植物中に含まれる中枢神経興奮作用を現すマチンS.nux-vomicaの種子,馬銭子(まちんし)(ホミカともいう)から抽出し,硝酸塩として精製される。強力な痙攣(けいれん)毒で,イヌに飲ませた場合,0.47mg/kgの用量で痙攣を起こさせ,1.2~3.9mg/kgで痙攣死する。ストリキニーネの最も著明な薬理作用は脊髄の反射機能を亢進させることで,わずかの知覚刺激によっても強度の筋収縮を生じさせる。動物に大量投与した場合,脊髄反射機能の亢進によって全身の筋肉に特有の強直性痙攣を起こし,呼吸麻痺または循環障害により死亡する。ヒトの中毒量は個人差が大きく,とくに年少者は感受性が高いといわれる。中毒の際,多くの場合,意識は比較的明確で,患者の苦痛は大きい。大脳皮質の刺激感受性を高め,視覚,嗅(きゆう)覚,味覚および聴覚を鋭敏にする。本品はひじょうに苦く,舌の鋭敏な人は40万倍の希釈液でも苦みを感ずるという。

 脊髄反射の機能亢進の作用機序は,脊髄の運動神経を直接興奮させるのではなく,脊髄の興奮性を通常は抑制的に調節している神経を抑制し,結果的に興奮させるという複雑な機構によるものであることがわかっている。

 薬理学の研究用の試薬としては重要性が高いが,致死量と薬効量が近いので,ほとんど治療には用いられない。手術時のショック,麻酔薬による中毒,脳出血後の麻痺,視力障害に用いることがある。本品を誤って服用したときの処置として,過マンガン酸カリウム液による胃洗浄,およびエーテル,バルビツレート,中枢性筋弛緩薬による対症療法を行う。

渡辺 和夫