「ごめんね青春!」(TBS日曜9時〜)はごめんねするところなんかひとつもないと思う。誰が何と言おうと、面白い。


宮藤官九郎が描く、三島にある仏教系男子校とキリスト系女子校が男女合併するまでの半年間の物語は、3話で、反目していた三女ととんこーが、男女共学、合同文化祭を賭けたテストをきっかけに、少し歩み寄り、男子と書いて「アリ」と読むという認識を得たところから、ますます脂が乗ってきた。

11月2日放送の第4話では、お試し男女共学が軌道に乗り始め、あちこちで恋の花が咲きはじめる。それからが抱腹絶倒。なにしろ、宮藤官九郎は、壁ドン! ネタだけで1話分描き切ったのだ。

もはや説明不要なほど巷で流行している「壁ドン!」。男性が、女性を壁に追いつめて、その手を壁にドン! と突く。
それによって女性と男性の距離が縮まり、男性の顔を間近に見て、女性がキュンとなるシチュエーションである。

「ごめんね青春!」では既に第1話で、錦戸亮と永山絢斗の男同士の壁ドン!が描かれているが、ついに、男性と女性の壁ドン! が登場した。

最初の登場は、番組開始20分45秒頃。
「汝の隣人を愛せよ」という神の教えにもかかわらず、とんこーを敵視していたことを反省し、「信仰が親交の壁を作っていた」とうまいことを言う三女校長・吉井(斉藤由貴)。
彼女は、教師たちの親睦会の二次会カラオケで「壁ドン!」の話を乙女な顔して語り、原平助(錦戸亮)に「合併認めてあげたんだから壁ドン! くらいしなさいよ」と逆セクハラ気味に迫る。お酒は飲まず素面で言っているところがおそろしい。

その時、勝手に親睦会に紛れ込んでいる平助の父・平太(風間杜夫)が息子に代わって壁ドン!

さらに、女子校だからかろうじてイケメン枠に入っている体育教師・富永(富澤たけし)が、脚のケガのせいでよろけて、心ならずも三女教頭・浜口(宍戸美和公)に壁ドン!してしまい、「壁ドン! じゃねえす」と否定するのが、23分40秒頃。
壁ドン! 壁ドン! で3分間も使ったかーと思っていたら、まだあって、30分50秒頃に、3回目の壁ドン!

三女の都市伝説「いずっぱこ車内、一日一車両どこかに表れるハートのつり革に、ふたりでつかまったら結ばれる」を蜂矢りさ先生(満島ひかり)が経験してしまうのだ。相手は、なんと平助。
りさが、ハートのつり革と気づかずつかまっていると、電車が大きく揺れて、隣に立っていた平助が、彼女のつり革につかまって、その上、ドアに壁ドン!
やっぱり、錦戸がやると決まるなあ。
それを機に、りさは、平助と「結婚する」と決意してしまう。

この、りさの恋と結婚に対する考え方が、4話のポイントになっている。
その話は後ですることにして、まずは、壁ドン! の続きを。

ネタを3回まで繰り返すのは、宮藤作品でよく見かけるし、風間杜夫、富澤たけしと来て、錦戸亮と満島ひかりだから、これでキレイにまとまったと、すっかり油断していたところに、51分27秒、まさかの4度目の壁ドン!が!

4話のラストを飾ったのは、えなりかずきの壁ドン! だった! 相手は、ドンマイ先生(坂井真紀)。

いやあ、参りました。
手軽にネタとして使いやすいものとはいえ、4回も出して、しかも、主役とヒロインのいいシーンも茶化してしまった上に、えなりでとどめ(斜めに角度つけた顔はともかくとして、ドンした手の指がキレイ)。これだけ使い倒してくれたら、「壁ドン!」も、冥利に尽きると喜ぶでしょう。

こんな調子で、どこもかしこも恋ばかしだ(チェーホフ『かもめ』より)なことになりはじめた、とんこーと三女の面々。

生徒と生徒のスタンダードな恋、心変わりによる三角関係、生徒が先生に恋、妻帯者との不倫の恋などなど、怒濤のように様々なシュチュエーションが沸いてくる。
やっぱり男女が席を同じくすると、恋が生まれてしまうものらしく、「食べますよ、禁断の果実を、ばくばく」と予想したりさ自身が、都市伝説のせいで急変してしまう始末だ。

経験がなく、こじらせてしまうと、ちょっとしたことで、極端に転んでしまうもののようで、りさのことが好きと告白した、生徒・半田(鈴木貴之)に「わたし、原先生と結婚するの」ときらきらした顔で報告。
その時の会話がへん!
大木「あの、先生、つきあっては……」
りさ「ない」
大木「でも、好きなんですよね」
りさ「わかんない。でもじょじょに、好きになれると思う。結婚するからね」
大木「・・・(困惑)」
りさ「大丈夫?」
大木「つきあってない。
好きでもない。・・・のに?」
りさ「結婚するの。決めたの。今日」
なんでしょうか、このりさの頭の構造は。
「だって1日1両しか走ってないんだよ。すごい確率じゃん、運命じゃん」と、舞い上がり、「私のこと好きなら私の幸せの邪魔しないよね」と生徒の気持ちなどおかまいなし。
教師としていいのか、それで。というか、ちょっと前までは、
姉・祐子(波瑠)の行動を軽蔑し「自分を律することもせず、第三者を巻き込んで不幸にする事が恋愛なら一生無理。てか気持ち悪いです」とまで言っていたのに。
そして、りさは「愛するに値する相手かどうか考える前に愛せよ」という意味のイギリスの詩人の言葉を「好きにならなきゃ、好きな理由は分からない」と独自に訳し、「人生は一度きりなんです。がっついていこう!」と煽り出すのだった。
平助をじっと見つめる満島ひかりはかわいらしいけれど、実際、こんな女性がいたら、なんか重い。

一方、平助は、「いわば社会は、巨大な男女共学クラスだ。がっついてもしょうがない。まずは様子をみて」と生徒に指導している。

男女が歩み寄ったのもつかの間、その歩み寄り方の違いで、またまた問題が・・・?

がっつくか。がっつかないか。
今は、自分にふさわしい相手をゆっくり探す、というほうが主流で、いきなり結婚前提で徐々に好きになっていく方法は、見合い結婚とか親の決めた許嫁とか、昔の結婚の仕方のようである。
りさの時代錯誤っぷりに哀れみを感じていたところーー
その週、今、高視聴率を誇る「きょうは会社休みます。」(NTV水曜10時〜)の第4話でも似たようなことが語られていた。

主人公・花笑(綾瀬はるか)が「おつきあいってそもそも結婚したい人とするものでしょう」と発言し、後輩(仲里依紗)に「先輩、発言のレベルが明治時代ですよ」と失笑され、「難しいね、現代って」と悩んでいた。

なんだろう、このシンクロは。同じ期に、花笑とりさ、ふたりのドラマヒロインが、明治以前の結婚の形を提示するなんて感慨深い。
今、テレビドラマは、我々に何をすすめようとしているのか。ドラマの中盤から後半、興味をもって見てみたいと思う。

それにしても、似たような、恋愛免疫のないこじらせ女子が描かれているドラマにもかかわらず、なんで視聴率がこんなに差があるんだ(憤)。
放送時間帯の違い、オリジナルと原作ものの差、ゆったりしたテンポと超絶早いテンポとかまあいろいろ理由はあるだろうけれど、福士蒼汰の力だったら・・・。壁ドン! 4回よりも、福士蒼汰の笑顔なのか。まさか、かの「あまちゃん」まで彼の力だったのでは・・・とよからぬ疑念がふくらみ、ないないないと首を横に振った。

そしてもう「あまちゃん」伝説は横に置いておこうと思いながら、「ごめんね青春!」の4話、壁ドン!のあと、風間杜夫と斉藤由貴がひとつの布団に入って寝ていて、気づいた斉藤由貴が「ジーザス!」と大騒ぎ。それを風間杜夫が「うるせえ、アマだな・・・」と言うところで、アマと尼(シスター)が掛けてあるんだな、とくすりとしながら、もしや、尼と海女(あまちゃん)も掛けてあったのか!? と「ごめんね青春!」LINEスタンプの白目剥いてるとんこーくんみたいな顔して驚いちゃったことを懺悔します。ごめんね。
今夜5話。宮藤官九郎のあふれるアイデアに、ますます期待しています!
(木俣冬)