外食に行くなら「食べログ」、料理を作るときもネットで検索するのが当たり前になった昨今。TwitterやFacebookでも食に関するこだわりを語ったり、写真をアップする人が多い。
そんな中、見た目も味もよい“よそ行きゴハン”に、ナナメ上から斬り込んでいるブログがある。

『37564学園』などの著作で知られるホラーマンガ家の神田森莉さんが日々の食事をアップしているブログ「不味そう飯」には、例えば煮物に餃子、さらにゴーヤーを入れて煮込んでみた……というような残り物を混ぜた“何か”や、カチカチの冷やご飯にサバの缶詰をのせてマヨネーズをトッピングした“何か”など、一見してヤミ鍋風のメニューが並んでいる。

リモコンや歯磨き粉などが散らばった、明らかに片付けてないテーブルに置かれたメニューの写真もインパクトありすぎなのだが、そこに「オリエンタルな初夏のそよかぜ」「お食事砂漠」「マヨネーズを足すと宇宙が産まれた」といった謎のコピーが添えられているのもツッコミどころ満載。

メニューは「肉」「チーズ」「味噌」など、使用食材などでジャンル分けされているのだが、「ゴミ」「ゲロ」って……一体どんなメニュー??? さまざまな疑問を解き明かすべく、ご本人に話をうかがった。

――どんなきっかけで「不味そう飯」をスタートされたんですか?
「5年ほど前に携帯サイトをはじめたんですが、毎日更新できるコンテンツがひとつ欲しいなと思ったんですね。以前から自分のブログで自作料理の画像をアップしていたので、それを携帯サイトに転載する形で『貧乏食写真集』というタイトルではじめました。
Twitterのフォロワーさんに『これは不味そう飯ですよね』って言われてからこのタイトルに変えたんですが、この命名でコンセプトが絞られたというか……。自分としてはまずいつもりはなかったんですけど、自然とまずいものになってしまったという不思議な現象を集めています(笑)」

――くくりとしては“創作メニュー”という感じですか?
「まずそうなものを狙って作ってるわけじゃなく、普通に作って食べてるものを載せてるだけですね。主に朝食と昼食を“なるべく火を使わない”というコンセプトで作っているんですが、多分そこに問題があるんじゃないかと(笑)」

――コンロや電子レンジを持ってないわけじゃないんですよね?
「朝起きたばっかりだと炒めものとか面倒だし、簡単に済ませようと思った結果がああなんです。前にそうめん用にめんつゆを作ろうとしたら、市販のものと同じ材料をそろえて混ぜれば何とかなりそうなものなんですけど、火を通さないと不思議とめんつゆにならないんですよね……」

――確かに(笑)。味や見た目ですとか、神田さんの考える「不味そう飯」の定義はあるんですか?
「基本的にネタとして作ったものはなるべく入れないということですね。マンガ家っていう職業柄、おもしろいことをやりたくなるんですけど、自然に作ったらヘンなメニューができたっていうのがおもしろいんじゃないかな? って」

――ブログを読んでいて気になったんですが、神田さんには奥さまがいらっしゃるんですよね? 奥さまがご飯を作ったり、一緒に食べたりすることは? 
「料理はだいたい私が作っているんですが、夕食しか一緒に食べないのでブログに載せているものは妻は食べてないんです。
ブログを見て『これ、ホントに食べたの?』とか言われることはありますよ(笑)。でも、私が料理に対して守備範囲が広いというか、奇抜な食材や調味料の組み合わせにも耐性が強いというのを理解してくれてますから」

――“耐性”って、言い得て妙ですね。
「ご飯にチーズをのせてそれにマヨネーズをかけたものを見て、妻がビックリしていたんですけど、なんで驚くのかわからなかったですね。チーズとマヨネーズって、サンドイッチに一緒に使ったりするじゃないですか? 虫を入れたりしてるわけじゃないし、具材の組み合わせはそんなにヘンでもないと思ってるんですけど」

――そういう感じで、「不味そう飯」の中でよく使う“鉄板”の調味料はありますか?
「調味料はひたすらマヨネーズが多くて、あとはケチャップ、そばつゆですね。基本的に味覚が貧しいというかこってりした味付けの食べ物が好きなんで、もう少し脂っ気がほしいと思ったらマヨネーズを足してしまうことが多いんです」

――メニューのジャンルで「ゴミ」と「ゲロ」が見た目的にもかなりインパクトがあったんですが、この2つの違いは……?
「水分量の違いですね。乾いてるのが“ゴミ”、ねちゃっとしてたら“ゲロ”です。
例えば煮物と餃子とゴーヤーを混ぜたやつは“ゲロ”ですね。これは最後に酒を入れたつもりがみりんだったっていうので、自分でもビックリしましたよね。ちょっと甘くなっちゃって」

――でも、読者からすると神田さんの「間違えた!」の基準がよくわからないと思うんですよ。
「食材や調味料の組み合わせは意外に正当性にこだわっているんです。中華系の調味料に洋食系の調味料や食材をなるべく合わせない、だとか。それをやると、まずそうじゃなくて本当に『不味い飯』になっちゃうから」

――食べてみたら意外においしい、という組み合わせを探す試みなんでしょうか?
「そうです。
でもひたすらまずい組み合わせというのはあって、今まで作った中で最高にまずかったのは、乾燥ワカメを入れたカレーですね。カレーなのに磯の香りがして生臭いんですよ」

――シーフードカレーみたいな感じには……?
「シーフードカレーにはワカメ入れないですよね(きっぱり)。ぜひ、みなさんもカレーにワカメ入れて煮込んでみてくださいよ、本当にひどいものができますから」

――(笑)。では王道の「BEST OF 不味そう飯」を挙げるとしたら?
「“スイーツ”に分類したんですけど、きなこと砂糖とイチゴジャムを混ぜた練りきなこはかなり粉っぽくて不思議な味でしたね。これもやっぱり、火を使わないっていう発想から出た悲劇ではないかと思うんですが。きなこは個人的にイチオシの食材でね、どの家庭でもそうだと思うんですけどお正月に餅と一緒に買うとたいてい余りますよね? それを何とか工夫して使いきりたいと思って、いろいろ挑んでみてます」

――なるほど。
確かにみんな他人が見てないとこでは、余った食材や残り物を組み合わせて食べたりもしてますもんね。
「みなさんブログやTwitterにはキレイなものを載せたがりますよね。私はダメな部分を見せて笑いを取ろうという考え方で、その辺りがギャグマンガ家的な発想なのかもしれないです」

――神田さんは他にも手作り楽器を集めた「自作楽器写真集」や、ガーデニングについて書いた「庭ブログ」ですとか、複数のブログをやっていらっしゃいますよね。毎日のように何かを手作りして、そのレポートを更新していく作業って根気が要るのではと思うんですよ。その原動力になっているのは何なんでしょうか?
「料理や楽器だとかいろんな形があるんですけど、仕組みや原理を考えながら一から何かを作っていくっていう作業が好きなんですよね。それは私の中では、マンガを描くのと同じようなことだと思っています」

ちなみに神田さんのTwitterには4000人以上のフォロワーがいるが、「不味そう飯」のブログを更新しても感想などの反応があまりないのだという。


4000人以上が固唾を呑んで見守る(?)不思議なブログを、あなたもぜひのぞいてみてほしい。……もちろん、食事時以外で。
(古知屋ジュン)