平凡社 世界大百科事典

超電導材料

電気抵抗がない超電(伝)導状態となり,その状態を利用する材料。金属は電気の良導体であるから,送電線やマグネットのコイルなどの導電材料として広く使用されている。良導体といっても電気抵抗が0ではないので,電流を流せば電圧降下が生じ,その分の電気エネルギーは熱に変わる。送電線の場合にはこの熱は大気中に放散し,送電損となる。また,マグネットで強い磁界を作ろうとして大電流を流すと,大きな発熱を生じ,そのために大きな電源設備と冷却装置が必要となる。MHD発電や核融合炉には強力なマグネットが必要であるが,普通の導電材料を使ったマグネットでは,その消費電力が発電量より大きくなってしまう。一般に,電気抵抗は温度が下がると小さくなるが,0Kの近くになってもある有限の電気抵抗を示すのが通常の電気伝導である。オランダのH.カメルリン・オンネスは極低温を実現する装置の開発(1908年にはヘリウムの液化に成功,液化温度4.2K)と低温での物理学の発展に大きな寄与をした人であるが,1911年に水銀の電気抵抗が,約4K以下では測定できないほど小さくなることを見いだした。この現象は超電導と名づけられ,その後多くの金属,合金,化合物が極低温でこの状態になることが見いだされている。超電導の実用的な特徴は,(1)電気抵抗がなく,したがって,(2)損失なく大電流が流せ,(3)強い磁界を発生することが可能となり,(4)ジョセフソン素子がある。

 超電導を示す物質は多いが,超電導現象には三つの重要な閾値(いきち)があって,実用上はこれらの大きいものが有利であり,実用化されたもの,あるいは現在実用化が進められているものは比較的少数の材料である。(1)臨界温度 超電導は温度がある値以下で現れるものであり,この値は純金属ではニオブNbで約9K,合金ではニオブ-チタン合金(Nb-Ti合金),ニオブ-ジルコニウム合金(Nb-Zr合金)で9~10K,化合物ではニオブとスズの化合物(Nb3Sn),バナジウムとガリウムの化合物(V3Ga)などで15~23Kである。これらの差はわずかであるようにみえるが,水素の液化温度が20K,ヘリウムでは4.2Kであり,安定な超電導体とするにも臨界温度が高いのがよいことから,これらの差は重要である。(2)臨界磁界 超電導を示す温度でも,超電導体を磁界の中において,磁界を強くしていくと通常の電導へと遷移してしまう。Nbなど純金属の場合には,これを磁界の中においたときに,磁束は超電導体の中に入らず,完全反磁性を示す。温度を上げていくと,ある温度で急に磁束が入るようになり,通常の電導へと急に遷移する。このようにふるまうものを第1種超電導体という。この臨界磁界はごく小さく,マグネット材料には適さない。Nb-Ti合金のような合金やNb3Snなどの化合物でも,磁界がある値(下部臨界磁界)以下では上と同様にふるまうが,それ以上の磁界になると,超電導体内に局部的に磁束が通るようになり,その領域は通常の電導を示すが,その他の部分は超電導を示すという混合状態となる。このようになるものを第2種超電導体という。磁界を強めていくと,通常の電導を示す部分の割合が大きくなって,ある値(上部臨界磁界)で全体が通常の電導を示すようになる。この臨界値はかなり大きく,10T以上になる。この臨界値までは超電導コイルとして使えるので,マグネット用の線には第2種が使われる。(3)臨界電流密度 超電導体に電流を流し,これを大きくしていったときに抵抗が出はじめる限界である。混合状態にあるものの限界は材料内部の結晶粒界,析出物,転位といった格子欠陥の存在状態によって左右される。これらはいずれも線の加工履歴や添加元素に強く依存するものであって,線の製造技術上の工夫によって改善することができる。以上の三つの閾値とともに重要なものは超電導状態の安定性である。超電導状態にあるときに,一部でなんらかの原因で損失が生じ発熱することがあると,これが引金となって全体が通常の電導状態にもどってしまうことがありうる。これが起こると超電導コイルが破壊したり,ヘリウムが突沸したりという事故につながる。安定化するには,多量の銅やアルミニウムなどの良導体で超電導線を被覆し,部分的に遷移が起こっても,その部分の電流がバイパスして流れる道を用意しておく方法や,超電導線を極細の多芯形式とする方法がある。

 現在,マグネット用の超電導線として実用されているのはNb-Ti合金である。その特性は成分による。広く利用されるのは50~70原子%Tiのもので,臨界磁界は4.2Kで約9Tである。実用の超電導線はNb-Ti合金を銅の中で極細の多芯線としたものである。製法はNb-Ti合金に銅をかぶせた直径数mmの複合体を多数束ねて銅管に入れ,これを押出加工により棒状にし,さらにこれを束にして銅管に入れて,伸線工程をくりかえして最終的にNb-Tiが10~50μm程度の極細の芯線となるように加工する。最終的には銅の中に目的により最高数万本程度入っているものができる。Nb-Tiが使われている一つの理由はこのような塑性加工による複合線の製造に適しているためであり,一方,Nb-Zr合金が実用されなかったのは銅との複合加工が難しいからである。また,上で述べたように臨界電流密度は最終工程で300~400℃の熱処理を行い,微細な析出物を作ることにより改善される。また,第3の元素を添加して性能を改善することも考えられている。

 Nb3SnあるいはV3Gaなどの化合物は臨界温度も臨界磁界も合金よりも高く,10Tを超える強磁界の発生のために必要な材料である。しかし,硬くてもろいためにNb-Ti合金のような塑性加工による複合体の製造は困難であり,特殊な方法を必要とする。1960年の後半には,まずNbのテープを製造しておいて,これにSnをめっきし,次いで高温で熱処理することによって,SnをNbの表面から内部に拡散させNb3Sn化合物を生成させる方法が開発された。V3GaのときはVの表面からGaを拡散させる。70年代に入って,複合加工法が開発された。これはCu-Ga合金とV棒の複合体を作り,Cu-Ga合金もVも加工性がよいことを利用して,上述のNb-Ti多芯線と同様の方法でまずCu-Ga合金中にVの極細芯が多数入った線を作る。最後に600~650℃で熱処理すると,銅中のGaのみがVの極細の芯と化合してV3Gaが生成され,銅の中にV3Ga化合物の極細多芯線の入ったものができる。この線の性能はテープにくらべ優れていて,核融合炉用の大容量のものの開発やさらに特性を改善する研究が進められている。比較的最近になってインシツin situ法という方法が開発された。これはCu-Nb-SnあるいはCu-V-Ga三元合金を融解して線やテープに加工し,その後に熱処理して,Cu合金の内部にNb3SnやV3Gaの不連続な極細繊維を多数分散生成させるものである。以上述べたほかに優れた超電導特性を示す材料の研究や超電導線の製造方法の開発が進められており,実用化も進むものと思われる。(1986年,J.G. ベドノルツとK.A. ミュラーは臨界温度30Kの酸化物セラミックスの高温超電導体を発見し,ノーベル物理学賞を受賞した。その後90K以上の物質が次々と発見されている)

大久保 忠恒