深夜のお笑い番組『あらびき団』(TBS)で、昨年から進行するヘンな現象がある。

 アイヒマンスタンダードという芸人演じる「韓国のバックダンサー"ペ"」という人物による「韓国あるある」漫談。

漫談の途中でペの携帯に、マネージャーなどから電話が入り、相手に「鉄板ネタセヨ」といった感じに説得。ネタに戻るが、結局すべる。そして、再び携帯に向かい、「ドンズベリセヨ~」と泣き言。というもの。

 これが、なんともいえない哀愁ある間と表情が相まって、『あらびき団』人気ネタのひとつとなってるわけだが、ある回の放送で登場した、恋愛小説家西野のネタで、"事件"は起こった。

「どうもー。

私、メキシコの方でバックダンサーをしてます、"ホセ"です」

 既視感アリアリの体で登場した西野。携帯→ネタに復帰→スベる→「ドンズベリムーチョ」で締めるという、まったく同じ流れの、堂々とした「パクリ芸」を展開した。番組MCの東野・藤井に罵倒され、逆においしい状態になってしまったことから、さらに「悪ふざけ」は進む。

 西野は今度はナポレオン風の衣装に身を包み、「フランスの方でバックダンサーをやってます、セザールです」と、別キャラとして"フランス漫談"を披露。さらに、西野ばかりでなく、"タイ漫談"の小森園洋志、そして先日も、日本パブリック連合 中野による"中国漫談"と、『あらびき団』の番組内限定ではあるが、"海外漫談"ネタが増殖を続け、今では"不連続な集団芸"化している。

 たとえば古典落語のように、ひとつのネタを語り継いでいきながら練り込んでいくものとは違い、こんな国名と言い回しだけ変えて演者を変えてつなげていく「パクリ芸」(言い方をよくすると「オマージュ芸」か)というのは、長いお笑いの歴史でも、ない。

 あるお笑い関係者は言う。

 「福山のモノマネで他の芸人のネタをパクるという、みっちーが有名ですが、フリーザがオリラジの"武勇伝"をやるという芸のBAN BAN BANとかもいますし、キャラクター性の強い、分かりやすい笑いが人気あるので、まだまだパクリで笑わせるというスタイルは増えてくるんじゃないでしょうか。アイヒマンさんの芸も、よく整理された優秀なフォーマットということでしょう。ただ、元ネタ自体がまだ『あらびき』周辺しか浸透していないところが残念ですが」

 アイヒマンありきのパクリ芸なわけで、アイヒマン的には逆においしいのではないだろうか。恋愛小説家西野に聞いたところ、

 「アイヒマン自身は、楽しんでいるようですよ。とにかく『飯おごれ』としつこいです」

 とのことだが、パクリという禁断の果実に手を出した代償も少なからずあったよう。

 「ネットに『恥知らず! テレビ出るな』的な書き込みもありましたね」

 しかし、「楽しんでいる」と言われたアイヒマンスタンダード本人はといえば、

 「後輩に犯されてる気分ですよ」

 と、全然喜んでいなかった。

 「何より腹立たしいのは、『あらびき団』のDVDに、ちゃっかり恋愛小説家西野のネタも収録されて、私と同額のギャラを手にしていることです......」

 それならば、アメリカやイギリス、インドなど、これからも続々と登場しかねない他国のキャラを、商標登録のように、アイヒマンが先回りしてしまうというのはどうなのだろうか。

 「自分自身としては、あのネタは韓国バージョンでしかありえませんので。でも、電撃ネットワークのギュウゾウさんに、"スペインあるある"をやらせて欲しいと言われたときは、ちょっと嬉しかったです」

 結局いいのか! 最終的には各国の代表集めて「イッツ・ア・スモール・ワールド漫談」か。しかし、ネタのフォーマットが大人気であることは間違いないようで、フォーマットに印税が発生するシステムがあれば、いいのにねスムニカ。
(太田サトル/サイゾー公式携帯サイト「サイゾー裏チャンネル」より)



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