平凡社 世界大百科事典

供給

生産者や資産の保有者などが自発的意思に基づき販売を目的として商品を市場に出すこと,また,そうして市場に出された商品の量のこと。供給量に最も大きな影響を与える要因は,取引される財の価格であるため,縦軸に価格をとり横軸に供給量をとった図に表した供給曲線によって,売手の価格に対する反応を表現するのが普通である。個別供給者の供給曲線は,集計されて市場供給曲線となる。市場供給曲線は市場需要関数とともに,1商品の均衡価格の決定および社会的最適生産量などの問題を考えるうえで,中心的な役割を果たす概念である。

 価格弾力性はさらに大きくなる。また,すべての要素投入量を何倍しても生産量が同数倍になるという規模に関する収穫不変の生産技術のもとでは,限界費用は平均費用に一致して一定となり,供給曲線もこの限界費用に等しい価格の点で水平となる。さらに,設備規模の変更も可能な長期においては,個別企業の価格に応じた生産量の調整幅はさらに広がり,企業の新規参入あるいは退出も起こりうるため,供給曲線はいっそう弾力性を増して水平に近い形をとると考えられる。しかし他方,供給の増加はこの財の生産に必要な生産要素への需要の増加を意味し,それらの市場において価格上昇が起これば,個別企業の限界費用は上昇する。この効果によっては,長期供給曲線は急傾斜になるよう修正を受けることになる。

 供給曲線についてはこのほかに,独占的市場支配力をもつ企業の供給曲線という概念は,形容矛盾を含んでいることに注意する必要がある。なぜなら,供給曲線は市場価格を所与として受容する供給者についてのみ成り立ち,市場価格をみずからの行動によって左右することのできる企業については成り立たないからである。また労働供給については,労働の不効用と賃金収入によって可能となる消費水準の効用との比較,あるいは余暇と消費の限界代替率と実質賃金率との比較を行う消費者行動の分析に基づいて,実質賃金に関して増加的であるが,十分高い実質賃金水準に対しては後方屈折的に減少的となる可能性があることがしばしば指摘される。なお貨幣供給量(マネー・サプライ)とは,統計的には,現金プラス要求払預金を意味するM1あるいはM1プラス預金通貨を意味するM2によって代表されるが,通貨当局が金融政策を通じて供給を調節する通貨量のことである。

林 敏彦