懐かしかわいい「レモンケーキ」がブーム 開発当時はもっとリアルな形状だった

昭和の頃、訪問先などで味わった記憶のあるレモンケーキ。黄色い薄紙に包まれた紡錘形のケーキで、たいてい紅茶と一緒に出てきたものだった(紅茶に添えられた角砂糖には、お花の飾りなんかがついていたっけ……)。


昔ながらの味がいまも残る一方、ローソンが「スプーンで食べるレモンケーキ」を発売したり、有名パティスリーが手掛ける進化した"平成版"レモンケーキがここ数年で続々と発売されている。上質なバターやバニラビーンズ、レモンピールなどを使い、リッチなテイストと爽やかなあまずっぱさを強調していることが多い。カフェスイーツとしても注目されており、書店「丸善」に併設のカフェで味わえる、梶井基次郎の小説「檸檬」にちなんだレモンケーキも大人気のようす。

高度成長期にレモンケーキブームがあった


懐かしかわいい「レモンケーキ」がブーム 開発当時はもっとリアルな形状だった

日本でいちばん親しまれているレモンケーキといえば、山崎製パン株式会社の「レモナック」。リーズナブルな価格ながら、レモンピールの砂糖漬けや洋酒なども入っている。

そもそも、「レモンケーキ」とはいつ頃からあったものなのか? 調査してみたところ、東京都葛飾区亀有で製菓・製パンの整形用型製品を手掛ける「千代田金属工業株式会社」が、昭和40年代に日本初のレモンケーキブームを起こしたのが始まりとか。専務取締役の吉田 尚さんによると、先代社長が1973年(昭和48年)にとあるケーキ店から依頼を受けて開発したという。


「スーパーや八百屋を巡ってレモンを集め、本物から石膏で型をとるなどして開発したようです。そのため、当時は紡錘形のはしっこの大きさが左右で違っていたりと、リアルな形状だったようですね。一度に25個のレモンケーキができる焼き型をつくり、パッケージメーカーさんと組んで、販売用の包装紙や箱、ポスターなどと一緒に販売したところ評判となりました。パティシエという職業もまだない時代ですから、つくるのは主に全国のパン屋さんやケーキ屋さん(一部、和菓子店も)。全国のお店のショーケースが、黄色く染まったと聞いています」とのこと。

なお、このブームは昭和50年代半ばまで10年ほど続き、その後、沈静化したように思われたが、約30年の時を経て、ここ2~3年のあいだに復活しつつあるという。

懐かしかわいい「レモンケーキ」がブーム 開発当時はもっとリアルな形状だった

島根県・津和野の「峰月堂」という和菓子店で見つけた、昭和レモンケーキ。

進化し続ける、平成版レモンケーキ


Facebook上で「レモンケーキ部活動日誌」を展開する佐藤史江さんにもお話をうかがってみた。佐藤さんは2014年の2月より備忘録的に大好きなレモンケーキを食べた日誌をつけはじめ、その個数は現時点で176個! 最初はおいしさ云々というより、子どもの頃に食べた懐 かしい味(昭和レモンケーキ)を探すことに喜びを感じていたという。しかし、ある日「ノワ・ドゥ・ブール」(日本橋三越/新宿伊勢丹に出店)のレモンケーキに出合い、あまりのおいしさにビックリ。進化した現代版レモンケーキ(平成レモンケーキ)の魅力にも開眼するようになったそうだ。
懐かしかわいい「レモンケーキ」がブーム 開発当時はもっとリアルな形状だった

平成レモンケーキのひとつ、大阪のパティスリー「まめの木」の「中之島レモン」。瀬戸内の離島「青いレモンの島」岩城島で育った「いわぎレモン」の皮と果汁のほか、発酵バター、平地飼い鶏の卵などを使ったリッチな味わい。


懐かしかわいい「レモンケーキ」がブーム 開発当時はもっとリアルな形状だった

こちらは大阪「五感」の「檸檬燦(れもんさん)」。「いわぎレモン」の皮をレモンピールにしたものを使用。

懐かしかわいい「レモンケーキ」がブーム 開発当時はもっとリアルな形状だった

京都のベーカリー「SHIZUYA」のレモンケーキ。「カルネ」などのパンが有名だが、レモンケーキにも隠れファンが。

レモンケーキの聖地は広島だった


全国的に増殖中のレモンケーキだが、なかでも盛り上がっているのは広島らしい。

「個人的にはレモンケーキの聖地は広島だと思っています。
他地域では画一的なテイストになりがちな昭和レモンケーキも、お店ごとにオリジナリティーに富んでいるように感じます。広島県はレモンの生産量が国内第1位というのも関係しているのでしょうか、おいしさのレベルが他とは一線を画しているような気がします」
と佐藤さん。

懐かしかわいい「レモンケーキ」がブーム 開発当時はもっとリアルな形状だった

マルト製菓株式会社の「プリンスレモンケーキ」は、広島の昭和系。1袋5個入りで、究極にシンプルだが、後をひくおいしさ。

懐かしかわいい「レモンケーキ」がブーム 開発当時はもっとリアルな形状だった

ベーカリーの「アンデルセン」は広島本社だけあって、「瀬戸田レモンケーキ」という商品をつくっている。尾道市瀬戸田町産のレモン果汁とレモンピールを加えた生地を、ホワイトチョコレートでコーティングしてある。


懐かしかわいい「レモンケーキ」がブーム 開発当時はもっとリアルな形状だった

これはケーキではなく、パンですが……「くりーむパン」で有名な「八天堂」も広島の会社。広島産レモンを使ったマーマーレードと特製クリームがたっぷり入った「檸檬パン」。

なお、広島のほかに、実は沖縄でも古くからレモンケーキが親しまれているのだとか。佐藤さんによれば、
「沖縄では旧盆、晴明祭(シーミー)、お墓まいりの際、ご先祖さまへの定番のお供え物がレモンケーキなのだそうです。現地の方による と、レモンケーキは自分たちが食べるというより、お供えするものというイメージが強いとおっしゃっていました」とのことでびっくり。

佐藤さんは理想のレモンケーキ(テイスト、フォルム、パッケージ、お店の雰囲気も含めて)に出合うことを楽しみに、今後も活動を続けていくとのこと。
いずれは、47都道府県すべてのレモンケーキを制覇することも密かに企んでいるそうだ。

とそんなわけで、ドーナツをはじめとする「懐かし系スイーツ」の一派でありつつ、現代風に進化しているところが魅力でもある「レモンケーキ」。夏の疲れを癒し、ノスタルジックな気分に浸らせてくれる「癒し系スイーツ」ともいえるかも。皆さんも近所のケーキ屋さん、パティスリーなどで地元のレモンケーキを探してみてはいかが?
(野崎 泉)