「アニメーションの監督と演出と絵コンテ。名前はよく聞くけど、どういう職種なのかいまいちわかりません、違いを教えてください」
開演前に客席に配られていたアンケートでは、こういう質問が過半数を占めるという。
出演者からも「意外と知らないんだね」という声が上がっていた。アニメファンであってもよくわからない仕事、それが監督なのか。

ここは新宿ロフトプラスワン。
客席からの質問を読み上げたのは「美少女戦士セーラームーン」「おジャ魔女どれみ」「ファイ・ブレイン 神のパズル」「たまゆら~hitotose~」の佐藤順一監督
4月15日(日)に行われた「池Pプレゼンツvol.15アニメ講義5時限目~監督って何するの~?」の一コマだ。

「カレイドスター」や「ロミオ×ジュリエット」の池田東陽プロデューサーや佐藤順一監督が毎回授業形式でアニメについて語っているこのイベント「アニメ講義」。
第5弾となる今回のテーマは「監督」。
アニメのオープニングやエンディングのテロップでいつも目にする監督(シリーズディレクター)という職業。キャラクターに声をあてる声優や、絵を描く作画監督などのアニメーターは理解できるけど、監督っていったいなんだ? なにをしている人たちなの? その疑問に答えるために3人の監督が集まった。
イベントレギュラーの佐藤順一監督(校長と呼ばれている!)。「アスタロッテのおもちゃ!」「あっちこっち」の追崎史敏監督。「映画 プリキュアオールスターズDX」シリーズ、「スマイルプリキュア!」の大塚隆史監督。
うーん、すごい監督ばかりだ。

佐藤順一校長の解答。
「絵コンテを元にカットを組み立てて画面にしていくのが演出。絵コンテはシナリオを作品にするための設計図。監督はほぼすべての作業に対して責務を持っています。演出と絵コンテは現場作業で、アニメーターさんに『こういう画面をつくりたい』と伝えるのが実務。
会社によってばらけているところもあるけど、演出と絵コンテはなるべく同じ人がやったほうがいい」。
でも、演出と絵コンテを兼任すると1話にかける時間が長くなってしまうので、分業にすることもふつうのことなんだそうだ。

〈脚本の流れを整理して全体を構成していく。絵コンテが完成した後は各スタッフに具体的な指示を出していきます(略)アフレコのディレクションや音楽のかけ方などの音関係まで考えて仕切る音響監督の仕事までを演出さんが行ないます〉
そういえば、『プリキュア シンドローム!』のインタビューで聞いたとき、大塚監督は絵コンテについてこう答えてくれたっけ。

と、ここまで、ほんとうにまじめな「講義」を想像するかもしれないけど、それだけではない。池Pの愛称で親しまれている池田プロデューサーのキャラクターそのまま、遊び心満載のイベントだ。
今回のために用意されたスペシャルメニューもそのひとつだ。
追崎監督が用意したのはつみき酒。「あっちこっち」の主人公つみきにかけている。佐藤監督が用意したのは芋焼酎、佐藤(白)と佐藤(黒)。はじめての参加なので詳しいところはわからないのだけど、佐藤監督には「白佐藤」と「黒佐藤」の人格があるらしい(それにちなんだお酒のチョイスのようだ)。と、トークのあちこちで出演者たちが突っ込んでいた。
佐藤監督は「いえいえ、僕は白です」とにこやかに言い張っていた。
大塚監督が用意したのは、幸せカラー、ピンクのかわいいお酒(飲むと気合がはいる気がしました、なぜだろう)。

佐藤順一監督は「新竹取物語 1000年女王」(1981年)、「パタリロ!」(1982年)からアニメ業界に携わっている。いままで担当したアニメの経歴をそれぞれ流していたが、佐藤監督だけ作品数が桁違い。
「アニメの歴史を見ているかのよう……」。
とは、まさしく1981年生まれの大塚監督。
「子どものころ、佐藤さんがやっているアニメに胸を撃ち抜かれた」と、憧れの監督の名前に佐藤を上げていた。

「監督は現場でどこまで口をはさめるのでしょうか」
ゲスト声優、野島裕史がアンケートを読み上げる。
「なんでもできます」
即答する佐藤監督。大塚監督も続く。
「僕はまだテレビの監督のやり方がわかってないのもあるんですが、各セクションのスタッフには作品の方向性を理解してもらうために、なるべく全部の作業工程をチェックして、直接各スタッフに色々な事を伝えています。

「絵が描けなくても監督はできるんでしょうか?」という質問も。
「絵を描くということは特殊技能ですし、プロとして完成画面にするための絵は僕には到底描けません。」
以前、大塚監督にインタビューしたときに絵コンテを見せてもらったことがある。キャラの表情や背景までびっしりと書き込んでいた。アニメの世界ではあそこまでできても、まだ描けないというのか……!
「監督は必ずしも絵を描けなくていいんです。下手でもいい。どういう絵が欲しいのかがアニメーターに伝わればいいんです。絵に頼れないから、別のところでなんとかしようとする知恵がつく。どう面白くするかが大事です」と佐藤校長が締める。

イベント第二部で行われたのは「お題のキャラクターをうろ覚えで描いてみようという」コーナー。池田プロデューサーは「まじめだった第一部と違ってお遊びです」と言っていたけど、これがすごい。
難題をなんなくクリアしていく監督たち。とくに再現率が高いわけじゃない(失礼!)。細部は違うけど、とてつもない説得力がある。ポイントポイントでちゃんと伝わる絵になっているのだ。キャラクターそのものじゃなくて、シチュエーションを描き込んだりもしていた。これが佐藤順一監督の言っていた、「伝わればいい」ということなのだろう。

あと、プロデューサーは、本当に絵を描けなくてもいいということは、よくわかった。
(加藤レイズナ)