元国税局職員、さんきゅう倉田です。親友は「イータ君」です。



 テレビや雑誌の取材で税金について話すなかで、取り扱いを失念して「わかりません」と言うことがあります。はっきりとわからない場合はそれでいいのですが、自分でも気づかないうちに誤ってしまうこともあるかもしれません。可能な限り、事実のみを提供したいのですが、ぼくだけでなく税理士さんや国税局の職員さんでも誤ることがあります。

 複雑な税のルールの前には、プロフェッショナルでもミスを免れないのが現状です。税理士さんは保険に入って備えていますし、誤指導や手続きを間違えることでトラブルになる職員さんも、まれにいます。

 それ仕方のないことです。
みんな神様ではありません。1000を超える条文や通達、判例を覚えることなどできません。納税者との接触のなかで、一般的な取り扱いと異なることも言ってしまうでしょう。

 今回は、税務調査にあった法人が、誤指導により行った処理を否認されて争った事案を紹介します。

●税務署の処分をめぐり対立

 人材派遣業を行う法人Aは、スーパーマーケットの試食コーナーに労働者を派遣していました。スーパーからの依頼を受けて派遣し、労働者への支払いは「外注費」として経理処理しています。
この処理は、税務調査があった際の調査担当者の指導により採用したそうです。しかし、この処理は誤りで、労働者への支払いは「外注費」ではなく「給与」に該当します。

 多くの会社員の方は、外注費と給与で何が異なるのかわからないと思います。源泉所得税と消費税において違いがあるのですが、今回は消費税が問題になりました。難しいことは割愛しますが、法人Aとしては、外注費のほうが消費税の納税額が減るので利得が高くなります。給与とわかっていても、外注費で処理する法人がたくさんあるくらいです。


 法人Aは、この処理が誤っているとして再び税務調査を受け、のちに更正処分を受けました。更正処分というのは、自主的に行う修正申告と異なり、税務署が税額を決定するものです。

 法人Aは「いや、指導通りにやったのに、更正するなんてひどいよ。取り消してよ」と、主張しました。ここで法人Aは、派遣労働者への支払いが「外注費である」とは主張しませんでした。「給与であることは認める。
でも、更正処分は信義則に反する」と言ったのです。

 税務署側も、前回調査時の指導が誤っていたことは認めました。誤った指導をしておいて過少申告加算税を課するなんて笑ってしまいます、ちなみに、過少申告加算税は申告内容が間違っていたときに課される罰で、課されると納める税金が増えてしまいます。法人Aが異議を唱えたことで過少申告加算税は取り消されましたが、3年分の外注費を給与として処理したときの差額の税金は納めるようにと、税務署は言いました。そのまま双方の主張は対立し、争うこととなります。

 結果から言うと、法人Aは負けてしまいます。
過少申告加算税が課されなかった以上、法人Aには経済的な不利益はなく、あくまで本来払うべきものを払うことになっただけでああると判断されたのです。

 平たくいうと、一度「払わなくていいよ」と言われたのに後から「やっぱり払え」と迫られ、「やだ」と言ったけどダメだったわけです。同情すべきところはありますが、仮に更正処分を取り消すと、法人Aは正当な課税を免れることとなり、それは「税の平等の原則」に反します。誤りを認めつつ、適正な課税のためにはやむを得ない処分だったといえます。

 みなさんも、確定申告書作成会場で誤った取り扱いを指導されるかもしれません。会場には、所得税を専門とする職員さん以外に、法人税の担当やアルバイトさんまでいます。
概ね、信じて行動していいと思いますが、万が一もあります。誤指導があって、後で文句を言ってもどうにもなりません。みなさん自身が、正しい知識を身につけることが大切です。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)