「会えない時間があなたへの思いを育ててくれます」
よろしく哀愁か! 
ゴー・トゥー・ベッドでもゴー・ホームでもなくて、ゴーひろみか! 

土曜日18回で、はな(吉高由里子)にプロポーズした、家柄のよい帝大生・北澤(加藤慶祐)の台詞にはたまげました。

朝ドラ「花子とアン」、第3週「初恋パルピレーション!」では、早くもはな役が吉高由里子に変わり、がぜん物語が活気づいてきます。


木曜日の16回で、成長したはなを「さなぎだったはなが美しい蝶になってけえってきたみたい」と美輪(明宏)さまのナレーションが表しますが、ドラマも準備体操を終えて、子役たちが大人俳優たちに変わって、いよいよ本番という感じです。

まず、4月12日月曜日の13回の冒頭、吉高はなが廊下を盗塁のフォームのように滑り込みながら走る動きは、心をつかまれました。

袴でおリボンの女の子がお転婆(死語?)する姿ってどうしてこんなにときめく(パルピレーション)のでしょうか。
しかし、ブラックバーン校長には、その萌えは通じません。
例の罰「ゴー・トゥー・ベッド」(謹慎)をはなに言い渡しますが、この罰が15回では「ゴー・ホーム」(退学か停学)に進化した瞬間は、まさにさなぎが蝶になったように、お! となりました。

なぜ、はなが最大の罰「ゴー・ホーム」を言い渡されたのかというと、門限を破ったから。

学問ひとすじで5年間過ごし、英語の成績は一番、富山先生(ともさかりえ)の訳よりも優れた訳ができるまでに成長したはなでしたが、日曜学校で出会った家柄のよい帝大生・北澤に惹かれて、道を踏み外してしまうのです。
北澤が、唯一「花子さん」と呼んでくれたということは、はなにとってはものすごく重要なことなのです。

はなは、15、6年間、ずっと「花子と呼んでくりょう」と言い続けましたが、誰もそうは呼んでくれなかったんですね。それでも言い続けるはなって粘り強いなあ。

この名前問題は、単に、優雅な名前で呼ばれたいというロマンチストの発想ではなくて、はなの生まれに大きく関わってくる問題として、描かれました。

はなにとって、貧しい小作の家に生まれたことは、やっぱりコンプレックス。
家柄の良い北沢に、自分の家の話が正直にできず、「父(伊原剛志)は貿易会社の社長」という嘘をつきます。

母ふじ(室井滋)は読み書きができず、兄妹は学校にも満足に行けず、未成年にも関わらず、労働を余儀なくされています。
はなは、5年ぶりに甲府の実家に帰ったお正月、妹かよ(黒木華)が紡績工場へ女工として働きに出ることに知ってショックを受けるのです。

家族へのお土産に手作りクッキーをもってきたものの、田舎料理を一所懸命ふるまってくれる母の姿を見ていたら、都会暮らしをひけらかすような気がして出しそびれてしまうエピソードは、やるせない。

家族の状況をみかねたはなは、自分の学校を辞めて家の手伝いをしようとしますが、兄の吉太郎(賀来賢人)は「はなが今やめたら、おかんたちのこれまでの苦労が水の泡だ」と止めます。
家族にとって、はなが東京で勉強することが希望なのです。


はなが「花子」という名前になりたいのは、こんなふうに辛い現実から遠ざかりたいという願望なんですね。
勉強に励むのも、その現れ。未知のことを学ぶことで、今の自分から離れることができる。
父・吉平(伊原剛志)も、「勉強はうんと努力したものが勝つ。身分や金持ちかは関係ない」と木曜日16回で言っています。
想像の翼を広げることも、同じ発想ですね。


この時代(明治)の貧しく身分の低い人たちにとって、学問は希望だった。うちの祖父(明治生まれ)も働いて6人の兄妹を食わせ、弟を大学に行かせる傍ら、独学でドイツ語を学んでいました。

だから、学校には行かず農作業をしている朝市(窪田正孝)が、1週に出てきた教会で本を読んで勉強を続けている姿には応援したくなります。

窪田正孝のひたむきな眼差しが、その思いを強くするんですよ。
彼の演技は、映画「ふがいない僕は空を見た」や「闇金ウシジマくん2」(5月16日公開)などもそうですが、底辺ではいつくばって生きている人間が、心の奥のざわめく感情を必死で皮膚から出さないようにおさえつけていることを、切実に伝えてくるんですよね。

朝市、男前に成長して、はなにたいしてもずっと献身的で、勉強熱心でもあるのに、公式サイトには、はなの将来の夫が朝市ではないことが記されていると思うと、残念でなりません。


甲府から戻ってきて、せっかくプロポーズしてくれた北澤に、はなが本当のことを告白する土曜日18回は、辛かった。

「ほんとははなです。両親からつけてもらった名前は、花子じゃありません」
と認めることは、ある種の儀式のように映りました。

はなは、貧しい暮らしから脱したくて勉強していたことに、家族の夢や希望も背負っているという責任も自覚したのでしょう。もともと、家族のことを大事にしていたはなが、一層、その思いを強くした瞬間です。

しかし、先進的なはずの学校で少女たちは、殿方からのラブレターを燃やされたり、年賀状を検閲の上、墨で塗りつぶされたり、10代のうちにいい家に嫁がないと後がないというプレッシャーに苛まれたり、いろいろな規制に縛られています。

そんな中で、はなはこれから、どういうふうにサバイブしていくのでしょうか。4週めは、早くも仲間由紀恵登場で、またまた急展開な予感。

最後に、今週の「赤毛のアン」とのリンク!
日曜学校で知り合ったカナダの女の子の名前がミニーメイ。「赤毛のアン」のダイアナの妹と同じ名前ですね。

花子が使う「そんだけんど」という方言。
アヴォンリーから都会に出たアンに、残されたダイアナが「私は『そんだけんど』なんて言う田舎者」と自分を卑下する台詞があります。確か、村岡訳のアンだったと思うので、なじみのある甲府弁を使ったのか、と納得できました。
ごきげんよう。(木俣冬)

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