平凡社 世界大百科事典

海底地形

地形とは地表面の起伏,形態のことで,海水面下にある地形を海底地形という。地形は地球内部に起因する内力(構造運動,火山活動など)により生じ,起伏を大にする。一方,太陽エネルギーと地球重力に起因する外力(浸食,堆積)により地形は破壊され起伏を減少していく。陸上では河川,波浪,氷河,風などの浸食と堆積の作用により複雑な地形を形成するが,海底ではいったん生じた地形は,浅海以外ではあまり浸食を受けず,むしろ緩慢な堆積作用によって埋積されていくだけであるから,保存されやすい。この意味で海底地形は構造地形と考えられることが多い。海底地形は深海底と大陸縁辺部の地形に大別される。

深海底の地形

プレートテクトニクスの考え方によると,構造運動はプレート運動によって起きる。地球内部は地殻,マントル,核に大別される。地殻は大陸では比較的比重の小さい花コウ岩質層とその下の玄武岩質層からなり,厚さは平均33kmである。海洋底では花コウ岩質層を欠き,薄い堆積層の下に玄武岩質層があって,厚さは平均7km,比重は大きい。マントルは地下60~90kmを境にして,上部は硬いリソスフェア,下部は軟らかいアセノスフェアに分けられる。プレートとはこの地殻とリソスフェアを合わせた部分のことで,海洋底では海洋地殻を有する海洋プレート,大陸地域では大陸地殻を有する大陸プレートとなっている。大陸プレートはアセノスフェアより軽く,海洋プレートはそれよりやや重く不安定な状態でアセノスフェアの上に浮かんでいると考えられる。地球表面はこうしたプレートによって敷石をしきつめたようにおおわれている。これらプレートの運動によってプレート境界に起こる相対的運動は,プレート同士が離れるか,ぶつかるか,すれ違うかの3種類に限られる。

 離れるプレート境界ではアセノスフェアが海底近くまで上昇し,中央海嶺を形成する。中央海嶺は,北極海,大西洋,インド洋などの大洋のほぼ中央に連なる海底の大山脈で,太平洋では南東部に走る大西洋中央海嶺のようにプレートの分離速度が遅い中央海嶺は,地形が急峻で中軸谷を有する。分離速度の速い東太平洋海膨などでは,地形はゆるく膨らんだ形を呈し,中軸谷もない。

 大洋底を形成するプレートは中央海嶺から遠ざかるにつれ,生成年代の古いプレートとなり,冷却につれ,その底面にアセノスフェアから溶融物質が固化し付着してくるので,厚さを増大する。海洋プレートはアセノスフェアより低温で比重はやや大きいと考えられているので,厚くなると重力均衡を保つために沈降し深くなっていく。海洋プレートは中央海嶺とは反対側の縁辺で大陸プレートとぶつかりアセノスフェアの中へ沈み込む。

 ぶつかるプレート境界(島弧が存在する。島弧の火山は沈み込むプレートと大陸プレートとの間のシアによる熱エネルギーの発生とマグマの形成によるものである。

 海溝に伴う火山列のさらに内側では,西太平洋のように縁海marginal seaがある場合と南北アメリカ西岸のように海岸に脊梁山脈が迫っており縁海を欠く場合とがある。縁海の成因は多様である。スンダ陸棚は大陸地殻を有する浅海で,本質的には大陸プレートである。海洋地殻を有する縁海にもいろいろあって,マリアナ海溝背後のトラフは地殻熱流量が高く,地形は起伏が激しく堆積物がほとんどなく,水深は比較的浅くて地磁気異常の年代は若いので,中央海嶺と同様,現在新しく海底が形成されつつある縁海だと考えられている。一方,日本海盆や千島海盆は地殻熱流量が高く,かつては活動的な縁海だと考えられていたが,水深が深く,堆積物も厚くて地形は平たんであり,ここで発生する地震は,展張よりはむしろ圧縮の地震であることなどから,現在では拡大を停止した縁海であると考えられている。また,ベーリング海は中生代の地磁気異常を有する非常に古い海底から成るが,厚い堆積物でおおわれ,浅く平たんな地形を有しており,古太平洋の海底の一部を取り込むような形でアリューシャン海溝が形成されたと考えられている。

 海溝そのものについても詳細にみれば地形は必ずしも単純ではない。これは沈み込む海洋プレートの上盤にあたる大陸プレートの相対的運動が場所によって違っているためであるとする説がある。またこれらの差異をプレート沈み込みの時間的変化としてとらえる考え方もある。

 すれ違うプレート境界ではプレートの生産も消費も起こらず,両側のプレートがこすれ合って地震帯が生じる。これが断裂帯を形成する。断裂帯は海山,トラフ,海底崖などを伴うきわめて細長い地帯で,プレート運動の方向を示す過去の構造帯であり,地震活動はみられない。

 海洋プレートの表面にあたる大洋底は,古いものほど水深が深くかつ堆積物におおわれ平たん化されているが,その中に多くの海山がある。トラフ trough舟状海盆ともいう。海底の長い凹みで,特徴として平たんな底と急峻な斜面を有し,ふつう海溝よりは浅いもの。バンク堆を参照。平頂海山ギヨーを参照。モート周辺凹地を参照。

佐藤 任弘

大陸縁辺部

大陸(または島)の周辺には浅く平たんな海底があり,その外縁で急に傾斜を増大し深海に達している。この平たん部が大陸棚,急斜面が大陸斜面,傾斜変化部が大陸棚外縁である。大陸斜面下部には大陸性堆積物が大洋底に向かって広がっている階段状あるいは緩斜面の地形があり,コンチネンタルライズといわれる。海溝がある場合は,大陸斜面は海溝斜面に移り変わっており,コンチネンタルライズは存在しない。海岸からコンチネンタルライズまたは海溝底までを大陸縁辺部という。

 大陸棚外縁の深さは30~600mにわたるが,氷河浸食地域を除くと,世界的にみて約140mでかなり一様である。また大陸棚上には旧海岸線を示す不規則な堆積物の分布,沈水を示す溺れ谷,埋積谷,海底段丘,沈水三角州などの地形が存在している。第四紀は厚い大陸氷河が発達した氷河時代でもあった。この氷河の消長に伴い,氷期には氷河が発達し海水面が低下し,間氷期には海水面が上昇した。大陸棚はこの海水面昇降に伴う浸食と堆積を通じて形成された地形であるが,とくに大陸棚外縁は,最後のかつ最大の海水面低下を起こしたウルム氷期につくられたと考えられる。しかし詳しくみれば,大陸棚にはさまざまの生い立ちをもつものがある。内湾や内海の大陸棚は低海水面時代の河谷末端部や沖積平野が沈水したもので,湾底には溺れ谷や埋積谷が存在し,泥質堆積物や河口三角州が発達している。外洋に面し陸源堆積物の供給が少ない所では低水面時代の浸食地形がそのまま沈水した大陸棚が形成される。また内部の地質構造からみると,沈降地域に堆積層が積もってできる大陸棚,外縁部の地形的隆起によって堆積物がせき止められてできる広い大陸棚,断層や撓曲(とうきよく)によって外縁部が形成される大陸棚などさまざまなタイプがある。

 大陸棚外縁から沖はふつうは大陸斜面になり深海底に達するが,なかには大陸棚に接して通常の大陸棚よりかなり深い所で山や谷など不規則な起伏がみられる場合がある。これが大陸境界地である。大陸棚から大陸境界地にいたる海底は,海岸地域の陸上の地質構造ときわめて類似しており,その延長と考えられる地域である。すなわち陸上部分は河川の浸食をうけ,大陸棚の部分は海水面昇降のために平たん化されたが,海水面変化より深い所にあった部分は構造地形をそのまま現在にまで残した大陸境界地を形成したものである。

 大陸斜面も単調な斜面ではなく谷や平たん面(段丘)に特徴づけられている。大陸斜面上の海底谷は混濁流作用により海底で浸食された地形であると考えられる。大陸斜面上にたまった堆積物は不安定であり,何かの衝撃を受けるとなだれや地すべりを起こして斜面を下り,凹みに集中して泥流となって流れる。この泥流が混濁流で,その浸食によって谷ができる。混濁流は大陸斜面のふもと,あるいは斜面途中の凹みにいたって堆積し,海底扇状地や深海平たん面をつくる。これらの堆積物は沖合型の粘土層と浅海起源の砂層からなる砂泥互層を形成する。砂層は下位から上位へ細粒になっていく分級組織を有し,また浅海性の底生有孔虫を含む。海底扇状地の沖はさらに平らなすそ野である深海平原になっていく。海底扇状地や深海平原の表面には両岸に自然堤防をもつ深海チャンネルがみられる。深海チャンネルは混濁流が海底谷末端に達すると広がっていくつかの流路に分かれ,これまで懸濁してきた堆積物をその流路沿いに沈殿していくために生じた地形である。深海チャンネルは大西洋,アラスカ湾,日本海などに大規模なものが知られている。コンチネンタルライズは大西洋両側の大陸斜面下部によく発達するすそ野状のゆるい斜面である。

 大陸縁辺部には2種ある。同一のプレートに属しているが,一部は大陸地殻,一部は海洋地殻を有するので,大陸縁辺部が同じプレート内にあるもので,これが非活動的大陸縁辺部である。もう一つは大陸縁辺が異なるプレートの境界をなすもので,海溝を有する活動的大陸縁辺部である。これについては前に述べた。大西洋両側は非活動的大陸縁辺部の典型である。ヨーロッパと北アメリカは大西洋岸の地質が著しく似ており,元来は一続きの大陸であったとされているが,ジュラ紀に割れて開き始めた。両大陸が離れるにしたがい大西洋には中央海嶺が形成され,その両側に新しい海洋プレートが成長してくると,最初の割れ目にできた古い海洋プレートは時代とともに沈降し,これに伴って大陸縁辺には厚い連続的な浅海性堆積物が形成された。この意味で大西洋の非活動的大陸縁辺部は,かつての割れ目をつくっていた断層崖のなごりではあるが,厚い浅海堆積物で修飾されているといえよう。この堆積物の中でも硬い砂岩や基盤の変成岩類の層準は海のほうへ伸び出して,1ないし2段の段丘状の張出しをつくっている。コンチネンタルライズは元来この段丘地形を指すことばであったが,段丘地形の多くはすでに埋没され大陸斜面から深海平原にいたるゆるやかなすそ野状斜面となっており,この斜面をコンチネンタルライズというようになっている。

 以上のように海底地形はプレートテクトニクスの考え方によって説明されるが,場所によって必ずしも一様な地形があるわけではない。これを海洋の進化という時間的変化として説明することもできる。すなわち原大陸が割れ,現在東アフリカに見られるような大地溝帯を生じる。この段階が進むと紅海,アデン湾のような幼年期の海洋ができる。ここでも大陸斜面には厚い浅海性堆積物があり,地溝の拡大とともに大陸縁辺部の沈降が起こっていることを示している。大西洋や北極海は,プレートが分離し,中央海嶺が発達した壮年期の海洋である。さらに次の段階は,大陸縁辺部に海溝を生じプレートの沈み込みと消費が起こる太平洋のような老年期の海洋である。海溝を生じるとプレート運動は速くなり,中央海嶺でのプレート生産も速くなるが,それ以上にプレート消費が速くなり,遂には海洋全体としては縮小に向かい,最後には両側の大陸が衝突してヒマラヤ山脈のような造山帯となって海洋は進化を終える。地中海,カスピ海,黒海などは,その消滅期にある海洋である。ただし消滅期にいたる過程では,中央海嶺は移動し,消滅し,また新しく生まれて,プレート運動の再配列を繰り返すのであろう。

佐藤 任弘
図-海底地形
図-海底地形