連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第7週「風鳥亭、羽ばたく」第40回 11月16日(木)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:本木一博
「わろてんか」に足りないものがわかった40話
イラスト/まつもとりえこ

40話はこんな話


てん(葵わかな)と藤吉(松坂桃李)は、伊能栞(高橋一生)の紹介で、落語の神様・喜楽亭文鳥師匠(笹野高史)に会うが、寄席の“色”をつくってから出直せと言われてしまう。

「あさイチ」、柳澤秀夫にありがとう


文鳥師匠は藤吉の一番好きな噺家だと、初耳の話が出てきた。
もっとも、例えば、15日に放送されていた「奥様は、取り扱い注意」(日本テレビ)でも、主人公夫婦が互いに好きな音楽や映画を知らない描写があったので、そういうものなのかもしれないが、もっと前から、ひとことでも好きとか尊敬しているとかいう話が出てきたら、うるさ型の視聴者の口を塞げるのに。

子供のときに見たのが文鳥の落語だったでもいいではないか(「ちりとてちん」は主人公の祖父がずっと聞いていた落語のテープの主に、主人公が弟子入りすることになる運命が描かれた。のちのちそれがわかるところが感動)。

ツッコまれたいのかなと思う。
その証拠に、この朝の「あさイチ」でアサリ役の前野朋哉とキース役の大野拓朗がゲストに出てきて、柳澤秀夫が、米屋が潰れたのはキースのせいとツッコンだことで、どっと笑いが起こった。
NHK本体が指摘してくれると、視聴者も溜飲が下がる。

客の入らない風鳥亭を見限ってアサリが逃げたという話のあとで、「あさイチ」にアサリが出ていることも、
あ、逃げてここにいるんだと思って、可笑しかった。
← 今日の、わろ点はコレ。

わかるやつだけわかればいい


「あまちゃん」でこういう台詞が出てきて、Twitterが沸いたことがあった。2013年6月13日(木)のことである(64話)。
「わろてんか」40話も、「わかるやつだけわかればいい」的な台詞を入れてほしかったのは、吉蔵が突然わめき出す「茄子とかぼちゃ」語り。地主と借り主を、なすとかぼちゃに見立てた端唄で、彼の芸・うしろ面はこの曲でやっている。また、借金を返せそうにない風鳥亭の状態と重ねたようにも思われる。
「あさが来た」でも、新次郎(玉木宏)が「嘘と誠」という端唄を弾いていて、当時の流行り曲を流すのは、「あまちゃん」でも「ひよっこ」でも「ちりとてちん」でもよくあることだが、「わろてんか」だと時代が昔過ぎてわかる人は減っていることだろう。


辛いのと甘いのと


もうひとつ、首をかしげたのは、栞が、金田一耕助みたいに頭をかきむしりながら、文鳥に甘いカレーの仕返しができなかったと悔しがるところだ。その前に、かつて、激辛カレーと言われて甘いカレーを食べさせられた話はしているとはいえ、藤吉を紹介して風鳥亭に伝統派の噺家を出してもらうことが、辛くない甘いカレーの仕返しになぜなるのか。センスがハイブロウ過ぎる。さすが、埼玉を舞台にした「つばさ」で、ことあるごとにサンバダンサーが踊り出すというハイブロウをやっていただけある後藤プロデューサー作品である。

軽い頭なりに考えると、藤吉を紹介してぎゃふんと言わせたかったのだと思うが、ひどい寄席を掴まされてぎゃふんなのか、案外掘り出し物だったことへのぎゃふんなのか。栞の考えていることがわからない。
そもそも、辛いと言われて甘かった話をおもしろいと思った視聴者はどれくらいいたか、視聴率以上に知りたい。


親に頼ってるひとばかり


てんのために、親のコネを使って、文鳥に会わせた栞。
親から金を借りて寄席を買ったてん。
母親に甘やかされて、放蕩してきた藤吉。
全員、親離れできてない若者たち。
これはこの時代を描いているというよりも、はるかに現代的といえるだろう。
昔は家を守ることが大事だった分、当主の責任は大きかったし、一旦家を離れたら、これまた簡単に家に戻ったり家に頼ったりできなかった。それだけ当主は厳しかった。

「わろてんか」は時代劇の形をとった現代劇だと思う。

ここが惜しいよ「わろてんか」


徐々にわかりあっていく、藤吉と栞。
「きっと人生なんてうまくいかないことばっかりだ。
でもたったひとつだけでいいからこれだけはやり遂げたぞっていう生きた証がほしいよな」
藤吉と並んで、素敵なことを言う栞。

イケメンふたりがたそがれたり、シンパシー感じて笑ったり、女性の大好物的なところにもかかわらず、ぐっとこないのはなぜか、わかった。
こういう場面を、三木孝浩監督映画(ダイジェスト師匠が脚本を手掛けた映画「僕等がいた」「アオハライド」「ホットロード」「ぼく明日」の監督。
現在、脚本家が違うが「先生!、、、好きになってもいいですか」が公開中。恋愛映画を数多くヒットさせている)のように、露出が過剰にオーバー気味(白飛ばし)の画面で、ふわっと見せて、しかも、海とか屋上とか公園とか、とにかく広い空間をロケ地にして、早朝とか夕方とかの陽光がきれいで、風が吹いていたりなんかしていれば、なんとなくそういう気分になる(作品のジャケ写、ご参考ください)。「わろてんか」のように狭いセットの中で、ベタ灯りで見せても、ちっとも雰囲気が出ないのである。
「わろてんか」に足りないものがわかった40話
ホットロード DVD(バップ)

「わろてんか」にいまふうの恋愛要素を入れようと考えたのだったら、三木孝浩監督をお招きして、川べりなどでロケして、とにかく、画から徹底してふんわり見せるべきだったのだ。
(木俣冬)
「わろてんか」に足りないものがわかった40話
ぼくは明日、昨日のきみとデートする DVD豪華版(東宝)