上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が、女子プロの中でも特に“うまい!”と思う選手のプレーをピックアップし解説する「女子プロの匠」。今回は渋野日向子のパッティングをチョイス。

これが“壁ドン”パット!うまさの秘訣を一コマずつチェック!【パッティング連続写真】
2019年すい星のごとく現れたニュースターの数あるプレーのなかでも特に注目を集めたのがパッティング。“壁ドンパット”と評されるその強気のパットで、同年の平均パット数(パーオンホール)は名手・鈴木愛に続く2位(1.7582)につけた。
「全英AIG女子オープン」の優勝がかかった場面でも6メートルのバーディパットを沈めたシーンはゴルフ界のみならず日本のスポーツ界全体で見ても19年を象徴する場面の1つだったといえる。そんな渋野のパッティングを辻村氏は「同じ『うまい』でも、鈴木さんとはまた違うタイプ。どちらかと言えば渋野さんは基本に忠実です」と評する。
「渋野さんは強気のパッティングとよく言われますが、パンチが入っているわけではありません。
全英の最後は、下りのスライスライン。パンチが入らないのはもちろん、右に押し出すことなく、また“緩むことなく”、しっかりと“つかまって”いなければ絶対に決まらないラインです。それができているからタッチが合えばしっかりと入ります。気持ちが強いのはありますが、狙い通りの球を打っている、という大前提があります」(辻村氏)
とはいえ、同じ強気のパッティングが持ち味の鈴木と大きく違うのは特殊な動きがないこと。「転がりが良いといっても、鈴木さんのようにインパクト後のヘッドの動きをアッパー気味にして“あえて”ボールの回転を作っているわけではなく、渋野さんのフィニッシュは低く出していく。体全体で押し出して転がりの良さを生み出している。
アマチュアの方が参考にしやすいのは渋野さんのほうだと思います。1つ1つの動きが基本通りです」
その“緩まない”、“つかまる”という基本を生み出しているのが、青木翔コーチとの2つの練習だと続ける。
まずは、青木氏がパッティングをする渋野の後方に立ち、渋野の左手を握って右手だけでパッティングをするというドリル。「パッティングはゴルフのなかで一番小さい動きですが、その“小さい”でも体は開くもの。多くの人に見られるこの悪いクセが出るのは、ショットだけではないんです。体が開けば当然ショット同様に、インパクトでフェースが開き、右に押し出すミス、また芯で捉えられないミスがでる。
もう一つ、この練習は体が左に流れるのを防ぐ意味合いもある。体が開かず、体が流れない中で、しっかりリズムを取ること、そして緩まないことを体に感覚として染みこませる。それには腹筋をしっかりと使うことが大事。渋野さんはショットからパッティングまで体幹を使えてできている。構えてからちょっと張りがあるような感覚が身体の中にあるから強く打っていける」。言葉や意識だけではなく、感覚を身につけることが狙い。

もう一つが、アドレスをした渋野の正面に青木氏が立ち、頭を抑えて打つ練習だ。「テークバックからフィニッシュまで一貫して頭が上げない。これも体で身につける。特にこのドリルでアマチュアの方に気をつけてほしいのが目を上げないこと。頭は目線のほうに動いていくようにできています。だから目を上げれば顔が上がる。
顔が上がれば体が浮く。体が浮つけば手元が浮く」。これもショットと同じ。ヘッドアップすれば芯で捉えらず、つかまった良いボールを生み出すことができない。
「みなさんも感じているかもしれませんが、この2つというのは何か特別な練習ではなく以前からあるものです。でも、それらが渋野さんの根幹となっている。
たぶん、渋野さんは元々パターがうまかったというタイプではないと思うんです。すごくセンスを感じる、といったタイプではないですから。でも、基本に忠実な練習の量をこなしたからオーソドックスな動きが体に身についているし、自信もついて不安もなくなりストロークで緩むこともない。ボールの動きを追って体も上がらない。後天的にうまさを身につけたタイプといえると思います」
そんな渋野だが、鈴木、そして同じく辻村氏が「うまい」と上げたクロスハンドの畑岡奈紗と共通する部分があるという。「私は基本的にパッティングは“形無し”だと思っています。入る形が一番いい。当然、3人はそれぞれいいところが違います。でも3人ともインパクトからフィニッシュまで動きは違うけれども、共通して目がブレない。だから顔が上がらない、パターのヘッドが浮かない。これはどんな動きをする人も共通しないといけない部分です。これができるのは、3人とも自信を持っていることも1つの要因です。気持ちが浮ついたり、ボールの行方が不安になればすぐに目、顔、頭が上がり必然的にヘッドも上がる。フィニッシュまで参考にしてみてください!」
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈小祝さくら、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。著書には『ゴルフ トッププロが信頼する! カリスマコーチが教える本当に強くなる基本』(河出書房新社)がある。

■渋野日向子とはここが違う! 鈴木愛のパッティング【女子プロの匠】
■天才が描く芸術作品 申ジエのアプローチ【女子プロの匠】
■その切れ味、まさに青龍刀 イ・ミニョンのアイアンショット【女子プロの匠】
■シンプルゆえの美しさ アマが真似したい菊地絵理香のピッチエンドラン【女子プロの匠】
■柔らかい手首が女王の証 アン・ソンジュのロブショット【女子プロの匠】