平凡社 世界大百科事典

過飽和

一般に,ある量が飽和状態よりも多く存在する状態をいう。過飽和の状態は不安定(準安定)であり,安定な平衡状態ではない。ある温度やある圧力のもとで,ある液体(溶媒)に,ある物質がどれだけ溶けるかに注目したり,また,ある温度のもとで,ある液体の蒸気圧がどれだけかを論ずるとき,それらの物質の飽和の濃度(溶解度)や飽和の圧力(飽和蒸気圧)などといった,ある量(数値)の限度を示す必要が生じてくる。しかし,この限度を示す量が必ずしも最大の値であるとは限らず,一時的に,この限度以上に物質が存在する場合もありうる。たとえばチオ硫酸ナトリウム5水和物Na2S2O3・5H2O(融点48.2℃)を容器に入れ80℃くらいまで加熱して完全に溶かしたのち,ほこりなどが入らないように注意して室温まで放冷すると,溶液の温度が融点以下になっても結晶は析出してこない(このような状態を過冷却と呼ぶ)。Na2S2O3の水に対する溶解度は温度が高いほど大きいので,上記の過冷却の状態にある溶液中のNa2S2O3は水に対して過飽和となっている。この過飽和溶液にNa2S2O3・5H2Oの小さな結晶を核として入れると,その核のまわりに結晶が急激に成長してくる。そして溶液の温度は48.2℃まで上昇し,過飽和の状態は解消し平衡に達する。

橋谷 卓成