かつて秋田県にあったローカル鉄道「小坂鉄道」をご存じだろうか。小坂鉱山の貨物輸送用として1908年に開通し、翌年からは町民の足としても活躍していたが、1994年に旅客営業を終了。
残っていた貨物運搬も2009年に営業廃止になった。

しかしその後、鉄道遺産として保存活用するため、2014年6月に「小坂鉄道レールパーク」としてよみがえった。観て学んで体験できる鉄道テーマパークである。

観光トロッコなどもあり、夏休み中は家族連れでにぎわうが、実はかなり鉄道マニアの心もつかむ施設。とくに線路が雪でうまってしまう冬は、週末のみの営業で来る人も限られるが、本格的な鉄道ファン率がぐっと高まる。
雪が降っても鉄道ファンが訪れる「小坂鉄道レールパーク」の秘密
当時のままに修復された国登録有形文化財「旧小坂駅舎」



雪で線路が見えないなかで運転体験


雪が降っても鉄道ファンが訪れる「小坂鉄道レールパーク」の秘密
軌道モーターカー。現在は観光トロッコのけん引などに使用

鉄道ファンの心をくすぐる要素はたくさんあるが、いろいろな車両の運転体験ができることもそのひとつ。今回は私も「軌道モーターカー」の運転に挑戦してみた。
オートマチックなので、運転はシンプル。進行方向のレバーを調整し、ブレーキをゆるめ、アクセルをふむだけ。とはいえ、運転席は横向きだし、雪で線路が見えないし、かなりドキドキ!
雪が降っても鉄道ファンが訪れる「小坂鉄道レールパーク」の秘密

雪が降っても鉄道ファンが訪れる「小坂鉄道レールパーク」の秘密

ちゃんと進むと、ちょっと感動だ。発車前に警笛をならすのも楽しいが、加減がわからず、かなり軽めにボタンを押してしまい、少々勢いのない音が出たのが悔やまれる。

ちなみに運転で一番難しいのはブレーキ。停まりたい位置に停まれるかどうかは、いつブレーキをかけるかによる。
ただ、体験ではスタッフがベストなタイミングを教えてくれるので心配ない。

軌道モーターカーのほかに、ディーゼル機関車運転も人気。気軽な「お試しコース」のほかに、本気の「運転士への道コース」もあり、重連走行(2両連結して走ること)や三重連走行にも挑戦できる。すでに15回通いつめて三重連運転士の証明書をゲットした人もいるそうだ。

冬場はディーゼル機関車の運転はできないが、ラッセル車(除雪用車両)の操作体験ができる。ラッセル車は夜中や早朝に動くため、「実際に動いているところを見たことがない」と操作体験に興味を持つ地元の人も多いそうだ。
駅構内はまわりに遮るものがなく、羽(排雪板)を開いている姿がよく見えるのもいいらしい。

なお、各種運転体験はいつでもできるわけではなく、時期が限定されていたり、予約が必要だったりするので注意。詳細はホームページに載っている。


国登録有形文化財の車庫に保存されている車両はすべて動く


雪が降っても鉄道ファンが訪れる「小坂鉄道レールパーク」の秘密
機関車庫

建物自体が国登録有形文化財になっている「機関車庫」も必見だ。車庫の中にある車両は、すべて小坂鉄道で実際に使われていたもの。しかも「動態保存」といって、実際に動かせる状態で保存されている。各種運転体験に使われるのもここにある車両だ。


建物の中にあると屋外にあるより大きく感じられるうえ、一般的な駅のホームより一段下の目線から見上げるので、より迫力がある。
雪が降っても鉄道ファンが訪れる「小坂鉄道レールパーク」の秘密
ディーゼル機関車

さらに、機関車の運転席に入れるのもポイント。席に座り、ひじかけに腕をのせて窓をのぞきこむと、高さもあって気持ちがよく、運転手気分にどっぷり浸れる。過去には運転席に3時間座っていた人もいたという。
雪が降っても鉄道ファンが訪れる「小坂鉄道レールパーク」の秘密
機関車の運転席

古いものだけに故障もあるが、実は整備風景もひそかな人気。「今日は整備をやっていますか?」と電話で問い合わせが入ることもあるそうだ。
車両を整備している様子はめったに写真に撮れないから、好きな人にとってはたまらないかも。


動く寝台列車ホテル「ブルートレインあけぼの」も


残念ながら取材時は見られなかったが、4月下旬~11月上旬の週末には宿泊施設「ブルートレインあけぼの」も営業している。
雪が降っても鉄道ファンが訪れる「小坂鉄道レールパーク」の秘密
ブルートレインあけぼの

雪が降っても鉄道ファンが訪れる「小坂鉄道レールパーク」の秘密
ブルートレインあけぼの

かつて上野~秋田・青森方面を走っていた寝台特急「あけぼの」を利用した寝台列車ホテルで、実際に走るのが大きな特徴。往復200メートルほどの短い距離だが、夕方と朝の2回、宿泊者をのせて構内を動くのだ。冬季はトンネルに保管されていて見られないが、春にはまたやってくるので楽しみにしたい。

とくに鉄道に詳しくない人や子どもでも楽しめるし、本気の鉄道ファンも満足できる「小坂鉄道レールパーク」。
スタッフの説明にも小坂鉄道への愛が感じられ、雪の中でもなんだか温かい気持ちになれる場所だった。
(古屋江美子)