平凡社 世界大百科事典

代位弁済

たとえば,保証人が債務者に代わって弁済したような場合には,保証人は債務者に対して弁済のため支出した費用などの償還を求めることができる。この求償権の実現を確実にするため,弁済によって,債権者が債務者に対して有するいっさいの権利が,保証人に移転するものとされている。これを,弁済による代位,または,代位弁済という(民法499条以下)。

 要するに,債務者以外の第三者が弁済するときは,第三者に債務者へ贈与する意思のないかぎり,第三者は債務者に対して求償権を取得し,これを担保するために,債権者の権利が第三者に移転するわけである。ところで,第三者といっても,保証人,連帯債務者などのように,もし債務者が弁済をしなければ,なんらかの法的不利益をうける者(〈弁済ヲ為スニ付キ正当ノ利益ヲ有スル者〉)と,親族,友人などのように,なんらの不利益をもこうむらない者とがある。前者が弁済すれば,この者は法律上当然に債権者の権利を取得する(法定代位。500条)のに反し,後者による弁済があった場合には,債権者の同意がなければ債権者の権利に代位しない(任意代位。499条)。そして,任意代位にあっては,債権者から債務者に対し,代位によって権利が弁済者へ移転した旨を通知するか,または,債務者がこれを承諾しなければ,債務者および第三者に対し,権利の移転を対抗することができない。債務者が債権者に対し金銭債務を負担する場合には,保証人が立てられたり,物上保証人が存在するなど,法定代位をなしうる者が数人に及ぶこともまれではない。したがって,なんらの手当をも講じないときは,求償したがって代位の循環を生じ,混乱を招くおそれがある。そこで,民法501条は,法定代位をなしうる者の相互間の代位関係について,次のように定めている。(1)保証人は抵当権などの付着した不動産の譲受人(第三取得者)に対して代位することができるが,そのためには,〈予メ〉抵当権などの登記に代位の付記登記をしておかねばならない。ここにいう〈予メ〉とは,保証人が弁済し(代位を生じ)たのち,第三取得者が出現するまえであると解されている。(2)第三取得者は保証人に対して代位しない。このように日本の民法は,保証人の求償権を第三取得者のそれよりも,厚く保護している。(3)第三取得者が数人存在する場合は,それぞれの不動産の価格に按分して相互に代位しうる。(4)物上保証人が数人存在するときも,(3)と同じように扱う。(5)保証人と物上保証人とが存在する場合には,頭割りによって相互に代位するが,物上保証人が数人いるときは,保証人の負担部分を除いて,不動産の価格に按分して代位する。たとえば,Aに対するBの1200万円の債務をCが保証し,かつ,DとEがそれぞれ価格800万円,200万円の不動産に抵当権を設定していた場合において,Cが1200万円を弁済したとすれば,CはDに対し640万円,Eに対し160万円につき代位することとなる(以上,501条参照)。

 なお,法定代位をなしうる者の求償権の満足を確保するため,債権者に担保保存義務が課せられている(504条)。しかし,この規定は任意規定であり,また,代位によって取得した権利を行使しないとの約束も,必ずしも無効とはいえないところから,金融機関が融資し,保証人などを立てさせる際には,保証人などが代位によって取得した権利を金融機関の承諾なしに行使しないこと,担保保存義務を負わないことなどを,約定するのが一般的である。代位弁済は,第三者が債務全額を弁済することによって生じるのが普通であるけれども,債務の一部を弁済することによっても生じる(一部代位。502条)。この場合には,代位者は〈弁済シタル価額ニ応ジテ〉債権者とともに権利を行うものとされている。たとえば,債務の半分を弁済した代位者は,この債務を担保するための抵当権を,債権者とともに行うこととなるが,代位者は単独でこの抵当権を実行することができ,債権者は不適切な時期に抵当権を実行させられるという不利益をこうむるおそれがある。そこで,多数説は,法律の文言にかかわらず,一部代位の場合には,代位者の権利は債権者の権利に劣後すると解している。外国の立法例には,このようなたてまえをとるものが多い。

石田 喜久夫
平凡社 世界大百科事典

物上代位

一般に留置権を除く担保物権に共通な特性。質権,抵当権および先取(さきどり)特権はいずれも目的物の交換価値から優先弁済をうけることにより債権担保の機能を果たすものであるから,その目的物が価値的に別のもの(前記の損害賠償請求権,火災保険金請求権など。これを代位物Surrogatという)に姿を変えた場合に,その変形物に効力を及ぼすものとすることが衡平に適する。これを物上代位という。たとえば甲が乙に質入れ中の動産が第三者丙の過失によって失われた場合に,甲は丙に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を取得するが,乙の抵当権が設定されていたところ,この家屋が類焼して,甲は丙保険会社に対し火災保険金請求権を取得するが,乙の抵当権は,この保険金請求権上に存続する。

 日本民法は先取特権について,目的物の売却,賃貸,物権設定,滅失,毀損によって担保設定者が取得した金銭その他の物への権利(売却代金,賃料等,保険金等への請求権など)の上に効力を及ぼすと規定し(民法304条),これを質権,抵当権にも準用する(350,372条)。

東海林 邦彦