ゾンビ映画が全世界で年間40本以上もリリースされているのをご存知だろうか。しかもアメリカやイギリスだけでなく、ドイツ、フランス、韓国、ギリシャ、パキスタン、最近ではキューバなど全世界で作られている。
日本では映画はそれほど多くないものの、「バイオハザード」「デッドライジング」等のゲーム、『アイアムアヒーロー』『さんかれあ』等のマンガ、『これはゾンビですか?』『オブザデッド・マニアックス』等のライトノベルでゾンビがあふれている。そんなゾンビブームの中、日本語ゾンビ本のスタンダード『ゾンビ映画大事典』の待望のアップデート版となる『ゾンビ映画大マガジン』がついにリリースされた。編著の伊東美和さんは1979年の「ゾンビ」以降30年以上に渡ってゾンビ映画を観続けているゾンビ映画ウォッチャーの第一人者。そんな伊東さんにゾンビ映画の楽しみ方や過去から現在にいたる動向まで、思う存分ゾンビの話を聞いてきました!

――前作(『ゾンビ映画大事典』)は私のバイブルです。前作では1932年~2000年にリリースされたゾンビ映画約350本をレビューしていましたが、今作でも2002年から2010年の約300本が収録されていて、リリースされている数がほとんど同じというのに驚きました。

伊東 もっと軽い感じの本になるはずだったんですけど、結局調べてみると凄い勢いでゾンビ映画がリリースされてたんですよ。


――300本以上もリリースされているとリスト作るだけでも相当大変だと思いますが、どうやって調べたんですか?

伊東 基本はネットですね。映画のデータベースから拾って、そこにゾンビ映画のリストをつくってるサイトやホラー映画の通販系サイト、あとはゾンビ映画の研究書や雑誌から見つけたタイトルを追加していく。スタッフデータも同じようにして拾っていきました。間に合わないものもありましたけどね。ものすごい勢いで出ていくんで。その後で、日本でリリースされている作品を調べて、全部突き合わせていく。


――あ、なるほど。原題のままで載ってるのは日本では未発売ってことなんですね。まとめたものがあると、日本語版は諦めて海外版を買う覚悟ができてありがたいです。

伊東 ゾンビ映画って数が多くて、さらに日本版が出ているかどうかとなると調べるのが大変なんですよね。ビデオマーケット(※)さんでもこれを機にゾンビ映画のタイトルを整理して販売に力を入れたいというのもあって、今回はソフトを提供していただきました。それでも、60本~70本は自腹で買ってますけど。

※新宿にある輸入DVD、ブルーディスク専門店。ホラーやSFなどマニアックな作品が充実している

――自腹! レビューの中には入手困難みたいなことが書かれていたものもありましたが。

伊東 ソフト自体が絶版になっちゃってて手に入らなかったものもありますね。ものすごいプレミアがついてたり。あとは、ほんとに家族と友達だけで撮ったようなインディーズ映画で一般にはほとんど流通していないとかね。

――そこまで数があると全部のレビューも大変だったと思うんですけど、ここに注目してほしい、というところはありますか?

伊東 面白い作品を探すためのガイドになれば嬉しいですけど、あとはなんかこう……インディーズゾンビ映画の不毛さを感じていただければ。


――ふ、不毛ですか。

伊東 ここ10年は特にインディーズの作家で、ほんとに自己満足のために撮ってる人たちが多いんです。80年代のフィルム撮り、たとえばジャン・ローランとかジェス・フランコの作品はひどいことはひどいんだけど、映画の体裁はかろうじて整えてる。整えきれてないかもしれないけど、整えようとはしている。今のインディーズは違いますね。観ててつらい。


――つらいというとどれくらいのレベルなんですか?

伊東 もう照明が暗くて見えないとか。録音がひどいとか役者がひどいのもあるし。一番つらいのは何も起きないやつですね。

――ゾンビが出るのに何も起きないんですか。

伊東 いや、ゾンビが出るまでがむちゃくちゃ長い。何も起きないまま半分以上過ぎるとか。
そういうのはしんどいですね。

――人に観せることをあまり考えてない。

伊東 そうそう。単純にオレもゾンビ映画撮ってみたい、っていうレベル。何か凄いものを撮ってやるぜっていう野心もなく、友達と一緒に楽しむために作ったような作品。そういうのってやっぱきついですよね。あんたの友達じゃないしっていう……。

――昔のものと比べてもそこまでひどいものですか?

伊東 まあ「ホワイトゾンビ」(最初のゾンビ映画)がそうだったように、インデペンデントの弱小プロダクションがゾンビ映画を作ってきたのは間違いないですよね。ただ一応金儲けは念頭にあって撮っていたと思う。今のはほんとに仲間内だけの楽しみやオマージュだったりするっていうところが違うところのひとつでしょうね。

――お金を稼ごうと思ったら何とか人にみせられる内容になるという……

伊東 身も蓋もないですけど、それはあると思いますよ。

――その他に2000年以前と以降で違うところはありますか?

伊東 例えば70~80年代はウエスタンだとかエロチックだとか他のジャンル映画を撮った人がゾンビ映画に参入してきた。つまらなくてもとにかくヘンで驚かされるということはあったんですね。たとえばルチオ・フルチなんか、やっぱりマカロニ・ウェスタンと同じ文法なんですよね。目玉のどアップとか。

――目に木片が突き刺さる、「サンゲリア」の有名なシーンですね。

伊東 そうそう。今の監督はいうなればチルドレン・オブ・ザ・デッドで、80年代のゾンビ映画を観てきた次の世代なんですね。その影響下から出てない。

――ジョージ・A・ロメロ監督の影響が強すぎるってことなんでしょうか。

伊東 そうですね、ロメロを頂点とするツリーの中に収まっちゃってて、別のルーツを持っていない。だから驚かされるようなものがないのかな。そういう意味でつまらないっていう言い方はできるかもしれない。

――逆に共通しているところって何かありますか?

伊東 えーと、終わりが近づいているところかな。

――えっ。

伊東 「バイオハザード」がリリースされる少し前、えーと、2000年にゾンビ手帖っていう『ゾンビ映画大事典』の前身となる同人誌を出したんですけど、そのとき既にゾンビ映画は斜陽だったんですね。次に何するのかっていうネタがないんじゃないかと思った。

――その後は走るゾンビが出てきて息を吹き返した、という内容が今回のコラムにも書いてありましたね。そのコラムの最後に「繰り返されてきたゾンビ黙示録も消費され尽くし、いよいよその終わりが近づいているのではないだろうか」とあって、気になっていたんですが。

伊東 ゾンビ映画で一番ヒットした「ゾンビランド」は、ものすごくオーソドックスな世界観だったじゃないですか。これ以上やれることがあるのかなと。逆に走るゾンビは当たり前になっちゃったし、POVスタイル(※)もジャンルとしてできちゃったし、これから何か新しいものをつくるっていうのはなかなか難しいんじゃないかな、と。それで1回リセットしてほとぼりをさますじゃないですけど、あらためて考え直す時間があった方が面白いゾンビ映画が生まれるんじゃないかと思ってます。
※ポイント・オブ・ビュースタイルの略。劇中のカメラがそのまま観客の視線となるようなカメラワークを指す。死角が多いのでいきなりゾンビが出てきてびっくりすることが多い。代表作は「REC」

――ロメロ監督がダイアリーで今までの進化はなかったことにして最初に戻したような。

伊東 そうそう、そういう感じ。ロメロは毎回何かしら趣向を変えてくるじゃないですか。成功しているかどうかは別にしても、次に何を見せてくれるか楽しみですよね。だから今みたいなブームとしてはもう1回終わっていいんじゃないかなと真剣に思ってますけどね。

――そんな状況でもレビューを続けている理由は……。

伊東 まあ今後リリースされることもなく無かったことになる映画もあるでしょうから、それらの一端でも記録できればいいなと思うんですね。どんなかたちでも。ゾンビ映画供養みたいな。供養にもならないかもしれないけども。

――レビューのときにはどういうところに評価基準を置いていますか?

伊東 基本的には面白いかどうかというのがもちろんあるじゃないですか。もうひとつは、やっぱりゾンビ映画だからグロいかどうか。あとは作品の出来とは関係ないですけど、過去のゾンビ映画のどこからどう影響を受けているか。何を参考にしていて、どうオマージュを捧げているかというのが気になりますね。

――ゾンビ映画史の流れの中でどういう位置付けなのかという。

伊東 そうそう。まあ、今年で40歳になりましたんで、ぼく。あんまり攻撃的にならず、少しでも面白いところがあれば拾っていきたいっていう前向きな気持ちで挑んでおります。

ブームが終わりそうと聞いて少しショックでしたが、後編では気を取り直してゾンビ映画の魅力について伺います!(tk_zombie)