鈴井さんの演劇への強い想いと葛藤は、今回発売された自伝的私小説第二弾『ダメダメ人間~それでも走りつづけた半生記』にもたびたび登場する。この秋、役者としてじつに12年ぶりに舞台に立つ鈴井さんに、今の想いを聞いてみた。

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――来月6日に旗揚げ公演を控えた「OOPARTS」(オーパーツ)は、かつて鈴井さんが主宰していた劇団(1998年に解散)と同じ名前ですが、劇団としての復活ではない…?

鈴井 劇団ではなく、あくまでもソロプロジェクトという位置づけですね。この本にも書きましたけど、ちょっとダークな内容の作品を作ろうとすると「どうしたの!?」と驚かれ、「“ミスター”のイメージと違う!」と反対される。それは僕にとって、とても不自由で面倒くさい。ならば、いっそのこと、鈴井貴之という名前は“ミスター”のためにとっておいて、新たに別のフィールドをつくってしまおうと考えたんです。

――今回の本にも、鈴井さんの初監督作品である映画「man-hole」を巡って「らしい・らしくない」問題が勃発したエピソードが登場します。

鈴井 北海道だけに限定すると、ダーク寄りのキャラとして認知されている部分もあるんですけどね。
道民の僕に対するイメージは「毒舌」「恐い」「殺される」(笑)。ラジオ番組に届いたファックスを時には人目もはばからず、ガンガン破り捨てたりしてましたから。

――今月からいよいよ、本格的な稽古が始まりました。12年ぶりの舞台はいかがですか。

鈴井 もうやらないかもしれないですね。安田顕君が「3回目には出たいと思います!」って言っているんですが、そこまで持たないかもしれない(笑)。
体力はともかく、気力がね……。舞台の上に立つというのは本当に大変なことなんだなと痛感しました。

――ええ!? まさかの終止符宣言ですか?

鈴井 だって、もうピークじゃないですから……。ちょっとしたセリフを大声で言うだけでも、全盛期のときと比べると感覚がまったく違う。「できるじゃないですか、鈴井さん!」と言われるような結果になればいいとは思うけど、自分自身が納得できるかどうか……。やってみないとわからないですね。
12年前に「完全消滅」といって劇団を解散し、とはいえ、終止符を打ちきれずにいた。でも、今回の旗揚げ公演が役者・鈴井貴之の息の根を止めるかもしれない。それは非常にリアルだし、恐ろしいのと同時にたまらなく面白いですね。

――役者・鈴井貴之に会えるラストチャンスになるかもしれない。

鈴井 そうですね。今回の舞台はDVD化などは一切しないつもりです。
“生前葬”のようなものですよ。ホント、成仏してくれって感じですね。こんな姿は二度と見られませんよ……ということになるのは寂しい! それはそれでいやだな(笑)

どっちなんですか!
さて、次回はいよいよ最終回。鈴井さんが葛藤の日々の末に見つけた「己の歩むべき道」とは――。(島影真奈美)