平凡社 世界大百科事典

硫塩鉱物

広い意味の硫化鉱物の中で,一般式AmBnSp(AはPb,Tl,Cu,Agなどの金属原子,BはAs,SbまたはBiの半金属原子,Sは硫黄)で表すことができるものがある。そのうち硫ヒ鉄鉱FeAsSのように半金属が構造中でSと同じような役割を演ずる場合は狭い意味の硫化鉱物に数えられるが,半金属が金属と似た役割を演じて複塩の形に書ける一群の鉱物を硫塩鉱物と称する。濃紅銀鉱Ag3SbS3,四面銅鉱(Cu,Fe)12Sb4S13,硫ヒ銅鉱Cu3AsS4,車骨鉱PbCuSbS3などがあり,いずれも含有金属の原料鉱物になる。B原子はいずれも3価で,結晶構造中3個のS原子により配位されて,B原子がその頂点を占めるBS3組成の扁平な三角錐を形づくる。このいわゆる硫塩基の存在が硫塩の特徴である。この硫塩基は,ケイ酸塩のSiO4四面体に似て,あるいは結晶構造中孤立して存在し,あるいはS原子を共有して環状,鎖状,層状などの複雑な陰イオン群を形成し,これらがさらにPbなどの2価金属原子,Cu,Agなどの1価金属原子によって結合されて全体の構造を形づくっている。なおTlは1価で,しばしばPbを置換して存在する。

 ここでA,B原子の硫黄原子への配位を概観すると,Agは2(2.46Å),3(2.57Å),4配位(2.66Å),Cuは3(2.29Å),4配位(2.34Å)をとる。かっこ内は硫塩全体のおよその平均A-S結合距離である。またPbは6(2.94Å),7(3.04Å),8(3.14Å),9配位(3.18Å),Tlは2(3.10Å),7(3.34Å),8(3.42Å),12配位(3.86Å)などをとる。一方,BS3グループでは,AsS3,SbS3,BiS3の順にB-S結合距離が長くなる傾向がある。一つのAsS3三角錐内の3本のAs-Sの距離の平均は,硫塩全体でおよそ2.26~2.36Å,またS-S距離の平均はおよそ3.4~3.6Åの範囲にあるが,それがSbS3では,それぞれ2.45~2.68Å,3.6~3.8Å,BiS3では,それぞれ2.59~2.78Å,3.8~4.1Åと長くなっている。なお硫ヒ銅鉱,ルゾナイトCu3AsS4では例外的にAsがSにより4配位,四面体的に配位されている。硫塩鉱物の分類はまだ確立したとはいえない。

 BS3の硫塩基をケイ酸塩のSiO4に見立ててケイ酸塩と同じように分類しようとしても,イオン結合的なケイ酸塩の分類は共有結合から成り立つ硫塩には当てはまらない。竹内慶夫と定永両一(1969)は半導体の分類を硫塩鉱物に適用し,A,B原子の価電子の主量子数をパラメーターにして硫塩を四つに大別した。その結果,四面銅鉱,車骨鉱などCuS4四面体の骨格によって構造が特徴づけられる鉱物種,多量のAgを含む鉱物種,方鉛鉱PbSの構造と密接な関係をもつ鉱物種,Pbを主とする鉱物種の4群に分かれた。他方,硫黄原子とB原子の数の比がφパラメーターと呼ばれて,その価によるケイ酸塩の分類に類似した分類も行われている。硫塩鉱物は大部分熱水,しかし比較的低温の溶液から形成される。またしばしば鉱脈状にみいだされ,金属資源として重要である。スイスのバレー州ビンネンタルは,三畳紀のドロマイト中に数々の希産As硫塩を産したことで,またカナダのオンタリオ州マドックは,先カンブリア時代の大理石中に希産Sb硫塩を多種産したことで知られている。

小沢 徹