平凡社 世界大百科事典

多肉植物

植物体が多汁(多肉)質で,乾燥に耐える植物を総称する。多肉質であっても,慣用的にはユーフォルビアEuphorbia(多肉種500種),モナデニウム属Monadenium(50種),ヤトロファ(ナンヨウアブラギリ)属Jatropha(10種),リュウゼツラン科のリュウゼツラン属Agave(300種),トックリラン属Nolina(25種),ユッカ(キミガヨラン)属Yucca(60種)など7属485種,キョウチクトウ科のパキポジウム属Pachypodium(20種),アデニウム属Adenium(12種),キク科の多肉セネシオ類(80種),オトンナ属Othonna(40種),ブドウ科のシッサス属Cissus(15種),コショウ科のペペロミア属Peperomia(100種以上),アカザ科のアッケシソウ属Salicornia(30種),フウロソウ科のサルコカウロン属Sarcocaulon(12種),トケイソウ科のアデニア属Adenia(20種),ウリ科のクセロシキオス属Xerosicyos(2種),フォウキエリア科の観峰玉(かんぽうぎよく)Idria columnaris Kellog.などがある。

形態

多肉食物は乾燥地や半砂漠地帯に生えるものが多く,降雨の多い時期に体内に水分を蓄え,乾燥期にその水分を利用するような形態をしている。一部の器官は貯水組織が発達し,球に近い形をとる。その一方で,他の器官は縮小や退化の傾向が見られ,しばしば葉の消失,茎の短縮,根の減少を伴う。さらに水分の蒸散を防ぐ帯粉(たいふん),クチクラ層の発達,多様な毛,気孔の減少や陥没などの構造をもち,一般の植物からかけ離れた変わった形態のものが多い。

 最も特異な形状の一つに,葉の一部が半透明のレンズ様に変化したレンズ植物,あるいは窓植物と呼ばれる種類がある。その代表種にはコショウ科のペペロミア・ルンネラPeperomia lunnella,ザクロソウ科の五十鈴玉(いすずぎよく)Fenestraria aurantiaca N.E.Br.,ユリ科の玉扇(たまおうぎ)Haworthia truncata Schönl.や万象(まんぞう)H.manghanii Poeln.などがある。五十鈴玉の生えている岩場はしばしば砂嵐が起こり,小さい五十鈴玉は砂に埋もれてしまう。その際,レンズは集光に役立ち,光合成に与える影響が少なくてすむ。

 多肉化する器官によって,多肉植物は3群に大別できる。(1)多肉葉群 葉が多肉化したグループで,ベンケイソウ科,ザクロソウ科,スベリヒユ科,アロエ類,リュウゼツラン属など。リトープス属,コノフィツム属Conophytumなど高度に多肉化したツルナ科の属では無茎になり,生長点は葉の中に埋もれる。(2)多肉茎幹群 茎が著しく多肉化した種群で,葉は小型で早落性となり,茎が葉緑素をもち,光合成を行う種類が多い。サボテン科,ユーフォルビア属,スタペリア類,パキポジウム属,ディディエレア科などで代表される。トックリランやパキポジウムなどのように,茎幹がつぼ型になるタイプも少なくない。(3)塊根群 茎あるいは葉も多肉化しているが貧弱で,根が著しく肥大し,水分を蓄える。サボテン科のウィルコキシア属Wilcoxia,ザクロソウ科のデロスペルマ属Delospermaやメストクレマ属Mestoklema,ウリ科のイベルビレア属Ibervilleaやゲラルダントゥス属Gerrardanthus,ユーフォルビア属とセネシオ属の一部などに見られる。

生理

光合成はサボテンと同じく特殊なCAM型で,通常の植物と異なり,夜間に開いた気孔から二酸化炭素を取り入れ,リンゴ酸などの有機酸の形で蓄え,昼間はそれを使って光合成を行う。その際,気孔は閉じられたままで,水分の蒸散を抑制するのに効果がある。

分布

乾燥地に多いが,サハラ,ゴビなどの真正砂漠には分布しない。オーストラリアの乾燥地にもほとんど見られない。おもな産地はアメリカ大陸とアフリカ大陸およびその周辺の島々である。アメリカにはサボテン科,リュウゼツラン類,ベンケイソウ科のエケベリア類,フォウキエリア科が,アフリカにはザクロソウ科,ユーフォルビア属,アロエ類,ベンケイソウ科のクラッスラ属Crassulaやコチレドン属Cotyledon,マダガスカル島にはディディエレア科,カランコエ属,アロエ属,ユーフォルビア属のハナキリン類,パキポジウム属の白花や黄花群,カナリア諸島にはベンケイソウ科のアエオニウム属Aeoniumが多産する。寒地にも少数の多肉食物があり,その代表的なものはヨーロッパの高山のベンケイソウ科のセムペルビブム属Sempervivum,北半球に広く分布するセダム類などである。岩上や樹上も乾燥地と同様な生態条件であり,ガガイモ科のフクロカズラ属Dischidiaやサクララン属,パイナップル科などが着生する。生理的に乾燥下に置かれる塩生地にも,アッケシソウ属などの多肉植物が見られる。

利用

特異な形をめでて,多くの原種がそのまま観賞栽培されるが,水を使わない生花にも利用できる。リュウゼツラン属のアガベ・シサラナAgave sisalana Perr.からサイザル麻が,アガベ・テキラナA.tequilana Web.からテキーラ酒がとれる。リュウゼツラン属からつくる発酵酒のプルケpulqueは,アステカ族が833年に造り始めたと伝えられる。アオサンゴなどユーフォルビア属には石油類似のテルペン系化合物を含む。矢毒キリンEuphorbia virosa Willd.はアフリカの原住民が毒矢に使い,メキシコのユーフォルビア・アンティシフィリティカE.antisyphilitica Zucc.からは蠟がとれる。マダガスカルではかつて,ユーフォルビア・インティシーE.intisy Drakeからゴムを採取していた。多肉植物利用の最古の記録は,紀元前2500年ころにシュメール人が粘土板に書きとどめたセッケン材としてのアッケシソウの1種Salicornia fruticosa L.である。

栽培

ベンケイソウ科の一部を除いて,一般に耐寒性が弱い。排水のよい用土に植え,年1回,春か秋に植えかえ,強光線下で育てる。繁殖は挿木が容易である。

湯浅 浩史