路上生活者はビッグイシューの販売者にどういう経緯でなるのか?

路上生活者(ホームレス)が路上で手渡しで販売する雑誌「ビッグイシュー日本版」は、イギリスではじまったビジネスの手法で路上生活者を自立支援している。毎月1日、15日に発売し、各2万冊を売り上げる。
出版不況、活字離れと言われている昨今で、月4万冊を売り上げ、全国で140人の販売員が活躍している(2014年8月末)。今回は、その販売者にスポットを当てた。

オフィスで食事や着替えを提供


午前7時。曙橋にあるビッグイシュー東京オフィスに、続々と販売者たちが仕入れにやってくる。
路上生活者はビッグイシューの販売者にどういう経緯でなるのか?


その日に売る分の雑誌をそれぞれ調達し、すぐに出かける者も居れば、ボランティアさんが作ったおにぎりなどで鋭気を養う者もいる。夏場は熱中症予防に凍らせたスポーツドリンクの用意もある。
路上生活者はビッグイシューの販売者にどういう経緯でなるのか?


読者や支援してくれる人たちからの衣服や歯ブラシなどが提供され、事務所を出る頃には、すっかり身なりが整う。
このホームレスたちは、どのような経緯で販売者となるのか。
路上生活者はビッグイシューの販売者にどういう経緯でなるのか?

販売サポート担当の森靖史さん(写真右)、販売サポート・広報担当の長崎友絵さんにお話を伺った。
路上生活者はビッグイシューの販売者にどういう経緯でなるのか?

「自らビッグイシューを知り、訪ねてくる人がほとんどです。炊き出しや夜回りでチラシを配ったり、販売者に直接問い合わせたり、インターネットなどで調べてくる人が主です」と森さん。

近年は、路上で寝ている人だけでなく、目に見えないホームレス状態の人も増えている。政府が平成28年1月に調査した結果では、路上生活者を6235人と発表している。
しかし、調査対象はあくまで法律で定義された「ホームレス」に限られたもので、ネットカフェなどにいる人たちはカウントされていない。そのため、潜在数はもっと多いのではないかというのが森さんたちの見解である。

「ビッグイシューで雑誌を売ることは、すごく勇気のいることだと思います。だって、この雑誌を売っているということは、『自分はホームレスです』って宣言しているのと同じですよね。ですから、無理強いすることは絶対にありません」と話す。

ビッグイシューで雑誌を販売し、お金を貯めて「住宅を借りて、就職にも成功した」という人は約1割に及ぶ。
ちょっと少ないんじゃないと思った人も、意外と多いなと驚いた人もいるだろう。完全な自立とはいかずとも、食事を自分で購入できるようになった人や、路上からネットカフェなど雨風をしのげるようになったなど、状況が良くなる人がほとんどだ。

お金の管理にサポートはある?


だいたい1日15冊~20冊を売り上げると、実収入で(雑誌代170円×冊数を引いた)約3000円が手元に残る。お金の管理や使い方などのサポートはあるのだろうか。

「私たちは有限会社として販売に対するサポートをしていますが、ビッグイシュー基金というNPO法人で生活面のサポートを行っています。貯めたお金をどうするのか、行政から適切なサポートを受けるにはどうしたらよいのか。
『お金がないから病院に行けない』と本気で思っている人も中にはいるので、そういう方たちへの情報提供を行っています」と森さん。

さらに、販売者としてほぼ毎日事務所に来るため、必ず顔を合わせることで、「この人はどのような状況に置かれていて、どのような支援が必要なのか」ということを知ることができる。社会との繋がりを再び得るため、路上生活者のためのサークル活動を案内するなど、クオリティ・オブ・ライフ(精神面を含めた生活の豊かさ)面でのサポートもある。

では、実際に働いている人にもお話を伺うべく、新宿南口エリアを担当する販売者を訪ねた。
路上生活者はビッグイシューの販売者にどういう経緯でなるのか?

販売者の南匠さんは、2016年9月末から新宿駅南口で販売を行っている。以前は、日比谷駅近くで販売していた。

路上生活者はビッグイシューの販売者にどういう経緯でなるのか?

ポップを首に下げ、雑誌を持つ手は天に向く。背の高い南さんは、赤い販売用ベストがとても目立つ。(この赤ベストは博報堂デザインの永井一史氏にがデザインしたものだとか!)
路上生活者はビッグイシューの販売者にどういう経緯でなるのか?

南さんの場合は10~17時くらいまで、休憩を挟みながら販売する。平日は8~17時まで、土日祝日は9~15時までが販売時間と定められ、悪天候の日はお休みになる。

販売者になって7~8年になり、途中で抜けたり、入ったりを繰り返しているという。路上生活者になってしまったきっかけは、家族とうまく行かず、家を出たこと。
それ以来、仕事も暮らしぶりも不安定な状態だ。

「黙っているよりも働いている方が良い。それに、販売者の仕事は気楽で良いです」と小さく微笑んだ。販売を始めてからは、食事とネットカフェで寝泊まりすることができるようになったという。購入者層を伺うと、「日比谷は若い方が多かったですが、新宿は年配の方が多いですよ」とのことだった。

新宿は若者がたくさんいるが、観光客も多く、ビッグイシューの存在を知らない人もいるかもしれない。ビッグイシューは雑誌代350円のうち180円は販売員の手元に渡る。購入する、しないはもちろん個人の自由だが、支払った350円はどのように使われ、どのような未来につながっているのか。一考してみてはいかがだろうか。

(カメイアコ)