平凡社 世界大百科事典

超伝導

超電導とも書く。ある種の金属や合金,あるいは半導体や有機化合物において,温度を下げていくと,ある温度(転移温度)以下で電気抵抗が突然0になる現象。極低温領域で生ずる場合が多い。1911年オランダのH.カメルリン・オンネスが,約4.15Kで水銀の電気抵抗が突然0になるのを発見したのが最初で,その機構の理論的解明は57年,アメリカのバーディーンJohn Bardeen,クーパーLeon N.Cooper,シュリーファーJohn R.Schriefferによってなされた。この理論は彼らの頭文字をとってBCS理論と呼ばれるが,超伝導の発見からその解明までに長い時間がかかったのは,この現象がまったく量子力学的であり,いかなる古典的説明も成立しないためである。

超伝導の担い手

一般に電気伝導を担っているのは導体の内部を自由に動き回ることのできる伝導電子であるが,超伝導を担っているのは,伝導電子と格子振動の相互作用の結果生ずる電子の対(クーパー対という)である。いま,1個の電子があると,そのまわりの正電荷をもつ格子点はクーロン力によって少しこの電子に引き寄せられる。伝導電子は108cm/sというような速い速度(フェルミ速度)で運動しているので,すぐに遠くへいってしまうが,格子点は質量が大きいためにすぐには平衡の位置に戻れない。したがって,その場所には他所よりも余分の正電荷が取り残されることになる。これを第2の電子が感ずると,クーロン力は引力となり,結局,第1の電子と第2の電子の間に引力が働いたのと同じになる。この引力が,もともと同符号の電荷のために斥力であった電子間のクーロン力に打ち勝てば,電子間には正味の引力が残り,そのために,二つの電子は互いに相手から離れられない束縛状態に入る。これが超伝導の担い手となる電子対である。格子の動きが遅いために,対の大きさは電子間の平均距離よりもはるかに大きい。低温になると,このような電子対が多数でき,多くの対が空間的に重なり合う。このようなとき,すべての対が同じ位相で振動すると全体のエネルギーが低くなり,さらに,対が多いほど次の対が作りやすい。そのために,温度が下がり熱によるじょう乱が小さくなるとある温度Tcから急に多数の対が現れ始めて(2次の相転移)新しい相が出現し,絶対0度ではすべての電子が対を作る。この相を超伝導相といい,Tcが超伝導相への転移温度である。

完全反磁性

超伝導のもっとも大きな特徴である電気抵抗の消失は以下のように説明される。一般に,電子の量子力学的に安定な状態(固有状態)は,磁場中に置かれると還流する電流をもつようになる。この電流は外部磁場と逆方向の磁場を生ずるように流れるために,原子や分子の反磁性の原因になっている。ところで,巨視的な大きさの超伝導体の電子の状態は,全体として原子や分子のそれとよく似ている。まず,どちらも一つの位相で記述され,また原子では強い磁場によって電子を異なった状態に移すには有限のエネルギーが要るが,これに対応して,超伝導体では電子の対を磁場で破壊するのには有限のエネルギーが必要である。このことから,超伝導体にも原子と同じように反磁性が生ずる。超伝導体が原子よりもはるかに大きく,また電子の数が多いため,この反磁性はきわめて強いものになり,外から磁場をかけても超伝導体の中には磁場はまったく入ることができない。これをマイスナー効果といい,このような磁気的性質を完全反磁性と呼ぶ。このとき磁場を超伝導体の内部から押し出して支えているのは表面近くに生ずる電流(反磁性電流)であり,したがって,磁場をかけている間この電流は減衰することなく流れ続けていなければならない。すなわち,反磁性電流は電圧を生じない。また針金に外部の電流源から電流を流すとき,電流によって針金の中に同心円状の磁場が生ずるが,超伝導体では前述のようにその内部の磁場は0とならなければならない。したがって,超伝導体においてはこの磁場を外へ押し出すための反磁性電流が表面に生ずる。この反磁性電流は,初めに流した電流が表面だけを流れているとしたものと等しいので,結局,超伝導体の針金には電圧が生じない。すなわち電気抵抗は0である。このことから,超伝導体のより本質的な特徴は,無限大の電気伝導度をもつ完全導体であることよりも,むしろ,完全反磁性体であることがわかる。

 超伝導体にかける磁場を大きくしていくと,磁場を排除するのに必要なエネルギーが,電子対を作って超伝導状態になっているエネルギーを超えたとき,超伝導は破壊され常伝導に戻る。このときの磁場を臨界磁場と呼ぶ。超伝導体には,このように臨界磁場で一挙に常伝導状態になるもののほか,ある磁場から徐々に磁場の侵入を許し,高い磁場によって全体が常伝導に戻るような物質もある。前者を第1種の超伝導体,後者を第2種の超伝導体と呼び区別する。→超電導材料

利用

超伝導の応用は,大電力の分野では電気抵抗が0であることを利用した送電,高磁場発生用の超伝導ソレノイドがある。前者はまだ実用ではないが,後者は実験用高磁場装置,粒子加速器用磁場発生器などに実用され,磁気浮上式鉄道やエネルギー貯蔵器なども開発中である。

 エレクトロニクスの分野では主としてジョセフソン効果と磁束量子化が利用されている。磁束量子化とは,リング状の超伝導体の中空部分に生ずる磁束が,hc/2e=2×10⁻7ガウス/cm2hはプランク定数,cは光速,eは素電荷)の整数倍の不連続な値しかとれないという現象であって,リングをひと回りするとき電子対の角運動量がħ(=h/2π)の整数倍しかとれないという量子力学の要請に基づいている。リングの一部をジョセフソン・トンネル接合にし,適当な駆動回路をつけ加えると量子化された磁束を出し入れできる。これを利用して磁束の検出器や,記憶素子,演算素子を作ることができ,その応用として高速のコンピューターや心電図に代わる心磁図を測定する装置がすでに試作の段階を終わっている。

 なお,ここで述べた機構以外の超伝導も理論的には可能性が指摘されているが,現実には見つかっていない。

小林 俊一