平凡社 世界大百科事典

統帥権

軍隊の最高指揮権。これは君主国,共和国を問わず国家の元首である君主,大統領あるいは首相が掌握するのが通例。日本の場合,太平洋戦争敗戦時までは天皇にあった。なお,戦後自衛隊の最高指揮権は内閣総理大臣にある(自衛隊法7条)。統帥部が政府や議会から独立する,いわゆる統帥権独立制度の下にある国家は,第1次大戦までのドイツ,第2次大戦までの日本のごとく君主権力が強く,寡頭制の国家であり,制度的に政府や議会の統制下に統帥権が置かれている国家は,イギリス,アメリカなどのごとくデモクラシーの国家である。後者の場合には,統帥の権能も一般の国政と同様に扱われ,シビリアン・コントロール(文民統制)が原則として採用されている。

 日本はドイツにならって1878年軍部)を主張し,これがほぼ慣例となった。第1次大戦後,帝国主義国家の中では日本だけが統帥権独立制度下にあった。そのため,植民地・従属国の反帝国主義運動への対応,ならびに昭和恐慌の中での社会諸階層の生活の困難などを,政府を掌握していた政党勢力が解決できなかったことから,統帥権独立制度に依拠する軍部が台頭し,本来は絶対主義的性格をもつこの制度が,20世紀の30年代に新たな存在理由を与えられて強化された。

 第2次大戦後,統帥権独立制度をとる国はなくなったが,統帥権も含む軍事問題にも新たな問題が起きてきた。一つは第三世界における軍部を背景とする強権的体制の持続である。これは戦前における統帥権独立制度下での軍国主義国家と同様の相貌を呈している。戦前のドイツ,日本などにおいて,軍部はこの制度下で主として対外的軍隊として機能し,それゆえに対外戦争,戦闘で矛盾を表面化し解体していったが,戦後の国際関係の中では軍隊自体が主として対内的軍隊として機能し,軍隊の存在が軍事費の増大,産業と結びついて,国内の民主主義の制限などを構造的にもたらすようになってきている。もう一つは,この対内的軍事化が先進資本主義国や社会主義国でも進行しており,古典的軍国主義とは異なる社会の全領域での軍事化の現象がみられることである。第三世界を含め国際システムとして軍事化が進んでいるのである。一方このことは,世界の反軍拡,反軍国主義運動の連帯の基礎にもなっている。また,統帥権もこの構造に規定されて世界各国の垂直的・水平的関係に応じて従属,あるいは相互依存的になってきていることにも注目する必要がある。

雨宮 昭一