連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第18週「帰りたい!」第103回 7月30日(月)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:深川貴志
「半分、青い。」103話「立派な三十過ぎたおばさん」を演じる永野芽郁
連続テレビ小説 半分、青い。 Part2 (NHKドラマ・ガイド) NHK出版
ドラマ後半戦に向けて出版されたガイド本第2弾。この表紙のような爽やかでたおやかそうな女性に鈴愛がこれからなっていくのではないか

103話はこんな話


感動の出産から1年、2003年12月23日、鈴愛(永野芽郁)と涼次の娘・かんちゃんこと花野は一歳の誕生日を迎えた。

「かんちゃんの誕生日に僕たちの永遠の友情を誓う」


相変わらず、三おばの離れ暮らしの鈴愛夫婦。
相変わらず半ば倉庫みたいな部屋(でも子どもの写真とか増えている)へボクテ(志尊淳)とユーコ(清野菜名)がかんちゃんのお祝いに遊びに来た。

ボクテは大きなクマのぬいぐるみ、ユーコはレダハーの子供服をプレゼント。
志尊淳がクマの声を演じる趣向つき。志尊淳、芸達者である。
テロップでも紹介された“レダハー”は、ユーコがセレブになってから好んで買っているブランド。72話では鈴愛もキミカ先生の還暦祝いに着ていこうと奮発して買っていたものだ。
ここでレダハーを出すことで、当時の岐阜での律との思い出も浮かんでくる巧い手である。


ユーコはお祝いにかこつけて、青山から仙台に引っ越すことになったと報告する。
夫が地元に支店を作るのだそう。
寂しくなるという鈴愛に、三人はかんちゃんも一緒にぎゅーとする。

「かんちゃんの誕生日に僕たちの永遠の友情を誓う」(ボクテ)

ボクテとユーコと鈴愛の友情は「半分、青い。」の名物のひとつ。
欲をいえば、東京の友情が手厚く地元の梟会があまり機能してないことが少しだけ寂しい。矢本悠馬と奈緒が志尊淳と清野菜名に負けず劣らずいい俳優だから、ちょっともったいない。


田辺の過去


時に2003年。その年活躍した人10人が雑誌に紹介されている。
北島康介選手、なんでだろうのテツ&トモ(100話で涼次がぼんやりテレビをつけていた)と並んで元住吉監督がかっこよく映っていた。裸足というところに芸術家ぽさがあった。映画がヒットして次回作も準備中らしい。

大納言で雑誌を見ていた田辺(嶋田久作)がトナカイの格好でふいに自分の若い時の話をはじめる。
この人、まだいたんだー、よかった。

社長令嬢との結婚(婿入り)よりもミュージシャンの道を選んで今に至るそう。
結局ミュージシャンになれず、未だ独身で、気絶するまで飲んだり、たまに失楽園ごっこに興じたりしながら大納言の店長に収まっている田辺は、涼次が映画監督の道に舵を切らず、かわいい妻子を得てよかったと言う。だが、涼次のはたして本当に自分の選択を納得できているのか、という表情でドラマを引っ張る。

漫画家、映画監督、ミュージシャン・・・虚業ばかりがこのドラマには登場する。
でも、みんなその夢は、バブルと共に潰えて地道に生きようとしている。
そんな日本人たちを勇気づけたのは、SMAPの「世界に一つだけの花」だった。
「ナンバーワンにならなくてもいい もともと特別なオンリーワン」という歌詞(作詞:槇原敬之)に、大きな夢を見なくていいのだと慰められた。
大ヒット曲の影響もあって、2003年はエンタメの世界において何かとエポックメーキングの年だと拙著「みんなの朝ドラ」に書いているのでご興味ある方はご覧いただきたい。「半分、青い。」でも2003年が印象的な節目として描かれた。
ナンバーワンからオンリーワンへと時代は変わっていく、その年の朝ドラは、前期、ヒロインが血のつながらない、亡くなった夫の子どもと生きていく「こころ」、後期は画期的ミュージカルドラマ「てるてる家族」が制作された。

「立派な三十過ぎたおばさんや」


涼次だけでなく、鈴愛も複雑な気持ちを抱えていた。
涼次が新作の構想を練っていることを掃除しているときにたまたまみつけていた。

なにか思うところあるが、ふいにかんちゃんが40℃の高熱を出したため、それどころじゃなくなって、病院につれていく。
点滴されて泣く声に鈴愛は耐えられない。
自分みたいに後遺症(耳が聞こえなくなるとか)が残ることが心配でならない。
怖くなって晴(松雪泰子)に電話すると、意外と冷静。「生まれてくるか半々だった」と思い出話。おお、ここにも「半分」。
そうか、生まれたときから「半分」だったのだ鈴愛は。
でも育って「立派な三十過ぎたおばさんや」「うちの家系は強い」と励ます。
楡野家では、みんなが廉子(風吹ジュン)に祈っていた。

なぜかこんな時に涼次がいない。さっきまで大納言で田辺としゃべっていたのにどうしたのか。
光江(キムラ緑子)がかけると「女が出た」と柱に半分顔を隠しながら、麦(麻生祐未)とめあり(須藤理彩)に伝える・・・ところでつづく。
やたらでかでかと「携帯電話可能エリア」の看板が出て来るところが、他のいろんな常識はわりとスルーしがちなBE FREE な作風でありながら、病院内で携帯電話をかけてはいけないことだけはものすごく気を使っていることがわかる。
(木俣冬)