“アイドルの振付は、ダンスに造詣のある一部の人以外にとって、最初は「連続した動き」くらいの認識なのではないでしょうか。しかし、そのアイドルを好きになればなる程、歌詞を読み込んだり、振付を自然と覚えるようになっていき、そのうちに「この動きは、この歌詞だからこうなっているんだ」という発見があるはずです”

『IDOL DANCE!!!〜歌って踊るカワイイ女の子がいる限り世界は楽しい〜』は、ダンスの切り口からアイドルを解説した本。

アイドルダンスには二大特徴がある。それは、歌詞と振付がリンクしていること。そして、振りコピ(お客さんが振付を真似して踊る)を前提とする客席参加型であること。

歌詞は振付とリンクするだけでなく、歌詞から物語をふくらませて表現することも可能だ。
例えばバレンタインソングであるPerfumeの『チョコレイト・ディスコ』。歌詞にはチョコレートを手作りする描写はないが、間奏のときに、泡立て器でボウルをかきまぜる動きがある。


“こうした表現の全てが観ている人達に伝わるわけではないと思いますが、楽曲の世界観を細かく想像しダンスで表現することは、演者であるアイドル自身の表情や表現力を豊かにするための大切な一工程だと考えています”

著者は、ガールズロックユニットPASSPO☆や、元ハロプロエッグの子たちを集めたアップアップガールズ(仮)の振付を担当している竹中夏海さん。

ブログで映画『のぼうの城』をアイドル映画と読み解き、のぼうが命をかけて敵兵の前で舞い、敵兵たちが自然に踊りだすシーンを「アイドルと振りコピするファンの図だ」と言うくらいアイドルダンスのことばかり考えている。

そんな著者がどうやって振付しているのか、もっと知りたい。教えて竹中先生!
というわけで、発刊記念トークイベント「あいどるだんすであそぼ」に行ってきた。竹中さんと作曲家のペンネとアラビアータさん、michitomoさんが、竹中振付楽曲のベスト3を選び、飛び入りで参加した作詞家のNOBEさんとともに、楽曲や詞、ダンスがどのように作られるのか語った。

竹中さんが2位に、ペンアラさんが1位に入れたPASSPO☆の『Love Diary』は、女の子が好きな人への想いを日記に綴る歌だ。

ペンアラさんは、クルー(メンバー)のフォーメーションがよく分かる2階席から振付を見て、感動した。
「9人のフォーメーションがページみたいに開いたときに、おおおおー! って」
「最初は縦一列のところから左右対称のV字に開こうかなって思ったんですけど、考えたら日記のページって片方から大きく開いていくので、そのようにしたんですよ。いちばん後ろのゆっきー(藤本有紀美)は舞台の上手から下手まで一気に動くことになるから、すごい大変なんですけど(笑)」
「途中で担当カラー白のあいぽん(根岸愛)を、赤のなおみん(安斉奈緒美)が後ろからぎゅっと抱きしめるのは、あれですよね」
「恋の色! 白のページがね、色づくんですよ」
「竹中さんは、妄想をふくらませて、詞が3だとしたら、それをいつも10ぐらいにして表現してくれるんですよ」

竹中さんのPASSPO☆ベスト1は『バスタブ』だ。この楽曲はシングル『Next Flight』のB面に収録されたバラード曲。湯につかりながら好きな人を想う女性の歌だ。
「まずおふろというシチュエーションで、マイクを小道具にすることを思いついたんです。
マイクをシャワーヘッドに見立てて、シャワーを浴びようと。それで、おふろに入る前、服を脱ぐってところからぜんぶやってます。アイドル史上初のすっぱだかで踊っている設定。で、最後におふろからあがって眠りにつくという流れの振付にしてたんですが、レッスンのときにメンバーから、『恋をしてたら、おふろに入ってる間もメールが来てるんじゃないかって気が気じゃないから、おふろからあがった後に携帯を確認して、やっぱり来てないってがっかりして寝たほうがよくない?』って言われて、それだー! と。恋する女の子あるあるですね。メンバーとの妄想しがいのある歌詞だし、もうたまらないです。
私、“クソ乙女”なんで(笑)」

実際に映像が流される。9人のメンバーのうち、5人はマイクスタンドをシャワーに見立てて浴び、4人は椅子に座ってバスタブを表現する。眉根を寄せて切ない表情のもりし(森詩織)。湯面とあそぶような、ゆらゆらとしたメンバーの腕の動き。
あんにゃ(玉井杏奈)が完全に裸に見えるんですよ、私には」
と竹中さんが言うとおり、あんにゃは誰よりも動きが色っぽい。なんだか髪から雫がしたたっているように見えてきた。


トークを主体とした第一部は、1時間半を予定していたところを30分オーバーして終了。第二部は竹中さんの振付講座。
アップアップガールズ(仮)の『UPPER ROCK』とPASSPO☆の『Love Diary』を教えてもらう。竹中さんはふわっと広がる青いスカートを揺らして舞ってみせた。
その後、お客さん総立ちで踊った。『Love Diary』のサビで、チアガールみたいに両腕を交互にあげるのが簡単で参加しやすい。
歌詞の前向きな気持ちとリンクして、心が浮き立った。

第一部でアイドルダンスの鑑賞の仕方を教え、第二部で参加する楽しさを実体験させてくれたイベント「あいどるだんすであそぼ」。
じっさいに喋っているところをみて、竹中さんがいかに歌詞から物語をふくらませるのがすきな妄想ガールかわかった。彼女の妄想力が、アイドルの魅力を引き出している。(与儀明子)