平凡社 世界大百科事典

潜水艦

主として潜航して作戦行動を行う軍艦をいう。水上艦艇に比べ,水面下を行動するため,発見は困難であり,敵の制海権下でも行動が可能である。

歴史

潜水艦の発想は古くよりあったが,実戦で最初に使用されたのはアメリカ独立戦争中のことで,アメリカ軍は人力推進・1人乗りの〈タートルTurtle〉を使用,イギリス艦の艦底に時限爆薬をとりつけようとして失敗に終わっている。その後,アメリカ南北戦争において南軍の人力推進の〈ハンリーHunley〉は艦首より出した棒に火薬をつけ,北軍の軍艦に体当りし,これを撃沈したが,自らも沈没した。潜水艦が軍事的に実用化されるのは,空気を必要とせず水中で使用可能な動力源である電池-電動機の技術が確立し,魚雷が実用化される19世紀末~20世紀初頭である。電池を使用する潜水艦の正式採用はフランスが最初で1886年,アメリカが1900年,ドイツが1906年である。これらは単殻・隔壁なしの船体で,水中ではおもに電池-電動機,水上航走はガソリンエンジンもしくは蒸気機関で推進されたものであり,潜航期間も短く,航洋性に劣っており,主として近海で魚雷により奇襲攻撃を行うことを目的とした。

 第1次大戦が始まる前までには,潜水艦用ディーゼルエンジンが実用化され,イギリス,ドイツはヨーロッパ近海域で数週間の作戦行動が可能な潜水艦を保有していた。1914年9月,ドイツ潜水艦は魚雷を使用してイギリスの軍艦を初めて撃沈した。イギリスは14年11月,ドイツの海上封鎖を宣言した。これに対して海軍力に劣るドイツには,イギリスの逆封鎖を潜水艦によって行おうとする発想が生まれた。戦時国際法によれば,敵国の非武装商船に対しては,警告を与え,乗員を退船させた後,また中立国の商船に対しては,臨検を行い戦時禁制品を敵国へ輸送中の場合にのみ,乗員を退船させた後,撃沈することが許されていた。しかしこの間,浮上して待つことは,潜水艦にとって危険なことであった。アメリカの参戦を心配するドイツは無警告撃沈を初めは行わなかったが,17年1月,一定の海域内にある全船舶を無警告で撃沈する無制限潜水艦戦を開始した。しかし,戦術的には効果をあげたものの,これによりアメリカの参戦を招き,敗北する。

 第2次大戦においても,ドイツは潜水艦に力を入れ,通商破壊作戦を行った。初期には中立国商船に対し無警告撃沈をさけたが,1940年8月に無制限潜水艦戦を開始,船舶に多大の被害を与えた。ドイツの戦法は船団を多数の潜水艦で夜間に襲うもので,狼群戦法Rudeltaktikと呼ばれた。日本は潜水艦をおもに軍艦の攻撃に使用し,組織的な通商破壊作戦は行わなかった。一方,アメリカは軍艦の攻撃に使用するほか,大戦中期以降は通商破壊作戦を日本と占領地をむすぶ海上で展開,日本船舶に多大の被害を与えた。また大戦中期以降ヨーロッパ戦線においては,航空機,レーダー,対潜水艦戦術などの発達により,浮上充気充電時の被発見,水中回避速力の不足,水中持続時間の不足などの弱点を持つドイツの電池潜水艦は無力化された。このため大戦末期,ドイツは潜水艦の水中高速化を進め,スノーケル装置を実用化し,空気取入用のスノーケルマスト以外は全没のままディーゼルエンジンを動かし,充電可能な潜水艦を建造したが,戦局を変化させることはできなかった。

 戦後も潜水艦の改良は続けられ,水中高速のための涙滴(ティアドロップ)型船の採用,潜航深度増大のための高い圧力に耐える新材料の開発,そのほか主機,電池,空気浄化装置等の改善により,水中速力20ノット,水中持続時間100時間以上で“深く静かな”潜水艦が出現している。また原子力機関の誕生により,1954年10月世界初のアメリカ海軍原子力潜水艦〈ノーチラス〉が就役し,海中を高速で長時間航走できることとなった。

おもな種類と用途

(1)原子力弾道ミサイル潜水艦 記号SSBN。戦略核弾頭ミサイル発射を主任務とする戦略潜水艦で,1959年に進水したアメリカ海軍の〈ジョージ・ワシントン〉(水中排水量6888トン)が最初である。潜水艦は敵に発見されにくく,地上のミサイル基地に比べ敵の攻撃から生き残りやすいため,アメリカ,イギリス,ソ連(ロシア),フランス,中国の各核兵器保有国はこの種の潜水艦の開発を進めてきた。現在,潜水艦発射弾頭ミサイル(SLBM)の射程は4200マイル級(1マイル=約1.6km)であるが,アメリカとソ連(ロシア)は6000マイル級を開発中であり,これが完成すれば自国の制海水域から敵への攻撃が可能となる。81年アメリカ海軍は〈オハイオ〉(水中排水量1万8700トン,トライデントSLBM24発)を就役させ,80年ソ連海軍はタイフーン級(水中排水量2万6500トン,SSN18 SLBM 20発)を進水させている。

(2)原子力巡航ミサイル潜水艦 記号SSGN。対艦ミサイル,巡航ミサイルの発射を主任務とする潜水艦で現在ロシアだけが保有する艦種。アメリカ海軍は1960年にレギュラスを浮上させて発射する〈ハリバット〉1隻を建造しただけで現在はない。ソ連はアメリカの強大な空母部隊に対抗するために1963年エコー級(水中排水量5800トン,SSN12/3 8発)を就役させて以来,ロシア連邦になった現在も22隻を保有している。これらは対艦ミサイル潜水艦といったほうが妥当という見方もあるが,1985年就役のオスカー級(水中排水量1万8300トン)は,魚雷と対潜ミサイル兼用の発射管8本,内外殻間に装備された24本のSSN19対艦ミサイル発射装置を有し,その強大な攻撃力はアメリカ空母部隊の一大脅威となっているとともに,やがて開発されるであろう長距離巡航ミサイルをミックスすることにより,戦略潜水艦としての機能も有する新SSGNのさきがけになるものと見られる。これに対しアメリカでは,魚雷発射管から発射するハープン対艦ミサイル(射程300マイル),トマホーク巡航ミサイルで対処している。さらにSSBNからSSNに種別変更されたベンジャミン・フランクリン級等のポラリス発射筒を射程1200マイル級トマホーク用に改造したり,改良型ロサンゼルス級にトマホーク,ハープーン用垂直発射筒を増設する対応が実行されてきたが,96年にシーウルフ級SSN(水中排水量9137トン,トマホーク12発のほかハープーン等も装備)を完成させた。

(3)原子力潜水艦 記号SSN。魚雷や対潜対艦巡航ミサイルを発射し,艦船(潜水艦を含む)を攻撃する攻撃型潜水艦。

(4)非核動力潜水艦 記号は(1)~(3)のものからNを除いたもの。電池潜水艦を表し,特にSSはSSNに比べて機動性に欠けるが,その静粛性,安価なことを生かし,聴音,哨戒,監視能力の高い潜水艦として各国で建造されており,今後も高性能化が進められるものと考えられる。

潜水艦の構造

(1)潜航の条件 潜水艦が水上艦艇と大きく異なる点は,(a)浮上・潜航を行うこと,(b)水中で高い圧力を受けること,(c)水中で三次元の運動を行うことである。水中に静止するためには,潜水艦に働く浮上と重力が釣り合っていることが必要であり,水上に浮かんでいるためには,浮力が重力より大きくなければならない。この浮力の差,つまり浮上しているのに必要な浮力と水中にあるのに必要な浮力の差を予備浮力と呼ぶ。潜水艦ではこの浮力の調整を,タンクに海水を出し入れすることで行う。潜航にはバラストタンクに海水を入れ,のぞむ深さでこのタンクの海水を圧縮空気で排出して釣合いをとる。浮上の場合,圧縮空気でバラストタンクの海水を排出して浮上する(図1)。なお実際の潜航・浮上では後述の潜舵,横舵も使用される。

 水中では高い圧力を受けるため,船体が水圧により破壊されないような構造が必要となる。圧力に最も耐える形は球であるが,潜水艦の船型に適さないため,円柱を主体とした形の耐圧部がつくられる。耐圧部が水中で受ける抵抗を少なくする形につくられ,そのまま海水に接しているものを単殻構造,その役割を耐圧部の外側を覆う非耐圧部が受け持つものを複殻構造と呼ぶ。複殻構造においては,耐圧部と非耐圧部の間には水圧がかかり,非耐圧部はその両側の圧力が釣り合うため破壊されない。耐圧部の強度は,その材料,加工技術などに左右される。現在では,材料としては調質高張力鋼(製造過程で,ローラーで強くのばし,高い張力に耐えられるようにした鋼)などの鋼が用いられるが,ソ連(ロシア)のアルファ級潜水艦はチタン合金を使用し,可潜深度1000m以上を達成しているといわれる。

 水中で三次元の運動を行うため,水上艦の持つ縦舵のほかに,セールまたは艦首に潜舵,艦尾に横舵を持ち,この舵で水中での船体の縦方向の姿勢制御,深度変化などを行う。さらに魚雷を射出した後の重量バランス(トリム)をとるためなどに使用するトリムタンクその他を持つ。

(2)動力 内燃機関を運転するためには酸素が必要であり,一般に酸素は空気から取り入れられる。このため,軍用の潜水艦が実用化されて以来,水上航走用には内燃機関が,また水上にあるときに内燃機関で発電機を回し電池に充電しておき,水中航走にはこの電池で電動機を回転させるという2系統の動力が使用されてきた。内燃機関としてはガソリンエンジンが当初使用されたが,より安全な燃料を使用するディーゼルエンジンが実用化され,それに変わった。しかし電池は短時間で切れ,潜航時間は限られたものであった。第2次大戦中,レーダーなど探知機器の向上により,水上にある潜水艦は非常に発見されやすいものとなった。ドイツはこの時期にスノーケルを実用化し,水上にスノーケルを出すことでディーゼルエンジンの運転に必要な空気を取り入れることを可能とした。さらに,過酸化水素を触媒で水と酸素に分解してそれに燃料を加え,発生する水蒸気でタービンを回転させるワルタータービンを使用した潜水艦の実験を行った。戦後は,酸素の必要がなく1回の燃料補給で長時間運転できる原子力が実用化され,潜水艦に使用されることとなった。一方,通常動力潜水艦においても静粛性と高速化を目ざし,蓄電池,発電機,電動機,内燃機関の開発が進められている。従来,通常動力潜水艦において動力は一般に,ディーゼルエンジン→クラッチ→発電機→スクリュープロペラの順に伝えられたが,現在ではディーゼルエンジン→発電機,電動機→スクリュープロペラという電気推進方式が採用されている。また,燃料電池など他の動力源の開発も進められている。

(3)船型 以前は,潜水艦はおもに水上を航走し,必要に応じて水中を航走するものであった。このため,船型も水上航走に適したものが採用された。その後,おもに水中を航走するものへと変化したことにともない,水上・水中両方の航走を考えた鯨型をへて,水中航走に重点をおいた涙滴型へと変化した(図2)。

(4)兵器システム 他の軍艦と同様,センサー,攻撃兵器,指揮・統御システムなどを搭載する。センサーとしてはミサイルが搭載され,従来の艦船攻撃任務のほかに,陸上を核兵器で攻撃する任務が加わった。

 電波は水中に入ると大きく減衰し,その度合は短波長のものほどはげしく,水中にある潜水艦と通常の電波で交信することはできない。戦略潜水艦に対し指令を即時に伝えることはきわめて重要であり,このための通信手段が開発されている。一つは超長波(VLF,周波数10~30kHz)を使う方法である。このため米ソ両国は世界各地に送信基地をもうけるほか,VLF送信機をそなえ長大なアンテナ線を出して飛ぶ専用機を常時飛行させている。また,アメリカは地下に長大なアンテナを配置し,極超長波(ELF,周波数10kHz以下)を使用してより深く潜航している潜水艦に送信する実験開発を行っている。一方,短波~極超短波の電波も使用されており,アンテナを海面に露出する必要があるが,(a)通信を圧縮し単時間ですまし,(b)電波の指向性を強めて敵に発見されることを防ぐ,などの工夫がなされている。

 航法装置としては他の軍艦と同様,衛星航法,電波航法などが使用されるほか,外洋で作戦行動を行うものでは慣性航法システムが搭載される。なお航行衛星,オメガ(電波航法)などはVLFを使用しており,深度が浅ければ受信可能である。

 潜水艦の技術発展は後述の対潜水艦戦技術の発展に対応しており,敵に発見されず,もし発見されても攻撃を回避できるよう,水面上にできるだけ物体を露出せず,水面下を深く高速で運動し,かつできるだけ音を放射しないよう技術的改良が現在も続けられている。

坂元 直家

対潜水艦戦

英語でanti-submarine warfareといい,ASWと略す。敵潜水艦の活躍を封ずるための諸活動をいい,その中心は,潜水艦を捜索,発見し,攻撃する戦闘にある。

 第1次大戦において,ドイツの潜水艦は連合国の軍艦,商船を多数撃沈し,潜水艦は重大な脅威となった。大戦初期は発見手段は目視に限られ,浮上中の潜水艦を発見後,大砲,機関銃等で攻撃するにとどまったが,大戦後期にはスクリュー音など潜水艦の発する音を聴取するソナー,投下して潜水艦深度付近で爆発する爆雷が開発され,潜航中の潜水艦の発見,攻撃が可能となった。作戦的には,商船を集団で航行させ,それに軍艦を同行させる船団護衛制を採用し,近海では艦船,航空機による哨戒,機雷の敷設,防潜網(潜水艦の侵入を阻止するため港湾の入口に張る網)等により防御し,大戦後期には被害を著しく減少させた。

 第2次大戦でも,ドイツの潜水艦は海上交通破壊に力を注ぎ,特に大戦初頭には多くの商船を撃沈した。これに対して連合国は,船団護衛制,航空機による哨戒,機雷,防潜網等による防御に加え,ASW専用に編成された対潜支援隊(駆逐艦3隻),対潜掃討隊(航空母艦1隻,駆逐艦3隻)などで対抗した。兵器の面では,レーダーの出現,ソナーの改良,爆雷にかわる前投兵器(潜水艦を包囲するように多数の水中爆発物を投射する兵器)の出現などにより,早期発見,攻撃が可能となった。ドイツは,スノーケルの開発など潜水艦の改良を重ねたが,大戦後半には特に航空機による哨戒,攻撃が成果をあげ,潜水艦は活動を封じられた。一方,アメリカの潜水艦も日本に対し海上交通破壊を行ったが,日本はASW技術が未発達であり,その活動を封ずることができなかった。

 第2次大戦後に誕生した原子力潜水艦の潜航時間は無限ともいえるようになり,核弾頭ミサイルを搭載する戦略核潜水艦はアメリカ,ソ連など大国の核戦略の重要な柱となるなど,潜水艦の重要性は一段と増大した。このため,各国ともASWの強化拡充に力を注ぐこととなった。

 現在の潜水艦は,浮上する必要がほとんどなく,音が静かになり,水中速力,潜航深度の増大により攻撃を回避できるようになるなど,発見,攻撃は困難である。さらに,戦略核潜水艦の搭載ミサイルは射程が6000カイリもあり,ASWは全海洋を対象として行う必要が生まれた。

捜索,発見

潜水艦を捜索,発見するおもな方法は次のとおりである。(1)海面上に機器を露出している場合は目視(暗視装置なども使用),レーダーによる。(2)電波を発した場合,電波探知機により電波の方向から位置を測定する。(3)潜航している場合は次の方法による。(a)赤外線探知機 特に原子力潜水艦は多量の熱を排出するため,海水温の差を赤外線放射量の差として検出。(b)磁気探知機 海中に潜水艦が存在すると地磁気が変化することから測定。(c)ソナー 潜水艦の発する音を聴取するパッシブソナーと,音を出し潜水艦で反射されて戻ってくる音から位置を求めるアクティブソナーにより測定。(d)レーザーを利用する探知機 レーザー光線で海中を照らし捜索。

 これらの方法を使用したASW兵器は次の通りである。(1)対潜航空機 ソノブイシステム(ソナーを組み込んだブイ(浮標)を海中に散布し潜水艦の音を聴取する)を搭載する対潜航空機はASWの中心で,このほかレーダー,電波探知機,磁気探知機を併用している。(2)水上艦艇 自艦の発する音に影響されないようソナーを艦から離して曳航する遠距離用曳航ソナー,可変深度ソナー,レーダー電波探知機等を使用する。またソノブイシステム,吊り下げソナーを使用する対潜ヘリコプターを搭載する艦も増えている。(3)攻撃型潜水艦 隠密に移動し最適の深度に移動できることから重視されている。ソナーを中心にレーダー,電波探知機を使用する。(4)広域海洋監視システム(SOSUS) 雑音のない深海底に音響受信機を設置し,信号を陸上へ伝え,広い海域を監視する。(5)海洋監視衛星 レーダー,赤外線探知機,磁気探知機,レーザーを利用する探知機等を搭載する軍事衛星で監視する。

 ASWを作戦的に分けると次の通りである。(1)相手国の基地付近での待伏せ 相手国の基地付近に攻撃型原子力潜水艦や情報収集艦を配置し,相手国潜水艦の出入を監視する。(2)狭水路の監視 相手国の潜水艦が外洋に出るために通らなければならない狭水路を,広域海洋監視システムや艦船,航空機で監視する。(3)艦船および航路帯の防御 各種水上艦艇,潜水艦および航空機によって護衛する。

 なお,各種兵器によって得られた情報は,地上にある総合管理システムによって分析,記録されている。

攻撃

第2次大戦以前は,機雷と爆雷がおもな攻撃兵器であった。第2次大戦以後は,特に原子力潜水艦の水中運動能力の向上に対処するため,攻撃兵器も飛躍的に進歩した。水上艦は,ロケット等により空中を高速で飛び,目標近くで爆雷やホーミング魚雷(艦船の音をとらえ自動的に追尾する魚雷)となる対潜ロケットまたは対潜ミサイルを搭載している。潜水艦は,有線で目標近くまで誘導されたのちホーミングに移る高性能魚雷を搭載している。対潜航空機および対潜ヘリコプターは,ホーミング魚雷,爆雷を搭載している。また機雷についても,触発機雷のほか,磁気,音響,水圧の変化を感知して爆発する感応機雷,感知したのち目標に向かって進む魚雷的な機雷も使用されている。

北島 郁夫
図1-潜航・浮上の原理
図1-潜航・浮上の原理
図2-潜水艦の船型の変化
図2-潜水艦の船型の変化