2012年のこと。「オリンピックに出るとしたら、何の競技に出たいですか?」と聞かれたオードリー。
若林は「(南海キャンディーズの)しずちゃんが出場できなかったら、春日さんにはボクシングに挑戦してほしいんですよ」と春日に提案する。

春日:そうかぁ。じゃぁ、金メダルを取って、川に投げ捨てようかな。
若林:ハハハハハ!(笑)
春日:あ、その前に自転車盗まれないといけなんだ。
若林:いやいや、それ全部モハメド・アリのエピソードじゃねぇか(笑)モハメド・カスに改名しなきゃダメだよ。
春日:そうね。
それで、将来的には猪木さんと戦いたいですね(笑)

このやりとりは、『TVぴあ』(2012年7月18日&8月1日号)に掲載されていた「オードリーの悪いようにはしませんよ。」のもの。
その翌年の2013年、春日は雑誌のボディビル企画に挑戦。2014年には『炎の体育会TV』でフィンスイミングに取り組み、2015年には国際大会に出場し団体種目で銅メダルを獲得する。

種目とメダルの色は違えど、本当に国際大会でメダルを取ってしまった。そんな「答え合わせ」ができるのが、『オードリーの悪いようにはしませんよ。ゆるっと7年史』だ。

オードリーの7年間を答え合わせ 『オードリーの悪いようにはしませんよ』
『オードリーの悪いようにはしませんよ。ゆるっと7年史』(ぴあ) 約7年分の連載から厳選。巻頭・巻末には「オードリーHISTORY1978〜2016」や7年間を振り返る対談を収録。カバーを外すと「おまけ」もついてます。

二人だけでニヤニヤするトーク


「オードリーの悪いようにはしませんよ。」の内容は、読者からの質問にオードリーの二人が掛け合いで答えるというもの。質問は「オードリーはどうやって結成されたの?」といった基本情報から、「雪道で転んだあとの正しいリアクションは?」など割りとどうでもいいものまで多種多様。

連載の取材は主にテレビ収録の合間に行われており、質問はその場で突然ぶつけられている。事前に答えを用意していないだけに、二人の掛け合いは「素」の状態。舞台やテレビのひな壇、ラジオの生放送といった客席側を意識した振る舞いではなく、お互いをイジりあったりボケに乗っかったりと、二人でニヤニヤしながら探りあっているのがわかる。

『TVぴあ』での連載は2008年11月から2016年2月まで続いた。オードリーの2008年と言えば、元旦に『ぐるナイ』の「おもしろ荘」で注目され、年末の『M-1グランプリ』で敗者復活から総合2位になった年。
さすがに年月も経ち、当時の発言と現在の状況が異なるものもある。

冒頭に書いた2012年の春日も、まさか自分がボディビルでムキムキの体になり国際大会でメダルを取るとは思っていない。「メダルを無くして、さんまさんに超いじってもらおう」とまで言っている。フィンスイミングの銅メダルは無くしはしなかったものの、小さくてペラッペラのメダルだったので、今田耕司や宮迫博之に超いじられていたのは記憶に新しい。

また、別の回では若林は「時事ネタ」についてこう語っている。

若林:まぁ、ニュースを知らないと恥ずかしいのは確かだけど、俺らの場合、勉強してもトークが時事ネタばっかりになったらとしたら、つまらなくなると思うのよ。

だから、これからも人のあげ足取りとして、細かい仕事で暗躍していきたいと思っているだけで、政治とかニュースはいいかなと思ってます(笑)
(2015年3月25日&4月8日号掲載)

時事ネタに対して否定的だった若林だが、今年8月27日放送の『UWASAのネタ』ではテレビで初めて時事漫才を披露した。ネタにしたのは東京都知事選。春日が最近政治に興味を持ち始めたからだと言う。

メダル獲得も時事漫才も、当時のオードリーは「やるとは思っていなかったもの」だ。本書で過去の発言を確かめながら、いまの成長を感じられるのが楽しい。

60歳で漫才をするオードリー


『オードリーの悪いようにはしませんよ。
ゆるっと7年史』
では、7年分の回答を厳選し、6つのテーマに分類している。

Chapter1 相方編
Chapter2 仕事編
Chapter3 プライベート編
Chapter4 女性編
Chapter5 妄想編
Chapter6 読者からのお悩み編


これから答え合わせが可能なのが「女性編」。「相方に合う最高の女性は?」という質問には、若林→春日が「日テレの水卜アナ」、春日→若林が「どきどきキャンプの佐藤満春っぽい女性」と回答。欲しい子供の数は若林が「3人くらい」、春日が「22人(アメフトをやるため)」。

個人的に最も答え合わせが楽しみなのは、「仕事編」の「還暦を迎えた二人は何をしていると思いますか?」という質問だ。この問いかけに二人は「60歳で漫才をやるオードリー」を妄想する。


春日:60歳になってもピンクのベストを着て、「本物の春日ですよ」って出ていったら、ワーッて拍手が起こりそうですけど(笑)
若林:ハハハ(笑)
(中略)
若林:そう考えると、おじいちゃんになったほうが漫才は面白くなってるかもしれないですね(笑)。年をとったほうが、漫才のネタは書きやすくなってるかもしれないでね。
例えばおじいちゃんになった春日が、キャラうんぬんじゃなくて本当にゆっくり登場して、センターマイクを通り過ぎて舞台袖にハケちゃうとか(笑)
「すいません、最近ちょっとボケてきちゃって……」みたいな笑いの取り方ができますから。(中略)そうやって正月には漫才番組に出て、営業もやって、あとはナイツの塙(宣之)くんに頑張ってもらって浅草の劇場にも出させてもらって……
(2012年8月29日&9月12日号掲載)

夢路いとし・喜味こいし師匠レベルになるオードリーを考えるだけでワクワクする。これぞ正解であって欲しい。ピンクのベストを着る春日おじいちゃんを見る日まで長生きしようと思う。

(井上マサキ)