平凡社 世界大百科事典

昇華

精神分析の用語。精神分析の説く本能衝動はひじょうに可塑的であって,本来の対象および手段とは別な対象および手段によってもある程度満足させることができる。たとえば失恋におわった初恋の人への慕情をその人とどこか似ている別の人に向ける場合のように,抑圧された衝動を別の対象に向けるのが〈置換え(転位)displacement〉という防衛機制であるが,昇華は〈置換え〉の特殊な例であって,性的衝動とくに前性器的倒錯的衝動を芸術活動や知的活動など社会的に価値のあるものに向けることをいう。性的なものを性的でないものに変えるわけだから,昇華は〈脱(非)性化desexualization〉とも呼ばれる。たとえば糞便をもてあそびたい小児的性衝動が昇華されると絵画や彫刻などの芸術活動となり,母親の性器を見たい衝動が昇華されると知的好奇心,学問研究となる。S.フロイトは性衝動の昇華をもっぱら問題にしたが,強圧的な父親への憎悪が昇華されて人民を弾圧する暴君を打倒する革命運動となるというような攻撃衝動の昇華も考えられる。→防衛機制

岸田 秀
平凡社 世界大百科事典

昇華

固体が液体を経ずに直接に気化して気体になる現象およびその逆に気体から直接に固体になる現象の両方をいう。温度-圧力面での状態図では,気相(気体)と固相(固体)の境界線は昇華曲線と呼ばれ,通常は三重点より低温・低圧側に位置する。昇華曲線上では,気相と固相が(液相を伴わずに)安定に共存するが,このときの蒸気圧は昇華圧と呼ばれる。気相の圧力がこの昇華圧より低い間,固相は昇華をし続ける。昇華は一次相転移であり,昇華の間,温度は一定に保たれ,固化の場合は潜熱の放出,気化の場合は潜熱の吸収が起こる(この熱を昇華熱と呼ぶ)。したがって昇華現象を利用すると,物質をぬらすことなく冷却できる(これを無湿冷却という)。常温常圧下で昇華するものとしては,ショウノウ,ヨウ素,二酸化炭素(ドライアイス)などがある。ドライアイスは無湿冷却で,約-80℃の低温が得られ,各種の方面で利用されており,演劇の舞台などで霧や雲を作るのにも用いられる。この霧や雲のように見えるのは,昇華によって発生した二酸化炭素の蒸気が,空気中の水蒸気を冷却して凝結させた微小水滴である。

小野 嘉之