ここ数年、野球界で注目を集めているのがカープファンの広がり。書店の野球コーナーではカープ関連の赤い本が増え、「カープ女子」が急増中、なんてニュースも流れるほど。
その人気は、2012年に放送された『アメトーーク』での「広島カープ芸人」で一気に拡がった印象がある。その「カープ芸人」の一人、アンガールズの田中卓志が、スマホ専用マガジン『週刊野球太郎』内の「野球芸人・アンガールズ田中卓志の鯉バナ」で、最近のカープブームについて、そして期待の若手やカープとFA制度のあり方などを連載で綴っている。エキレビでも、カープとの関わりや下積み時代のことを中心に話を聞いた。


─── 2013年を振り返ると、どんな年でしたか?

田中 僕的には何も変わってないんですけど、周りは結構変化があって。相方の山根が結婚しましたし。だから、取り残されたクズみたいな男になってます(笑)。
やっぱりコンビって、相方が上がると下がったように見られるんだなぁと実感した1年でした。今はただ単に、地に落ちた鳥です。地面でバタバタしている……。

─── 何かいいことは?

田中 マイナスの方向でプラスに働いたことはありましたけど。体型が『進撃の巨人』に似ていると、ソーシャルゲームのCMに出させてもらったりとか。

─── でも、カープが16年ぶりにAクラス入りしました。


田中 そうですね! まさかこんなに暗黒時代が長いとは。広島にいた頃はAクラスが当たり前だったので。

─── 『アメトーーク』で「広島カープ芸人」を取り上げて以降、田中さんを始め、芸能界におけるカープファンの発言力が高まっている印象も受けます。

田中 でも、「カープ芸人」をやるまで、こんなにいたんだ、というのは知らなかったんですよ。それまでは他球団のファンと喋ることが多かったですから。巨人ファンの爆笑問題・田中さんとか、ますおかの岡田さんはオリックスファンだし。
田中さんとは最近も、「(FAで広島から巨人へ移籍した)大竹の人的補償は誰になりますかね?」というのを1ヵ月間くらいずーっと喋ってましたから(笑)。


《野球にかかわれるというだけで》

─── お笑いを始める前のことをお聞きしたいんですが、田中さんは地元にいた頃、広島市民球場でアルバイトをしていたんですよね?

田中 はい、大学時代に。ジュース販売のアルバイトです。真っ赤なコカ・コーラのつなぎを着て「コーヒー、コーラ、ジュースにウーロン茶はいかがですかぁ」と言いまくる(笑)。すっげー言いましたよ。今でもたまに口から出ちゃうくらい。


─── 西武ドームでもアルバイトをしていたと聞いたことがあります。

田中 はい。本当は神宮球場でやりたかったんですけど募集が見つからなくって、僕も最初は川越に住んでいたので。ちょうど松坂投手が入って来た時だから……

─── 99年ですね。

田中 松坂投手が投げる時は毎試合満員。ゲートでチケットもぎりのバイトをしていたんですが、チケットの日付が合っているかを一瞬でチェックしつつ、一人で1500人くらいのチケットをちぎらなきゃいけない。
手早くできる人が重宝されるんですけど、僕は日付を一瞬で見て、パッパッパッと半券をちぎって案内できる実力者だったので、僕がいなかったら松坂フィーバーは支えられなかったんじゃないかと(笑)。

─── オードリーの春日さんも西武ドームでバイトしていたんですよね?

田中 みたいですね。一度話したことがあるんですが、春日の担当は売店らしいです。時期が被っていたかはわからないんですけど、彼は売店で松坂フィーバーを支えていたんですよ。とんでもない数のお客さんでしたから。

─── 田中さんはずっとチケットもぎりを?

田中 あとは、ホームランが出るとお菓子の詰め合わせをプレゼントする企画があったんですね。
ホームラン数で詰め合わせの数が変わるので、カブレラとかマクレーンがホームランを打つと、「じゃあ、プラス20ね」みたいな指示を無線で出したりもしていました。

─── そんなバイトもあるんですね。

田中 他にも駐車場の整理とか、西武ドームの中だけでいろんな現場をやりました。そんなんやるのがメッチャ嬉しかったんですよ。野球にかかわれるというだけでもう。ベテランになると「リベロ」みたいになって、「ちょっとファウルボール監視員が足りないから行って」みたいな感じで。だからあの、「ピピピピピピー」っていうのもやりましたから。

─── ファウルボールを知らせる笛を吹く係

田中 ちゃんと指で今どこにボールがあるかを示しながら「ピピピピピピー」と。そしてバーッと走って行き、「怪我はないですか?」と確認して戻ってくる。笛もただ吹けばいいんじゃなくて、打球があがった瞬間はスタンドに来るかわからないから、「ピ」……「ピ」……「ピ」くらいで鳴らすんです。で、ファウルスタンドに来るのがわかると「ピ……ピ…ピピピピピピーィ!」と。強弱つけないと、お客さんも気づかないんですよ。この強弱で恐怖感が増して、ちゃんと気づいてくれるんですよね。


《自然体で戦えることが一番強い》

─── 99年というのは、大学を卒業して、芸人を目指して上京した頃ですか?

田中 そうです。その頃、西武ドームのカープ対西武のオープン戦にNHKの取材が来て、夜のスポーツニュースに映ったこともありましたね。それを見て、お母さんが「生きてたんだ」と気づいたという。お笑い芸人やるって言わずに上京してきたんで。

─── アンガールズの結成はもっと後ですよね。

田中 最初は、別なコンビを組んでいたんです。山根のほうも別にコンビを組んでいて、お互い解散したあとにコンビを組みました。それが2000年9月なんですけど。

─── でも、大学時代からの知り合いですよね?

田中 はい。当時から友達なんですけど、別々に上京したんです。だからコンビを組めたのは偶然もありますね。

─── お笑い芸人を目指したのは?

田中 卒業するギリギリまで迷って、卒業してからですね。だから、大学院の試験を受けたり、就職活動もしていたんですけど、やっぱりお笑い芸人に挑戦してみたくって。

─── 何がキッカケで目指そうと?

田中 ボキャブラブームですね。僕はボキャブラ世代なので。でも、最初から今のアンガールズみたいな芸風だったわけではなく、本当は、東野(幸治)さんみたいになりたかったんです。でも、自分に合った芸をやらないとダメじゃないですか。東野さんなんて……中身もああいう人だし。僕は今のこういうスタイルの方がやりやすいし、自然体で戦えることが一番強いんですよ。

─── 田中さんというと、多趣味、という印象があります。それは、芸に活かそう、と?

田中 そうですねぇ……でも、コケとか、バイオリンとか囲碁とかは後々出てきた趣味なので、それは「活かせれば」というくらいですけど、やっぱり、野球を活かせるのが一番いいですね。野球はもう、小さい頃から好きなことなので、仕事という感覚にならないくらい楽しいですね、野球の話題は。

─── アンガールズのネタで、草野球をやりながらコントに入る、というのがあったと思うんですが。

田中 フライがあがって「オーライ、オーライ、オーライ」とお互いがぶつかって「どーもー、アンガールズです」と入る奴ですね。結成してネタ作りをしてから5本目くらいの、相当初期のネタですよ、それ。そのネタを作った頃は、野球ネタがあんまり受けない、というのを知らなくて。

─── 野球ネタ、受けないんですか?

田中 ただ単に自分たちが面白いと思って入れていたんですけど、だんだん「あんまり野球の話をしてもお客さん笑わないんだ」というのを気づくんですよね。他の芸人さんでも、ネタ以外のトークで野球の話をしても受けないですから。ネタに活かせたら活かしたいんですけど……まあでも、実は1本ありますよ。「高校球児」というネタが。

─── それはどんな?

田中 でも、それもあんまり野球の深いところには行かず、野球のスイングが下手くそ、というだけで突き進むネタなんです。スイングの善し悪しは女子でもある程度はわかるじゃないですか。また、山根がスゲー変なスイングをするんですよ。

─── 動きとしての面白さ、ということですね。

田中 そうです。女子でも、変な動き、というのはわかるだろうと。お笑いファンって女性の方がとても多いので、その人たちが知っている知識のラインだったら野球を出してもいいんですよ。ある程度の動きの知識はみんな知ってるじゃないですか。

─── ボールを投げる際の「女子投げ」とか。

田中 でも、一塁に投げたらアウトになる、とかになると、だんだん分からない人も出てくるんですよ。インフィールド・フライ、とかになると、もう知ってる女子はゼロですから。そこは気をつけてますね。


《2014年、カープも僕も「ラストシーズン」》

─── 趣味が、カープ以外では、囲碁、コケ、紅茶、バイオリン。渋いというか、ちょっと他の人とは違う物が多いですが、どんな理由で選ばれるんですか?

田中 それはたまたま、単純に好きなになった女の子の影響ですね。囲碁棋士とか、バイオリニストとか、そういう仕事をしている女の子を好きになって、アプローチをしている時に、自分も始めるじゃないですか。で、振られて、その趣味だけが残るという。

─── じゃあ、趣味を見ていけば、田中さんの恋愛遍歴がわかると。

田中 ほぼ全てそうですよ。でもこれ以上趣味は増やせないんですよ。もう既に手一杯。だから、そういう入り方はもうやめます!

─── 芸事・仕事に関して、今年の豊富は何でしょうか?

田中 僕ですか? 恋に仕事に全力投球したいですね。40が近づいて来たので、早く身を固めたいんですよ。野球選手も、早くに結婚した選手の方が安定する、みたいのがあるように、僕も結婚して……今、芸人が異様な結婚ブームなんです。この流れが止まったら、その後10年できない気がする。カープで言うと、マエケンが出て行った後と一緒の状況になってしまうんじゃないかと。

─── 2014年終了後のポスティング移籍が噂されてますね。

田中 だから、2014年、カープも僕も「ラストシーズン」だと思って頑張らないといけない。もちろん2015年に向けても、ルーキーの大瀬良大地、九里亜蓮投手の成長、野村祐輔の成長具合といった期待値はありますけど、マエケンのいる今年が、カープが優勝を目指せる最大のチャンスなんですから。

─── お仕事的な目標は? 

田中 仕事的には……更なる活躍を? 何だろう……じゃあ……レギュラーを1本増やす? そのくらいしかないなぁ。仕事は巡り会わせですからね。

─── あんまりがっついてないんですね。

田中 そうですね。プロ野球みたいに「15勝目指します」みたいのがお笑い界にはないですから。

─── 番組出演本数なんかは最近話題にあがりますけど。

田中 あぁ。じゃあ、それ目指します。あれ、何位まであるの? 20位? じゃあ、そのランクインを目指します。


厳しい下積み時代を球場バイトで楽しく過ごしていた田中さん。それが今では「ゲスト解説」の仕事が入るほど、「広島カープ芸人」としての地位を築きあげています。スマホ専用マガジン『週刊野球太郎』内の「野球芸人・アンガールズ田中卓志の鯉バナ」ではさらに深いカープトークを連載中。野球好き、お笑い好き、カープファンはぜひチェックを!
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(オグマナオト)