昨年から今年にかけて、集英社が漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」をベースにしたスマホアプリの開発・リリースに力を入れている。ジャンプコミックスの電子書籍が購入できる『ジャンプBOOKストア!』や、写真をジャンプ漫画風にして楽しめる『ジャンプカメラ!!』、そして今年8月に配信され大きな話題を呼んだデジタルの雑誌『ジャンプLIVE』などだ。


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 なぜ集英社は「ジャンプ」関連アプリを積極的にリリースしているのか。週刊少年ジャンプ副編集長の細野修平氏は、ジャンプがデジタルに力を入れるきっかけについて「『ジャンプBOOKストア!』 の反響が大きかった」ことを挙げる。

 「2012年は電子書籍のプラットフォームが揃うと言われていた年でした。様々なプラットフォームが出尽くす前にジャンプコミックスを電子書籍で販売しておきたかったんです。できるだけ多くの人に多くの媒体でジャンプ漫画を読んでほしいというのが、ジャンプ編集部の方針。それなのに電子書籍が買えないのはおかしいですから」。


 そうやってリリースした『ジャンプBOOKストア!』は、100万DLを突破するなど編集部の予想を超えて大ヒット。コミックスの売り上げも上々だった。「これならジャンプの名前を冠したアプリを作れば使ってもらえるのでは」――そんな思いから、2013年になって『ジャンプカメラ!!』をリリースした。

 『ジャンプカメラ!!』は写真をジャンプ漫画風に加工できるカメラアプリ。ジャンプキャラや吹き出しなどのスタンプを写真に貼り付けることができ、SNSで共有できる。「ソーシャルな取り組みは色々なところで行っていましたが、公式でそういう場を作りたかった。
DL数も予想より良かったですし、何より中学生くらいの若い読者が思ったより多くて驚きましたね」(デジタル事業部・籾山悠太氏)。 電子書籍販売アプリに続くカメラアプリのヒットで、ジャンプのアプリ化に手応えをつかんだデジタル事業部だが、一方で細野氏は「この伸び率は来年あたりで止まるのではないか」とも予測している。電子書籍店も出揃い、スマホも普及しきったことで、今後の大きな伸びは見込めないからだ。

 「そんな中、デジタルでヒットを出していくためには、"デジタルでしか読めないコンテンツ"が必要なんです」(細野氏)。

 そこから生まれたのが、本格的なデジタル雑誌であり、漫画だけでなく動画などデジタルでしか見られないコンテンツを多数盛り込んだ『ジャンプLIVE』だった。紙の本をデジタル化するのではなく、最初からデジタル向けに特化したアプリを作る――前例のない挑戦は、まず社内での理解を得るのが大変だった。


 「実際に作ってみせればすぐに理解してもらえましたけど、今までにそういうアプリがなかったので説明が大変でした。そうまでしても『ジャンプLIVE』を創刊したのは、『ジャンプBOOKストア!』 の反響がよかったから。ここに読者がいると感じたんです」(細野氏)。

 新しい挑戦だからこそ、これまでと同じことはやりたくない。そんな思いから、スマホならではのコンテンツを続々投入した。たとえば漫画家の荒木飛呂彦と松井優征という異色のコンビによる料理動画だ。
人気漫画家が2人そろって、しかも料理を作る――斬新なコンセプトが、ツイッターなどを中心に大きな話題を呼んだ。

 「最初は荒木先生に漫画をお願いしに行ったのですが、スケジュール的に難しくて、代わりに何かやるよと仰ってくださったんです。それで、なぜかパスタを作るかボウリングをするかの二択になって、じゃあパスタですかねと(笑)」。

 ジャンプで活躍する漫画家陣が多数参加している『ジャンプLIVE』は、細野氏の思惑通り大ヒット。12月20日には第2弾の配信もした。

 「アプリ自体も使いやすく改良してありますし、前回以上にジャンルのバリエーションを増やしています。
今後は連載漫画を増やしていきたいですね」(細野氏)。

 来年以降のデジタル戦略はまだ決まっていないが、何とか前半の間に次の『ジャンプLIVE』を配信したいという。スマホアプリにおけるジャンプの挑戦は、まだ始まったばかりだ。(取材・文・写真:山田井ユウキ)