平凡社 世界大百科事典

超流動

液体が粘性なしに流れる現象。ヘリウム4 4Heの液体である液体ヘリウム4は2.17K以下で,また4Heの同位元素である3Heの液体(液体ヘリウム3)は1mK以下でこの現象を示す。超流動状態では,液体はきわめて細い管の中を圧力差なしに流れ,また,第2音波や噴水効果など種々の奇妙な現象が観測される。

 液体ヘリウム4に,液体ヘリウムⅡと呼ばれる相が存在することはW.H.ケーソムらによって1927年に発見され,これが粘性0の超流動相であることは38年にP.L.カピッツァによって確かめられた。また液体ヘリウム3の超流動相はアメリカのD.D.オシェロフらによって72年に発見された。超流動が起こる機構は4Heと3Heとではまったく異なり,前者では4He原子がボース統計に従うことと原子間に斥力があることが,また後者では3He原子がフェルミ統計に従うことと原子間に引力があることが原因になっている。4Heの超流動理論は1930年代にF.ロンドン,L.D.ランダウらによって作られ,3Heの超流動については超伝導のBCS理論の出現(1957)直後からその応用として多くの人たちによって考えられてきた。

液体ヘリウム4の超流動

4Heはボース粒子であってボース統計に従う。ボース粒子は量子力学的な状態に任意の数だけ入りうる。したがって,絶対0度においては,すべての粒子がエネルギーが最低の状態に入っている。粒子間に相互作用がないときには個々の粒子が独立に運動できるので,この系の全体としての,最低の次に低いエネルギーをもつ状態は,どれか一つの粒子に無限小の速度を与えた状態になっている。言い換えれば,このような相互作用のない系では,個々の粒子は無限小を含む速度をもつことができる。そこで,この系を入れている容器の壁と粒子の間に相互作用があると,系と壁の相対速度が無限小の場合であっても粒子は壁から運動量を受けとり,その結果,系をエネルギーの高い状態に上げることができる。すなわち,系と壁との間でエネルギーのやりとりが可能であり,系と壁との間に摩擦が生じ,この液体は超流動を示さない。

 これに対して液体ヘリウム4の場合は,液体中の4Heの原子どうしは低温において互いに位置エネルギーがもっとも小さくなるような距離を保っていて,そのために一つずつが独立な運動をすることができない。このような系では,最低のエネルギー状態の次にエネルギーが低い状態は,系全体を伝わる波動となる。この波動は音波であって,波長に依存しない速度をもつ。すなわち,どんなにエネルギーの低い波動も有限の速度をもっている。壁と系の相対速度がこの波動の速度よりも小さいときには,系に波動を引き起こして系を高いエネルギーの状態に上げることはできない。すなわち,液体と壁との間には摩擦が生じず液体は超流動性を示す。ところで,このような音波は,室温におかれた水の中にも存在するが,液体ヘリウム4と水の本質的な違いは,前者ではほとんどの原子が最低のエネルギーの状態に入っているのに対して,後者ではほとんどすべての分子が熱エネルギーを担って高いエネルギー状態にいることである。そのために水中では,壁と分子の衝突が乱雑に起こり,相対速度がいかに小さくてもエネルギーのやりとりが許され摩擦を生ずる。

 液体ヘリウム4の温度を0Kから少し上昇させると,いろいろの波長の音波がたち始めると同時に,渦のような運動も現れてくる。有限温度にある液体ヘリウム4は,これらの運動や波動に関与して熱エネルギーを担っている4He原子と,まだ最低のエネルギーの状態にある4He原子の混合物とみなすことができる。壁と摩擦を生じずに流れるのはこのうち後の成分であって,前の成分は流れずに壁に対して静止している。そのため,前者を常流動成分,後者を超流動成分と呼ぶ。ボース統計では,最低のエネルギーの状態にある粒子の割合は,ある温度以下で有限で,それよりも高温で無限小になる。したがって,液体ヘリウム4も温度を上げると2.17Kで超流動性を失う。

 超流動の液体ヘリウム4では奇妙な現象が観測される。小さい容器に入れて空中につるすと,液体は容器の内壁を伝わってよじのぼり,外壁に沿って下りてきて容器の下からしたたり落ちる。これは,きわめて薄い膜状の液体ヘリウム4も摩擦なしに流れられるためである。

 超流動状態にある液体ヘリウム4には第2音波と呼ばれる波をたてることができる。ある場所の温度をほかより少し上昇させると,その場所での常流動成分の割合が増える。加熱をやめると,この平衡からのずれが拡散して消えるのではなく,波として周囲に伝わっていく。このとき,液体全体の密度は一様で,常流動成分と超流動成分の比だけが波動となり,その結果,温度の変動が波動となる。これが第2音波と呼ばれるものである。また温度によって超流動成分と常流動成分の比が変わり,かつ,超流動成分のみがどんな狭い通路でも抵抗なく流れうることから,噴水効果などの熱機械効果(温度差を与えると力学的な力が生じ運動が起こる現象)を見ることができる。

液体ヘリウム3の超流動

液体ヘリウム3の超流動は,3He原子がボース粒子ではなくフェルミ粒子であるために,4Heの場合とまったく異なる機構によって生ずる。3Heにおける機構は,やはりフェルミ粒子である金属中の電子による超伝導の機構ときわめてよく似ている。金属の超伝導は,金属中の伝導電子が格子の振動を介して間接的に相互作用することによって生ずる電子間の引力が本来斥力であった電子間の相互作用に打ち勝って全体として引力となり,この引力のために電子は2個ずつの対を作り,すべての対が金属全体にわたってある秩序をもつようになるために生ずるものである(詳細は〈液体ヘリウム

小林 俊一
コラム-超流動による噴水効果
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