「まん、まん、満足♪ 1本満足~♪」
アサヒフードアンドヘルスケア『一本満足バー』のCMは、SMAP草なぎ剛の近年の代表作と言っても過言ではない。
このCMは2010年秋より放送開始。
どのバージョンにおいても、草なぎのキレキレな動きと異常なまでのテンションの高さが目を見張る。アイドルという枠組みには収まりきれないハジケた演技には、ある種の“狂気”を感じるほどだ。
その原点とも言うべきCMが90年代末にあったことをご記憶だろうか? まずは、当時の時代背景を振り返りたい。

草なぎ剛、『いいひと。』でのブレイクが一大転機に


元々、SMAPのメンバーの中で一番地味な存在だった草なぎ。ドラマでもバラエティでも明確なポジションを確立できないまま迎えたのが、97年春のフジテレビ系ドラマ『いいひと。
』。
この作品で連続ドラマ初主演となったが、これはメンバー間でもっとも遅いデビュー。草なぎ本人も制作発表会見の場で「最初で最後の主演」と自虐的に語るほどだった。

しかし、ふたを開けてみれば、平均視聴率20 %を獲得する大ヒットに。ドラマ内での「いい人」ぶりは、そのまま草なぎのパブリックイメージとなった。
「ドラマアカデミー賞 主演男優賞」を受賞し、同年8月度のタレントイメージ調査では、ジャニーズ事務所内での人気1位を獲得するなど、人気・知名度ともに一気に上昇。
ドラマ、CMのオファーも殺到し、その演技力の高さと親しみやすいキャラクターがSMAPの枠を超えて広く浸透して行くことになった。
そして、翌年には早くも秘めた狂気の片鱗を見せつけることになる……。

役作りで女性になりきりすぎてオネエ言葉に!?


98年放送の『トヨタレンタカー』のCMで、家族4人を一人で担当した草なぎ。父・長男とともに、カチューシャ姿の妙齢のお嬢様と、おさげ髪&セーラー服の女子高生を怪演している。
すっかり役になりきった草なぎは、撮影現場ではオネエ言葉で演技相談をしたり、スタッフの労をねぎらったりしていたという。
香取慎吾が「真面目すぎるくらい真面目に作品に取り組むところも尊敬してる」と語るのもうなづけるエピソードだ。
確かに真面目すぎるがゆえの言動なのだろうが、ちょっと怖い気がするのは筆者だけだろうか…?

何かが『乗り移る』俳優・草なぎ剛の凄さ


続いて、『キンチョール』のCM「バス編」では、エキセントリックな老婆を熱演。
バスの中の草なぎ婆さんが「バスの中に蚊が!」と叫んで、停止ボタンを押しまくり、乗客の迷惑をかえりみずに暴れまくるという内容だった。
さらに「リビング編」では、「アミ~ゴ あみ~ど あみ~どにゃえ~ぞ♪ 網戸キンチョール♪」といった歌を延々とリピートしながら、何かに取り憑かれたように一心不乱に腰振りダンスを繰り広げていた。
突き抜けた内容揃いの金鳥系のCMだが、中でも1、2を争う狂気の度合いだったと筆者は思う。

草なぎが持つ、作品と向き合う集中力の高さに驚かされた関係者は多いという。
その驚異の集中力で役に入り込む姿を間近に見た脚本家・映画監督の三谷幸喜は、「役者に役が『乗り移る』瞬間を、僕は初めて見た」と草なぎの俳優としての凄さを評しているが、このCMでも役が乗り移っていたのだろうか?

「真面目」「集中力の高さ」、そして「狂気」を持って、どんな役柄でも完璧にこなす草なぎ剛。SMAP解散後にもっとも仕事に恵まれるのは、彼に違いない。

(バーグマン田形)