平凡社 世界大百科事典

日照

太陽からの放射が地表を照らすこと。太陽からの放射は日射と呼ばれ,地表に達する日射は直射光と散乱光に分けられる。大気中に雲や霧があると直射光の強さは著しく弱められ,ついには地物の影が生じなくなる。気象の分野では,地物の影が認められるほどの直射光がある場合に日照があるという。日照があるときの直射光の強さ(直達日射量)は約120W/m2以上といわれ,気象庁ではこの値より強い照射のあった時間を日照時間と定義している。日照時間は雲の状態などの天気に左右されるほか,山岳地形の影響や季節と緯度による日射の変化などにも関係する。水平線を基準にした日の出から日没までの時間をその日の可照時間といい,可照時間に対する日照時間の比を日照率という。日照率はほぼ天候の影響だけを表すものとみてよい。日照時間はわれわれの生活や植物の生育に密接な関係がある。これは日照が昼間の主要光源であるばかりでなく,同時に多量の熱源の役割を果たしているためである。たとえば,日本の住宅は古くから夏はひさし(庇)によって日照を遮り暑さを和らげ,冬は採暖のため奥まで日光が入るように南向きの部屋を多くするなどのくふうがなされている。さらに太陽の熱エネルギーを直接利用する方法が進められており,すでに家庭の給湯や小型の発電などにも利用されつつある。一方,散乱光は大気中の空気分子や微粒子によって日射が散乱されることによって生じるほか,地物による乱反射の影響も加わるが,直接的には日照に関係ないものと考えられている。しかし,建築などでは室内採光のために日照よりも散乱光のほうがより重要視される場合もある。このように日照効果を論ずる場合,二次的効果として散乱光も含めて考えなければならない。

岡村 存

建築における日照

建築技術との関連においては,日当り,日影の問題など,もっぱら光の側面を論ずる場合に日照の語が用いられ,熱の側面を論ずる場合には日射の語が用いられる。必要なときに日照を確保し,不必要なときには日照を遮るために,建築物の配置や形態などをくふうすることは,建築計画における重要な作業の一つである。建築基準法では,住宅の居室における日照享受の必要性(29条)と隣地に日影を与える中・高層建築に対する制約(56条の2)を規定している。

 日照には,生活に密接に関連する有益な効果がさまざまあり,居住環境への日照の確保は必須である。一般に,日照が阻害されるような環境では,騒音や大気汚染などの他の条件も劣悪な場合が多く,日照の有無は,環境の質を象徴的に代表する指標と受け取られている。反面,日照には有害な効果もあり,多くの場合,よい効果と表裏一体の関係にあるので,両者の軽重が問題になる。夏季の強い日射は,生活環境を不快なものにするし,太陽光に含まれる紫外線は,室内の家具・調度の褪色やくるいを促進する。日照の不都合な効果を避ける建築的くふうは,古くから日よけの技術として発達してきたが,今日では,単なる日照防御のための日よけといった意味合いから一歩進んで,日照のさまざまな効果を効率的・積極的に利用する考え方に立ち,建築のさまざまな部門で日照を調節する技術が開発されている。日照に対するこのような建築技術を総称して日照調整と呼んでいる。具体的には,建物の向きや配置の計画,植栽計画などの建築の基本的計画の側面から,窓の構造的くふう,窓の材料的くふう,日よけ設備の利用などの側面があり,さまざまな方法論や製品が開発されている。

日照時間と日影時間

日照享受の程度は,日照時間で表される。建築物の内外のある点における日照時間とは,あらかじめ定めた時間帯(日の出から日没まで,午前8時から午後4時までなど,いくつかの決め方がある)において,天候とは無関係に常に太陽が望めるものと仮想した場合に,直射日光が,隣接する建築物や近接する建築構造に遮られずに,その点に到達する時間の積算値である。日照時間の対立概念として,直射日光が遮られる時間を定義した日影(ひかげ)時間が別にあり,日照時間と並んで用いられる。すなわち,検討する時間帯から日照時間を差し引いたものが日影時間である。建築における日照時間は,日照の有無を日照計で実際に測定して定める気象の日照時間とは異なり,太陽の動きと建築物の幾何学的関係から定まる理論的な尺度である。

太陽の動き

日照を利用したり,日照に対処したりするためには,太陽の動きを正確に予測する必要がある。太陽光線の方向は,場所(その土地の緯度),季節(日赤緯),時刻(真太陽時,時角)によって変化する。冬至の前後では,昼間の時間が夜間の時間に比べて短く,太陽光線は水平面に対して小さな角度で入射する。反対に,夏至の前後では,昼間の時間が長く,太陽の入射角は大きい。高緯度の北国になるほど,昼夜の長短は強調されて極端になる。建物による日影の影響範囲は,1年のうちで冬至において最も大きくなるので,一般に,冬至の日影が検討の対象とされる。太陽の動きに関する情報,すなわち太陽光線の方向は,方位角(真南から測った角度)と高度(水平面から測った角度)で表され,それらは,各種の計算式や図表より求められる。図1に示した日影曲線は,このような太陽の動きを示す最も一般的な図表の一つで,場所(緯度)別に作られている。これは水平面に垂直に立てた単位長の棒の任意の時刻における日影の方向と長さに加えて太陽光線の方向がいずれの季節についても読み取れるようにくふうされており,日影や日当りの検討に広く応用される。

建物による日影

1日の太陽の動きに応じて,建物の日影の方向や影響範囲は変化する。その様相を図示したものが日影図である。一定時間ごとの日影を日影曲線などを利用して同一面に描いて,日影の連続的変化を見る(図2-a)。また,建物周辺の日影時間の分布を図示した日影時間図は,対象時間帯全体としての総合的な日影の影響の程度を知るために作成される(図2-b)。

 日影図や日影時間図は,建物の形態や向きによって,さまざまな様相を示すが,日影の影響範囲に最も関連する要素は,建物の高さと見かけの幅である。しかし,その関連のしかたは,必ずしも単純ではないので,日影の問題の理解を難しいものにしている。

 図3-aは,簡単な形の建物の高さのみを変化させた場合の日影時間図の変化を示す。高さが高くなるほど日影の影響が遠方にまで及ぶが,高さによって変化するのは,短い日影時間の範囲である。4時間以上日影となるような影響の著しい範囲については,一定の高さを超える建物においては,高さによる変化はもう見られない。同様に図3-bは,建物の幅のみを変化させた場合の日影時間図の変化を示す。同じ高さの建物では,建物の東西方向の見かけの幅が日影時間の範囲の拡大に直接関係することがわかる。すなわち,建物の近傍における影響では,細長い高層建築物より幅の大きい中層建築物のほうが,日照阻害の程度が大きい。

 複数の建物による日影の影響は,日影の効果が複合されるため,単体建物のそれに比して複雑になり,予測も難しい。図4は,簡単な形の建物2棟についての日影時間図の例であるが,日影時間の大きい離れ島のような領域が出現するなど,それぞれの建物についての日影時間図からは容易に推測できない様相になる。既存の建物に隣接して建てられる建物による日影を検討する場合には,このような点に対する十分な注意が必要である。

室内の日当り

室内における日照の様相も日影曲線などを利用して知ることができる。図5は,8畳の南向きの部屋の毎時の日当りを季節ごとに示したものである。冬季においては,日光が室奥まで差し込むので,1日のうちには室内の大部分が日光を受ける。反対に,夏季においては,太陽の高度が大きく,日当りは窓際の小さな部分にのみ生ずる。この程度の日当りは,短いひさし(庇)など簡単な日よけで防ぐことができるので,側窓をもつ南向きの部屋では,自然のなりゆきで,1年を通じて日当りが都合のよいように調節されているといえる。逆に,東向き,西向きの部屋では,冬季にはあまり日当りがなく,夏季に日が差し込む。とくに,西向きの部屋では,夏季に強い西日を受け,これに対する十分な建築的対策が必要となる。→日照権

宮田 紀元
図1~図5
図1~図5