「今日、武道館は私たちだけのものです!」
アイドルグループ9nine(ナイン)初武道館ライブが8月21日に行われた。2005年の結成から、9周年での武道館だ。


9nineのメンバーは、佐武宇綺、西脇彩華、川島海荷、吉井香奈恵、村田寛奈の5人。
武道館への道のりは平坦なものではなかった。9人でスタートし、2006年にインディーズデビューするものの、2007年には2人が脱退。新メンバーとして2人(下垣真香・川島海荷)が加入したが、その後オリジナルメンバーの脱退が続く。
そして2010年。9nineのオリジナルメンバーは佐武宇綺と西脇彩華の2人だけになってしまった。
けれどそれだけではない。川島海荷と、新メンバーの吉井香奈恵と村田寛奈──あわせて5人で「9nine」として再出発した。
そのときに彼女たちに与えられた曲は「Cross Over」。アニメ「STAR DRIVER 輝きのタクト」(通称スタドラ)の前期エンディングテーマだ。
スタドラといえば、謎の仮面と奇抜な服装を着た謎の集団(綺羅星十字団)が「綺羅星☆」という謎の挨拶をすることで話題になったロボットアニメだが、ストーリーは直球の青春アニメ。「Cross Over」も青春のキラキラと切なさが同居する歌詞と曲で、9nineの知名度をぐっと上げた。

あれから4年。9年目の9nineは、武道館の舞台に立っている。

武道館ライブのタイトルは「9nine Dream Live in 武道館」。ステージのセットは遊園地のよう。メンバーたちは口々に「夢」という言葉を口にする。「武道館に立つのが夢だった」「夢みたい」。
あっというまにすぎる武道館の時間の中で、9nineが叶えた夢が大きなものから小さなものまでたくさんある。


■武道館でぶどうパン!

まず叶ったのが吉井の夢。「武道館でぶどうパン」! ……ってダジャレかーい! 最初はネタとして話されていたが、武道館が近づくとともに本気に。本番前にメンバー全員がぶどうパンを食べて、武道館でぶどうパンを達成した。
多くのファンも朝ごはんにぶどうパン食べてました。

■武道館でも、ファンとの距離を変えない

9nineのメンバーたちが、ライブ中何度も繰り返した言葉があった。
「見えてるよー!」二階席や、遠くの席のファンに向けた言葉だ。2013年の舞浜アンフィシアターでのワンマンライブでも、メンバーは何度もこう言っていたのだとか。
インタビューで吉井は「ほんまに顔も覚えられるくらい見えるんですよ」と語っている。さらに大きな会場になったとしても、9nineのスタンスは変わらない。
これはライブの演出にも現れている。アリーナ後方のサブステージや、トロッコでの移動、終盤のサインボールプレゼントや座席に仕込んだサプライズ。
たとえ良席でなかったとしても楽しめるよう、工夫が凝らされている!


■武道館でウェーブ、武道館で写真

9nineのメンバーは、いい意味で等身大。ちょっとミーハーっぽいこともする。
MCで「ウェーブをやってみたい!」という流れに。ウェーブに集中するために客電まで点く!
武道館は構造上、アリーナと二階席がウェーブのタイミングをそろえるのが難しい。メンバーが舞台の端っこから端っこまで走る。特に客席を煽る(?)のは西脇。
何度も何度も繰り返して、若干タイミングはずれたものの、武道館ウェーブを完遂する。
さらにミーハーっぽいことは続く。
「武道館の写真が撮りたい!」と燃える吉井。スマホを取り出し、メンバー&客席のみんなと自撮り! ばっちり本番中だが「武道館なう」とツイート。「私がメンバーの中で一番フォロワー少ないので、これを機にフォローしてくださいね〜!」とさらっとアピールした。
自撮り画像は、アリーナ席のファンはばっちりわかる感じで映り込んでいる。これはもう、めちゃくちゃうれしい(私は映ってませんでした)。


■綺羅星!

9nineのターニングポイントであるスタドラ主題歌の「Cross Over」。メンバーたちもスタドラには思い入れがある。当時のPVやCM撮影の思い出話をするメンバーたち。
「こういうCM撮ったよね、『9nineはSTAR DRIVERを応援しまーす』……」
「「「「「綺羅星☆」」」」」
きれいにそろったタイミングで、5人が綺羅星ポーズをキメる! おお、生綺羅星……9nineの銀河、最高に輝いている!


■マイク、水没

佐武は汗っかきで有名。佐武が汗をかいていないと「もしかして本気を出していない?」と冗談を言ってくるスタッフもいるくらいだ。そんな佐武は序盤から激しいダンスで大量出汗。キレイにキメていたはずの前髪はどんどん崩れていく(ちなみに川島は「ハロプロに代々伝わる前髪の固め方」を伝授してもらったおかげで美しい前髪をキープ)。しまいには、マイクがトラブルをおこしてしまった。
「マイク、水没させちゃった!」
完全に音がこもって使い物にならなくなってしまったマイクを持って、佐武がいったん舞台からはけていく。「これ、ホントにトラブルですからねー」とフォロー(?)する他のメンバーたち。座って思い出話をはじめた。9nineのメンバーは村田以外は全員18歳以上なのだが、なんだか女子高校生感があるなー。


■大盛り上がりの「Party9」

ふだんはライブでやらないアルバム曲も、映像を活用した演出とともに初披露された。今年6月に発売された「MAGI9 PLAYLAND」からが中心だが、ほかのアルバムやカップリングからも曲が選ばれている。
特に盛り上がったのが、アンコールの「Party9」(シングル「With You / With Me」収録)。もともとメンバーが「ライブを意識した曲」「掛け声を言いたくなる曲」と言っていたように、ファンとメンバーのあいだで「P・A・R・T・Y」「9nine!」とコールが行きかう。
「武道館で、みんなで、Party9を歌いたかったー!」


■過去の9nineも9nine

今回のライブでいちばん印象に残った曲を聞くとすれば、多くのファンが10曲目の「白い華」をあげるだろう。この曲は今の5人体制以前の曲で、今の9nineのファンにとってはあまりなじみがない。続く「Sky」「ヒカリノカゲ」もそうだ。
西脇が武道館でこの曲を選んだ理由を語る。「昔の9nineも、9nineだよね」。昔を知らない私でさえもうるっときてしまったので、当時からのファンはもう大変だっただろう。その流れから、今の9nineを象徴する「Cross Over」につなげてくる。まるで9nineの歴史をたどるように。


■9年分の「ありがとう」

最後、ひとりひとり挨拶していく。西脇が目をうるませていた。まっすぐ客席の後方(関係者席)を見つめる。
「9年間、ずっと支えていてくれた家族にお礼を言うって決めてました。途中で諦めそうになったとき、家族が励ましてくれた。本当にありがとう!」
西脇の姉は、Perfumeのあ〜ちゃんこと西脇綾香だ。武道館に拍手が巻き起こる。
オリジナルメンバーの西脇と佐武には、彼女たちにしかわからない葛藤や苦悩があっただろう。ずっと笑顔だった佐武の顔に涙が浮かんだのは、アンコール中かけよってきた西脇と握手を交わした瞬間だ。さまざまな歴史を乗り越えて、この武道館の舞台がある。


■つづくつづく、そして

アンコールの最後の曲は「つづくつづく…」。
〈今日は終わるけど楽し過ぎたから 明日はもっといい日だ〉
びっくりするほど、今日のこの日にふさわしい歌詞。アンコール中に全国ツアーやカウントダウンライブも発表されて、9nineの「明日」を知らされたところで、メンバーたちはステージを去る。
ただ、武道館はこれだけでは終わらなかった。
すぐさま、ステージに戻るメンバー。流れる曲は「SHINING☆STAR」。「Cross Over」に並ぶ9nineの代表曲で、スタドラの後期オープニングテーマだ。
〈星空にはまばたく夢 数えきれぬ願いが〉
〈今 叶う時を 待ちこがれているから 歩き出して〉
サビの部分を、メンバーと一緒に合唱する。……そりゃーもう、泣くでしょ!


思い出したのは、スタドラの最終回。戦いを終えた主人公は、美しい朝焼けを前にこう言い放つ。
「僕たちはこれから、これとは違うもっとすごい空をきっと見るさ」
9nineの5人は「武道館はゴールではなくスタート」と宣言した。9nineの人生という冒険は続く。
(青柳美帆子)